第2話 俺は、あの時の事を思い出した――
さっきはとんでもない事態に巻き込まれてしまったが、これからが大事だと思う。
夏休みという事も相まって辺りを見渡せば、大学生くらいの人が数人。小学生や中学生もチラホラといるのだが、全体的に見て、そこまで多くはない感じだ。
先ほど、綾斗は水着に着替え、準備を終えていた。
今から
それはいうまでもなく――
「何、見てんの」
彼女から辛辣なセリフを吐かれる。
その子というのが、美優の双子の妹――
柚希は鋭い目つきで、綾斗の姿を睨んでいる。
一時間前の水着専門店で、彼女の着替え姿を間近で見てしまったのだ。
その事を大分気にしている為か、綾斗に対する不機嫌すぎる態度があからさまだった。
嫌な気持ちにさせてしまったのは申し訳ないと思う。
あの後、何度か謝罪をしたものの、なかなか許して貰えていなかった。
「ごめん、俺のせいで」
プールサイドにいる綾斗は、再び目の前に佇む彼女に頭を下げる。
「別に、謝って貰う必要性はないから。というか、あんたさ」
「な、なに?」
柚希から急な真面目な視線を受け、内心ヒヤヒヤする。
「……なんでもないわ」
彼女は不機嫌そうな顔を見せ、それ以上多くを語る事はしてこなかった。
柚希は背を向け、どこかに向かって行く。
彼女は別のところで泳ぎたいらしい。
極力、綾斗とは関わりを持ちたくないといった印象を受ける。
やっぱ、アレはダメだったよな。
落ち込んだ心境に陥っていると、背後から迫力のあるオーラを感じる。
ふと振り返ってみると、水着姿の美優が、綾斗の方へ向かってきていることが分かった。
「お待たせ」
「う、うん……」
綾斗は唾を呑む。
彼女の胸はデカい。
水着によってさらに強調されたおっぱいに、綾斗の視線はくぎ付けになっていた。
感情が内面から高ぶってくる。
「結構、待たせてしまったよね?」
「い、いや、全然、そんな事はないよ」
綾斗は身振り手振りを加え、彼女に気を遣わせないように言葉を切り返しておいた。
「ね、泳ごっか」
「そ、そうだな」
綾斗は、水着の影響で爆乳さが際立っている彼女の姿を前に動揺しながら返答した。
プールの水に浸かる大学生らも、美優の姿をまじまじと見つめていたほどだ。
「どうしたの? 緊張してる感じ?」
「違うよ。気にしないで」
綾斗の声は震えていた。
恋人が出来たこともない人生。
人生初めての際どい水着を前に、緊張しまくっていた。
活舌が悪くなっている。
「それと、あの子は?」
「えっと、柚希さんの事?」
「そうそう」
「あの子なら、あっちの方に行ったけど」
美優は少々悩み込んだ後――
「でも、あの子にも色々あるからね。でも、そんなに気にしないで」
綾斗の中ではしっくりと来ていなかった。
それから、綾斗は彼女に誘導され、プールに入る。
彼女と遊んでいる時も柚希の事を考えながら、モヤッとした感情を抱いていたのだ。
美優は大丈夫だと言っているが、気になってしょうがなかった。
綾斗は好意を抱いている美優と一緒遊んでいる時も、心の底から楽しめていなかったのだ。
「では、一旦、プールから上がってください!」
プールの係員からメガホンでアナウンスがかけられる。
綾斗も皆と同様に水から上がり、プールサイドへ移動する。
「これからどうする? 少し何か食べる? あっちの方に売店があったから。そこで何か買ってくるけど」
美優は綾斗から買ってきてほしいモノを聞くなり、売店へと向かって行く。
彼女が歩く度に、物凄く胸が揺れ動いている。
綾斗はその場で一人っきりになった。
それから近くの椅子に座る事にしたのだ。
どうしよ。
そんな悩みを抱きながら頭を悩ませていると、遠くの方から声がする。
「いいですから!」
その声は、柚希であった。
彼女は大学生から絡まれていたのである。
綾斗は迷ったが、ここで助けられるのは自分しかいなかった。
他の人は皆、プールサイドから離れ、別の場所へ移動していたからだ。
そして、真剣な目になり、決心を固めるかのように立ち上がるのだった。
「ねえ、今から時間ない?」
「ないです」
「そんなつれない事を言わないでさ」
「でも、私はそういう気分じゃないので」
柚希は冷静な態度で、自身よりも年上の大学生らに対し、返答していた。
「なんだよ、つまんないやつだな」
「そうだぜ、どうせ、一人で来てんだろ。そもそも、そういう誘惑的な水着で来てんのにさ」
大学生らは、柚希の水着姿をまじまじと見つめている。
「別に、あなた達に見せるために、こんな姿をしてるんじゃないんですけど」
「は? さっきから聞いていれば、調子に乗りやがって」
大学生らは態度を一新させ、彼女を睨みつける。
彼らは、どんな手段でもいいからと言った感じに、柚希の右手首を捕まえ、さらに睨んでいた。
強気な姿勢を見せる事の多い柚希が、今、怖がっているのだ。
「すいませんが、やめてもらってもいいですかね?」
綾斗は割り込むように、その大学生に告げた。
「は? なんだ、お前」
「えっと、その子のつれと言いますか」
「は? そうなのかよ。つまんな」
その大学生らは柚希を押し倒し、そのままどこかへ行ってしまった。
「い、痛い……」
柚希は尻餅をついていた。
「大丈夫か?」
綾斗は手を差し伸べてあげる。
「別に、あなたに助けてもらわなくても」
「いいから」
綾斗はしっかりと伝えた。
柚希は諦めた感じに手を伸ばしてくれたのだ。
綾斗は彼女を引っ張り上げるように、その場に立たせてあげたのである。
「というか、なんでここに来たの」
「だって、困ってたんだろ? それに、放っておけなかったから」
「それだけで?」
「そうだけど。でも、やっぱり、助けないといけないって。そんな使命を感じて」
「何それ……」
「俺……さっきはごめん」
「そう」
「だから、責任をとりたいから」
「責任ね」
柚希は少し考えた後――
「じゃあ、私と付き合ってくれない?」
彼女に関しては、突飛な提案だ。
「つ、付き合う? それでいいの?」
「別に、いいし。というかさ、あんた。私の事、わかる?」
「え?」
柚希の顔つきを見、一瞬、過去の記憶がフラッシュバックするかのように、昔の事を思い出す。
それは昔、海で溺れてしまった時の事だ。
あの時、助けてくれた子と重なって見える。
だからこそ、美優を見た時から懐かしさを感じていたのだろう。
綾斗は頷き、その時、ようやく納得したのだ。
「そういう事だったのか……ようやく思い出したよ」
綾斗の様子を伺い、そして、柚希はため息をはいていた。
「じゃあ、付き合うって事でいいよね」
彼女は上目遣いで誘ってくる。
本当に美優と似ているのだ。
どっちがどっちなのか見分けがつかないほどに。
「それでいいよ。まだ、君には、助けてもらった恩があるからね」
綾斗は承諾した。
刹那、背後におっぱいが強く当たる。
気が付けば、背後には美優がいたのだ。
「もしかして、二人って付き合うつもり?」
「まあ、流れで。というか、いつから背後に?」
「ちょっと前よ。そもそもね、私も綾斗の事を狙ってたんだけど」
美優は、綾斗を誘惑するかのように、耳元で囁く。
「でも、お姉さんには渡さないから」
「じゃあ、勝負をしてみる?」
「そのつもりなら、私もそうするわ」
双子姉妹は綾斗を板挟みにしたまま、勝手に話を進めている。
綾斗には恋人ができたものの、これからさらなる問題に直面しそうだと改めて痛感し。恋人ができた今年の夏休みに希望を膨らませつつも、新たな試練を前に、さらに肩に重りがのしかかるようだった。
スタイルの良い、瓜二つの美少女姉妹が、水着で誘惑してくる⁉ 譲羽唯月 @UitukiSiranui
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