第5層 世界で一番 宝の持ち腐れなチート
アスタロトの突然の提案に、所内は再びざわめきたつ。
フ、フルリノベーション!?
しかも冒険者の大量討伐を目的とした高難易度ダンジョンに変更!?
「あの! いいでしょうか!」
私は手を挙げると、
「初心者冒険者の集う町で高難易度ダンジョンを作っても、誰も訪れないのではないでしょうか!」
と率直に意見を述べてみる。
しかし、アスタロトは鼻で笑うと
「本当にそう思うか?」
と逆に質問を返してきた。
初心者の町に高難易度ダンジョンを作る意味……?
私は腕組みをして考えてみる。
なんだろう、初心者冒険者が攻略のために強い冒険者を雇ってくれるとか?
いや初心者にそんな財力はない。高Lv帯の冒険者の雇用は高額だ。
他の理由……高Lv帯の冒険者、雇用……あ!
「教官……ですか?」
するとアスタロト「正解だ」とニヤリと笑った。
「初心者の教官役として、冒険者ギルドが雇用した高Lv帯の冒険者を狙う」
冒険者。これはざっくり言うと、モンスターと戦って素材を売ったり、ギルドの依頼をこなして報酬を得ることで生計を立てている、戦闘を生業とした自由職のことだ。
近年では冒険者出身の英雄が、大帝国の王となったことをきっかけに、冒険者の人気が急増。
様々な若者が冒険者になるためにギルドの門を叩くのだが、戦闘の経験も知識もない者たちが多く、放っておくとすぐに死んでしまうため、冒険者ギルドが後進育成のために歴戦の冒険者を教官として雇っているのだ。
ワカバ―の町の冒険者数は約100人ほど。逆算して、うち20人以上は教官役の冒険者だろう。
「教官役とはいえ、やつらも現役の冒険者。己の腕は磨きたいだろうし、ダンジョンがあれば潜りたくなるだろう。なぜならば、それが『冒険者』だからな」
な、なるほど。至言である。
「あと言っておくが、初心者の受け入れは辞めない。冒険者を育てるダンジョンというのも、この業界には必要だからな」
そう言うとアスタロトはホワイトボードになにかを書き始めた。
「具体的には、初心者のみ対象のダンジョンを辞めて、幅広いLv.帯の冒険者を対象としたダンジョンに変更する」
内容はこうだ。
『イキュラス孤島のダンジョン・改』
難易度:★2~★8
階層数:3層
1層中ボス:Lv.20のモンスター
2層ボス:Lv.50のモンスター
3層大ボス:Lv.80のモンスター
生息モンスター:Lv.5~80
メイン報酬:【ランクS】または【ランクA】
目標討伐者数:Lv.50~80の冒険者 10名ほど
Lv.80!?
要求スペックの高さに所員は互いに顔を見合わせる。
この世界において、Lv.とは強さの指標である。戦いを経て経験値を貯めることでLv.が上がっていくが、成長には傾斜があり、高Lv.になるほど上げ辛くなる。
Lv.80となると、界隈でも有名な一流の冒険者クラスである。
なお、およそ常人が努力でたどり着けるのはLv.100までだと言われている。
「この中でLv.80に到達しているものはいるか?」
アスタロトは所員を見渡すが、みな、シーンとしている。
ここにいるのはダンジョン制作のプロであって、戦闘のプロではない。
Lv.はあくまでも強さの指標なので、みんなあまりLv.は高くないのだ。
私はなるべく空気になって押し黙っていると、骸田所長が、
「Lv.80を超えている所員は、私と不知火アンくんの2人だけだね」
と、私にとって大変ありがたくない発言をした。
うわーん! 所長ったらなんで言っちゃうかなぁ!
「なに? こいつがLv.80越え?」
アスタロトは驚きを隠せない表情で私を見ると、
「お前、Lv.はいくつだ? 種族は? 使える魔法やスキルは?」
と矢継ぎ早に質問してくる。
答えたくはないが、仕方がない。私は重い口を開く。
「Lv.は230で種族はアンデッド。使える魔法は……初級の回復呪文、です」
「はぁ!?」とアスタロトは驚きのあまり目を見開いた。ちなみに所員のみんなも同じ顔をしている。
「Lv.230だと!? お前が!? 正直全く信じられん。Lv.200以上というのは、魔神や魔王または伝説の勇者クラスだぞ!? そんな災厄級の強さを持つ魔族が、こんな弱小工務店で働いているなど前代未聞だぞ!」
いや、本当におっしゃる通り、自分でもそう思います。
「それで? お前は一体どんな大魔法を使えるんだ?」
「い、いや、それが……初級の回復魔法のみ……です」
アスタロトは再び「はぁ!?」と唸ると、私の肩をガッと掴む。
「Lv.230のアンデッドが使える魔法が初級のみなわけなかろうが! しかも回復魔法、だと? アンデッドが回復魔法を使えるか! 嘘も休み休み言え!」
ガックンガックンと肩を揺さぶられ、視界が回る。誰か助けてー!
「いや、彼女の言っていることは本当だ。不思議なことだが、入社時に計測したから間違いない。彼女は超高Lv.のアンデッドでありながら、なぜか初級の回復魔法しか使えないんだ」
と骸田所長が答えた。
アスタロトはまるでこの世の者ではない、なにかを見るような目で私を見た。
アンデッドなだけに。
ちなみに他の所員も同様である。
わぁぁぁぁん! こういう反応が予測できたから隠してたのに!
私だって訳がわからないし、何かの間違いだって思ってるけど、計測器には確かにLv.230と表示されたのである。
みんなの視線が痛くて私は思わず膝に頭を埋めた。なんならそのまま穴でも掘って、墓石を建てて永眠したい……!
居たたまれなさに死体に出戻りそうな私を見た骸田所長は、うっかり口を滑らせたことを申し訳なく思ったのか、スマートに話題を変えた。
「いや、それにしても、アスタロトくんの提案は流石だね。ランキング上位30位を狙うなら、これしかないと思う」
「みんなもそれでいいかな?」と所員を見渡して確認すると、みんな首肯した。
「では時間がないから早速取り掛かろう。今日は各部門に分かれて業務の整理と準備を。リノベだけではなく増築の準備も必要だから、資材の運搬も忘れずにね。明日は朝から現地集合だ!」
「はい!」
「よし! それでは会議はこれで終了。解散!」
所員はみな、明日の準備のためにいそいそと会議室を去っていく。
私はまだ気持ちが切り替えられず、ウジウジと腐っていると(アンデッドなだけに)、
「アン、ちょっといいか?」
と後ろから声をかけられた。そこにいたのはーーー
※
場所はかわって所長室ーー
所長室には現在、骸田所長とアスタロトの2人きりである。
アスタロトは所長室にある皮張りの来客用のソファにどっかりと座り、煙草をくゆらせている。
正面には、深々と膝を折る骸田所長。
そんな骸田所長にアスタロトは、フーッと煙草の煙を吹きかけると尊大な態度で口を開いた。
「骸田マミーよ。貴様、これは一体どういうことだ」
息が詰まりそうなほどの威圧感。骸田所長は体をこわばらせると、
「誠に面目次第もございません、猊下。猊下より賜った栄えある『魔王御用達』の看板に泥を塗ってしまい……」
と震える声で答える。
「猊下、はよせ。今はただのしがないコンサルタントだ。雇われの、な」
アスタロトはまだ半分も吸い終わっていない煙草を、首を垂れ続ける骸田所長の帽子に押し当てると、
「安心しろ、俺が来たからには必ずこの工務店を蘇らせてやる。そう……」
「どんな手を使ってでも、な」
と、地を這うような低音でささやいた。
「骸田マミー、貴様にも存分に働いてもらうぞ、よいな?」
「はっ……!」
と敬礼をとる骸田所長を一瞥して、アスタロトは部屋を出ていく。
後に残されたのは、震える骸田所長と焼け焦げた帽子だけだったーーー
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