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朝起きて秋保からのメッセージにホッとした。
それから何通か話して登校の時間だからと会話が途切れた。
制服を着用し、家を出る。
なにやら母さんが疑わしい視線を送ってきたが、俺が誰かと連絡してるのがそんなに不自然だったのだろうか?
いつも通り家から駅までチャリを漕ぐ。
電車に乗り換え、5駅分移動する。
1駅くらいだったら自転車でもよかったが、さすがに遠いからね。
電車の中は高校生とサラリーマンで溢れている。
仲の良いグループの小言での会話やイヤホンをしてスマホを触っている人など様々。
俺はスマホでゲームをして時間を潰す。
そんなんで電車に揺られること数分、高校の最寄りの駅で降りる。
ここには工業校と進学校の2校が存在する。
工業校の制服がほとんどで、進学校はなぜか電車通学が少ないのだ。
「おっす、富樫~」
「お、渡辺じゃん、おっす」
「お前、今有名人だぞ?」
「なんでじゃ?」
なんか悪いことやったっけか?
テレビなんて出たことねぇし、なんかの大会で有名になった記憶もVtuberの配信で無双した記憶もない。
「昨日、モールでデートしてたろ?」
「デート?」
「しらばっくれるのかよ!女と一緒に居ただろ?!」
「あー、あー……」
え、そんだけ?
とか思ったけど、まぁ秋保かなり美少女だったしなぁ……。
「あきh……柚木ってそんなに有名人?」
「お前……。柚木秋保って言ったらここら一帯で知らねぇやつがいない程美人なんだよ。それに入学して3か月で既に同校の男子は玉砕。文武両道で女子からの信頼も厚いと来た」
「へ、へぇ……」
まぁそんな感じはしてたけど、まさかそこまでとは……。
つうか、なんで他校の、しかも入学して3か月くらいしか経ってない女子生徒の噂が俺らの高校まで流れてるんだ?
「そんな柚木秋保が! 男と! 歩いて! しかも! 手を繋いでいるところを目撃! その相手がまさかのお前って言うじゃねぇかよ!」
一々区切るな鬱陶しい!
しかも、外野も居るし!
自然と俺を取り囲み、逃がさないという意思が伝わってくるほど密集した男軍団。
恐怖でしかねぇわ……!
「なるほどなぁ~……」
「なるほどなぁ~じゃねぇんだわ……。んで、生の柚木秋保はどうだった?」
「「「ごくり……」」」
ごくりって……。
生唾飲み込むにしてははっきり言いすぎじゃねぇかな?
「親しみやすい後輩って感じ?」
『はぁ?』
「お前ら怖いわ……」
ありえねぇみたいな目で見てくるなよ……。
嘘は言ってねぇよ。
「じゃあ電話してみっか?」
『……っ?!』
「敵を見る目から勇者を見るような視線に変わったな……」
「おま、柚木秋保の声を聴けるんだぞ!俺ら工業生には一生縁のないような事件だぞ!」
「そこまでか……?」
まぁ、たしかに俺もあんな美少女と知り合えるなんて思ってなかったしな。
というか、昨日と今日で俺自身に変化あったのか?
昨日の俺に連絡を交換した次の日に女子に電話しようとしてるなんて言っても信じてもらえねぇだろうしな。
そんなもんか……。
「でも、でっかな~?」
連絡先を開き、通話ボタンに押そうと踏みとどまった。
昨日今日で連絡するのってどうなんだろうか?
まぁ。嫌われてもダメージは最小限で済むよな。
『ごくり……』
「期待がやばい……。よし、掛けるぞ……」
土手沿いを歩いていた俺らは一旦立ち止まった。
後続にいた生徒にも話が伝わっていき、30人もの人が俺を中心に密集している。
何コールか続く。
期待からさすがに出ないかと諦めた周囲と安堵感に満ちている俺。
だが、あと1コールで出なかったら諦めようかと思っていた時、通話口から声が聞こえてきた。
『もしもし?』
「「「女神ぃぃ……」」」
最も近くにいた数人がぶっ倒れた。
◇◆◇◆◇◆◇
教室で読書をしていた。
内容はあんまり頭に入ってこないが柚葉も結衣もまだ登校してないので誰にも絡まれないようにしていた。
何度かスマホに視線を向けるがなんの音沙汰もない。
「はぁ……」
「どうしたんだい、ため息なんて吐いて」
「入江君じゃない、どうしたの?」
「愛しの秋保が溜息を吐いていたんだ、気になるだろ?」
「きも……」
「照れちゃって!」
ナルシストが……。
顔がいいだけの女の敵が私に話しかけるんじゃないわよ。
はぁ、先輩だったらよかったのになぁ……。
って、朝から富樫先輩が脳裏から離れないんだけど~~!
「用がないなら消えて」
「失礼な、用がないわけではないよ?」
「じゃあ早く用件を告げて消えなさい」
「毒舌だね~。まぁそういうところが可愛いんだけどね?」
手を伸ばして頭を触ってこようとしたので手をはじいておいた。
セクハラで訴えてやろうかしら?
「柚葉のことさ。今日は休むと伝えてくれってさ」
「あら、柚葉が休むなんて珍しいわね……」
根は真面目なギャルだ。
遅れてくることはあっても休むことはなかった。
体調を崩したのかしら?
「さすがの秋保でも心配かな?でも、体調を崩したわけではなさそうだよ?足腰が痛いから休むって言ってたからね」
「……」
「お、なにか心当たりあるようだね?」
「まぁね……」
「まぁそれだけだから、またね」
そういって入江君は去っていった。
とはいっても3つ前の席だから去っていったってほどではないけど。
それにしても、やはり喰われていたようね……。
でも、そんなにやばいのかしら……。
「……ん?結衣かしら?」
スマホが揺れた。
もしかしたら結衣も今日は休みかしら?
二人共ハッスルしすぎじゃないかしら?
「え……?」
颯真って誰だっけ……?
あ、え……富樫先輩?!
「どうしよ、出た方がいいよね……」
動揺が隠せない。
私に視線が集まる。
普段感じている視線よりも多い。
「……ここでは目立つわね」
一旦トイレへスマホを持って移動する。
人気ない場所なんてトイレくらいだもの。
「よし……。もしもし?」
『女神ぃぃ……』
「はぁ?」
訳が分からなくなった。
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