スタイルの良い、瓜二つの美少女姉妹が、水着で誘惑してくる⁉

譲羽唯月

第1話 人生の軌道に乗り始めていた俺は”変態”の烙印を押される⁉

「今日って、何か予定とか入ってるの?」


 高校に入学し、初めての夏休み。

 夏休み期間中であっても、午前中だけは学校に行く必要性があった。


 いつ学校に通うかは、自分で決めることが出来る。

 だからこそ、教室内には彼女を含めて五人しかいなかったのだ。


 話しかけてきた美少女は渡辺美優わたなべ/みゆ。茶髪のロングヘアが似合うその彼女は、椅子に座っている新井綾斗あらい/あやとの目の前に佇み、返答を待っている。


 皆が挨拶して、教室から立ち去って行く中――


「特にないから、大丈夫だけど」

「本当? じゃあ、どこかに寄って行かない?」


 美優から笑顔で誘われる。

 学校で一番の美少女から誘われる事なんて、そうそうない。

 しかも、スタイルも抜群なのだ。


 このチャンスは絶対に逃せないし、ビックウェーブに乗ろうとする。


 綾斗は承諾するように頷いた。


 今までの人生で恋人なんてほぼできなかったが、これからの人生は目一杯楽しんで生活していきたい。


 今年の夏こそは、恋人を作ってデートをしたいと思う。


 心で決意を固めるのだ。


「どこに行くかは決まってるの?」

「それはやっぱり、夏だからプールとかどうかなって?」

「プール?」


 さらなる急展開に心が震えた。


 美優とプールに行くという事は、彼女の水着姿が見れるという事だ。


 当たり前の状況ではあるが、このラッキーチャンスに、綾斗は胸を高鳴らせていた。


 それと同時に思う。


 昔出会った、あの子に似ていると――


 同一人物かはわからない。

 でも、茶髪だったのは間違いないと思う。


 入学式のあった四月の頃から、既視感があったのだと自分を納得させていた。


「いいよ。行こうか」


 綾斗は昔の出来事を思い出しながらも、楽し気な口ぶりで返答する。


「ほんと? じゃあ、決まりね」


 美優は自身の席に戻ると、さっそく学校から立ち去る準備を整え始めていた。


 綾斗も椅子に座ったまま、夏休みの課題を通学用のリュックに押し込み、後片付けを始める。


 二人の準備が整ったところで、静かになった廊下を歩き、昇降口から外へ出るのだ。






「そう言えば、他の子から聞いたんだけど。綾斗君って、水泳をやってたんでしょ?」


 通学路を移動している最中、隣を歩いている彼女から問われた。


「まあ、一応ね」

「私、水泳がそんなに得意じゃないから、泳げる人って凄いなって! それで、いつから水泳を始めたの?」

「えっと、確か、小学生の頃だったかな」

「へえ、そうなんだ。だから、体つきがいいんだね」


 彼女は綾斗のことを褒めながら肩を触ってくる。


「そ、それほどでもないさ」


 少々照れ臭い。

 急激に距離が狭まると反応に困る。


 綾斗は頬を指先で触ってしまう。


 頬が赤く染まっていく。


 次第に鼻の下が伸びそうになっていたが、彼女に悟られまいと全力で表情をコントロールするのだった。


「でも、俺は今はやってないんだけどね」

「どうして?」

「それはさ。昔、海に行った時に溺れてしまって。それから親が心配するようになって。水泳はやるなって言われてさ。その結果さ、水泳部自体に入れなくなってわけなんだ」

「でも、綾斗君は悲しくないの? ……え、だとしたら、プールにも行けないんじゃ?」

「いや、それに関しては大丈夫。親が見てるわけじゃないし。バレないようにプールに行けばギリギリね」


 綾斗は彼女の水着姿を見たいといった本心を隠し、嘘までついた。


 まあ、今日に限って親がプールまで介入してくることもないだろう。


 元々持っていた水着は全部、親によって処分されているが為に、プールに行くなら新しく水着は買わないといけないのである。


 そこに関しては色々と手間がかかるのだが。

 そればかりはしょうがないと思ってしまう。


「水泳禁止って事は、水着は一応保管してるとか?」

「それがないんだよね」

「そうなんだ。じゃあ、買わないといけないね。私もまだ持ってないんだよねー」


 美優は悩んだ末、街中に水着専門店があったはずだよね、と思い出すかのように続けて言ってきた。


 確かに、街中には水泳関連の専門店がある。

 昔は綾斗も、そこをよく利用していた。


 学校指定の水着から、試合用の水着まで多様に取り揃えているのだ。


「決まったからには、そこに行こ」


 美優は買う気満々だ。

 彼女は少々強引にも綾斗の手を引っ張る。


 彼女のテンションの高さに圧倒され、導かれるように、綾斗は通学路を少々駆け足気味で移動し、街中へと急ぐのだった。






 今、二人は店内にいる。

 この街でもかなり大きな水着専門店だ。


 綾斗が通っていた頃とは違い、知らない間にリニューアルしていたらしい。


 水泳をきっぱりと辞めて、三年くらいが経過しているが、時代の流れは早いのだと実感してしまう。


「綾斗君も一緒に探してくれない?」


 美優は女性の水着売り場にて、隣に佇む綾斗に対し、さっき選んだビキニ系の水着を見せつけてきた。


 右手には、ピンク色のフリルの水着。

 左手には、緑色のちょっと大人びた水着。


「これと、これ、どっちがいいかな?」


 どちらも際どい感じの水着である。


 綾斗が水泳をしていた時は、周りの女の子らは皆、学校指定のスク水姿だった。


 極力、卑猥な感情にさせないための対策なのだろう。


 恋人など、今までいた試しのない綾斗からしたら、それだけでも胸元が熱くなるのには十分だった。


「綾斗の意見も聞きたいんだけど」

「えっと、じゃあ、こっちの方かな」


 綾斗は選ぶ以前に頭も熱くなり、オーバーヒート状態だった。


 水泳をしている時は、全然気にすることもなかったのに――


 まじまじと女の子の衣装を見る羽目になり、視線の先には胸のデカい彼女がいる。ゆえに、美優の制服の中を不覚にも妄想してしまう。


 そんな卑猥な事は――


 平常心を保つことに必死だった。


「じゃあ、こっちの方ね」

「あ、ああ」

「んー、でも……じゃあ、どっちも着ようかな」


 最終的な彼女の結論を耳にするなり、ドッとした疲れを肩に感じ始めていた。


 さっきの緊張感を返してほしい。




「私、あっちの試着室に行くから。綾斗君も後で来てね」

「わかった。俺の方も水着を選んでくるから」


 二人はその場で別れた。


 綾斗は男性用水着である海パンエリアへ向かい、サッと手慣れた感じに品定めをする。


 その後で、女の子の水着エリアを歩く事に恥ずかしさを覚えながらも、美優がいる試着室前へと向かうのだった。




「ん?」


 綾斗が現地に到着した頃、試着室に入っていく彼女の後ろ姿が見えた。


 アレ?

 美優さんって、ずっと前に試着室にいたんじゃないのか?


 不思議な感覚に襲われつつも、その試着室のカーテン前に立つ。


 ここで待っていればいいのだと思いながら、ジッと待っている事にした。




「綾斗君」


 試着室のカーテン越しに、話しかけられる。


「着替え終わったから、カーテンを開けてもいいよ」


 美優からの積極的な指示を貰う。


「いいのか?」

「うん、いいよ」


 美優から承諾を貰っているが、綾斗は緊張したまま、背徳に心を支配されながらもカーテンを開ける。


 すると、そこには水着姿に着替え途中の、茶髪ロングヘアな彼女がいた。


「ん?」

「え……」


 その時、時間が止まった。


 確かに、試着室に彼女は居た。

 だが、それは同時に彼女ではなかったのだ。


「え? どうしたの?」


 止まった時間が動き出すかのように美優が、ひょっこりと隣の試着室から顔を出してきたのだ。


「私、こっちの方なんだけど」

「え……じゃ、じゃあ、この子は?」


 美優とほぼ同じ見た目をした女の子が、隣の試着室にいたのである。


「え? なんでここに、あなたがいるの? というか、偶然ね」


 その子は、話によると美優の双子の妹らしい。


 その試着室にいた妹――渡辺柚希わたなべ/ゆずきは、みるみる内に顔を真っ赤にし、“変態”と、綾斗に対して怒涛の声を荒らげる。


 それから店内がざわつき、綾斗の人生に亀裂が入り始める音が聞こえた気がした。

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