少し休憩を挟んで、今は電車に揺られている。

土曜の昼過ぎということもあり、結構混んでいた。


なんとか座れる場所があったので、秋保と隣り合わせに座ってスマホを弄っている。


「そういや、今から水族館に行くんだっけ?」


「そうね、結衣にカップルなら無料で入場できるチケットをもらったのよ」


「へ~、こういうのは使い道がないから別な人に渡すようにいいそうだけどね、秋保なら」


とか言いつつ、実はこうなることは知っていた。

彰人にスマホを見せつけられた時に一通り会話を見ちゃったからな。


でも、本当に俺と行くと思わなかったけど。


「普段なら私も断ってるわ。……まぁ、複数枚合って勿体ないからもらったのよ」


「ふ~ん」


「な、なによ……」


「な~んでもないよ~?」


秋保の言い訳を聞きながら、降りる駅からの移動方法を調べる。

水族館前に着くバスがあるらしいので、それに乗ればいいのかな。


「もう……。富樫君は水族館とか行ったことある?」


「記憶にはないかな~。小さい頃に何回か行ってるみたいだけど、全然覚えてないわ」


「そう、私は行ったことないのよね」


意外だ。

水族館って割とイベントとかやってて、女子の映えスポットになってそうだけどな。


「水族館ってデートスポットって感じがして、あんまり女子だけじゃ行かないのよ」


「デートの時の感動が減るから~、みたいな理由?」


「そうよ、知ってたのね?」


「知ってるというか、そんなこったろうってな」


どんだけ、デートの場所に気を遣うんだよ……。

女子って大変だな~……。


「というか、今の俺らもデート扱いなのか?」


「……そうよ」


「ふ~ん、デートだったん……え?」


えーっと……。

なんと申せばよろしいですかね……。


意識されてないと思ってたから普通に買い物している異性友達くらいにしか意識してなかったわ……。

というか、そうじゃないと俺の平静が保てなかったからな。


「……男女が二人で出かけるんだからデートでしょ?なにかおかしいかしら?」


「そうか、男女が二人っきりで出かけるとデートなのか……」


気まずい……。

ラブコメ小説とかではそういう解釈だが、現実だと興味ない異性と出かけてもデートにはならないと勝手に思ってたわ。


というか、意識されているのか?


「と、富樫君っ」


「な、なに?」


「私と出かけてて楽しい……?」


何を言い出すかと思ったらそういうことかよ。

そういうことを気にする性格でもないだろうに……。


まぁ俺も秋保もどっちも異性と出掛けるのなんて恐らく初めてだろうしな。

楽しく思ってもらえているか不安だよな。


「何言ってんだよ、楽しいに決まってるだろ?」


「そ、そう……」


「気にすんなよ、秋保と出かけて楽しくないと思う男はいねぇよ。それに俺だって秋保に楽しんでもらっているか不安だったしな」


ボーリングを一緒にしてくれて楽しんでもらっているところを見れたので俺は満足していた。

電車の中で少し考える時間が出来たせいで余計な考えが巡ったんだろうな。


「仮に今やってるのがデートというなら楽しませるのは男の役目だろ?」


「富樫君……」


「気にし過ぎだって。なんか別な話しようぜ、たとえば~」


何が良いかな?

プライベートなこと聞いていいのか?

家族構成?秋保の誕生日?


まぁ、この前聞いた下着事件よりは聞きやすいか……。


「兄弟っているのか?」


「私は一人っ子よ。一人っ子って珍しいらしいのよね」


「あー、言われてみれば周りにあんまりいないよな~」


「そういう富樫君は兄弟いるの?」


「俺も居ないぞ~。両親の一夜の過ちで出来たのが俺っぽくて、子育て一人するだけでも大変だから2人目はいらない~ってなったらしい」


個人的に弟欲しかったけどな。

一緒にゲームしたい。


「ね、ねぇ私も聞きたいことあるんだけど……」


「ん、なに?」


「誕生日……」


と、なにか言いかけたところで降りる予定の駅に着いた。

アナウンスで意識が一気に別な方向に向いた。


「お、ここじゃね?」


「……そうね」


「バスの時間も1本逃すと中々来ないから急ごうぜ」


無意識で手を差し出した。

一瞬悩んだ素振りを見せた秋保だが、俺の手を取り、逸れないように人混みを進む。


改札を出てバス停を探す。

水族館行きのバス停がちょっと遠かったので、走って向かう。


バスの中もちょっと混んでいて座る場所はなさそうだった。

手すりに捕まって、秋保を近くに寄せた。


「混んでるなー」


「そ、そうですね……」


「ん?どったの?熱いか?」


顔が真っ赤だった。

まぁ人混みだし、ちょっと走ったからな。


ぬるくなってるけど、昼食ったあとに買ったスポドリなら残ってた。

それを秋保に差し出した。


「スポドリ飲む?」


「だ、大丈夫です……」


「そう?」


大丈夫そうではないけど、まぁ無理強いするのもアレかな?

そんな遠くないから大丈夫だと思いたい。


バスで揺られる。

信号などで止まる際、遠心力で秋保が俺の方に寄ってくる。

そのたびに、「きゃっ」っと声をあげる秋保に毎回ドキっとしてしまう。


10分くらいバスに乗ってれば、目的である水族館前に着いた。

周りは家族連れかカップルがほとんどだった。


「ここも混んでるな~」


「い、今ペンギンに餌あげ出来るイベントがやってるみたいです……」


「そうなの?……あ、20分前に終わっちゃってる」


近くにイベントの開催時刻が表示されている広告があった。

残念だけど、仕方ないね。


「じゃあ入場しよっか?」


「は、はい……」


秋保と繋いでいる手を引っ張って受付へ向かう。

終始、秋保は顔を真っ赤にしていた。


「入場チケットはご持参ですか?」


店員さんが俺らを見てチケットの確認をしてきた。

秋保が気まずそうに俺に声を掛けてくる。


「あの、手……離していいですか?じゃないとチケット取れないので……」


「あ、ああ……」


バックからチケットを取り出す秋保。

俺は繋いでた手を見て少しずつ俺のやっていた行為を自覚していく。


え、いつから繋いでたんだっけ?

え、やばくね???


だから顔が真っ赤だったのか?!

だから敬語だったのか?!


うおおおおお、やらかしたぁぁ!!!


「はい、確認しました。どうぞごゆっくりなさってってくださいね」


店員さんの初々しい俺らを見守る優しい目によって気まずさが倍増した。

秋保も顔が真っ赤のまま。


「い、いこっか……」


「は、はい……」


声は掛けたけど気まずい……!

誰か助けてぇぇ……。


心の臓の鼓動が激しくて死んじゃいそうです……。

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