ディシープ・ディスペアー

天崎栞

最期





 母について知っているのは『朋花』という名前、

そして“あの独特な人間味ある雰囲気”だ。

桜が散る様な、独特な微笑み。












 私と母は、見間違えられるくらいに、よく似ている。

ただひとつ違うのは、人間味のある雰囲気の母と違い、

私は機微のない人形の様な仮面だ。












 要は、温かみと冷たさ。






 それだけが違う。








 




 此処まで母の事は思い出せるのに

どういう人だったか、どんな生活をしていたか

それだけは何も覚えない。思い出せないままにいる。








 そして、私も、私自身の事を知らない。

本当の名前も、誕生日も。だから『朋花』という人が

本当に母親なのかも、分からない。




 






 だから、こんなにも現実味はないのだ。












私の目に映るもの、音や声は、全ては、現実なのか。






 本当に、朋花という人は、私の母親なのか。

そして本当に私は『桜木香澄』という人間なのだろうか。






 信じていいのか、

分からないまま、私は生きている。








____ある秘密を除いては。











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