4 秋保視点あり

んん~!

どうしちゃったんだろ、私……。


家に着き、部屋で制服を脱いだ下着姿でベッドにダイブした。

視線の先には先ほどまで一緒にいた男の子の連絡先。


どこにでもいる人だった。

なんならもっとかっこいい人だっているのになぜか思い出すのは富樫先輩だった。


「生意気だったよね……」


普段から気を張っているので語尾も強めだった。

だけど、富樫先輩は全く嫌がる仕草すらなかった。


最初こそ頼りなさそうだったけど、話しているうちに絡みやすい人だし聞き上手だった。

揶揄っても反応が面白かった。

でも、反撃をもらうなんて思ってもなかった。

不意に頭を撫でられたときは心臓が飛び出そうなくらいびっくりしてしまった。


「んん~!はずかしぃぃぃ……」


そのあとは場所を移動するために手首を握ってきたんだよね。

漫画だったら絶対に手を握ってくるはず。

よくいる鈍感系主人公ではないんだろうか?


「でも、なんか……」


胸がモヤモヤする。

私ってチョロインなの?


たった1時間くらいで好きになっちゃったっていうの?


「……ありえなくないかも」


だって、今連絡しようか悩んでいる私がいるんだもの!

ちょっと強引でも大丈夫だと思うけど、でも……!


「連絡先を交換したんだからチャットを送るのはおかしくないよね……」


なんて送ろうかな。

今日はありがとうございました?

いや、こちとらおこぼれ扱いだったのに私からお礼言うのはなんか嫌だわ。


というか、思い出したら少し腹が立ってきたわ!


そうよ、私がおこぼれ扱いだったのよね!

……たぶん、おこぼれ扱いされたから普段と違うことに施されたのよね。


「あああ!だめだぁぁ!結局思い出しちゃう!」


スマホを投げ出し、枕に顔を埋めて叫ぶ。

私にとって初恋だ。

しかも、チョロインだった私に驚いたが、なんとなく理解も出来てしまう。


「普通の女の子扱いされたの初めてだもん……」


それからお母さんに呼ばれるまで私は照れと怒りを繰り返した。






◇◆◇◆◇◆◇






帰宅し、溜まっているゲームの日課を消化する。

それから風呂に入り、飯を食う。


日常に戻ったのだ。


先ほどまでが夢であったかのような感じ。

どこか浮ついた気持ちはいつの間にかなくなっており、いつも通りインクを飛ばして塗り合うオンラインゲームをしていた。


2時間ほど経過し、1時も回ったので寝ようとベッドにダイブする。

充電していたスマホを確認すると1件メッセージが届いていた。


「彰人か?柚木……?」


連勝して調子乗ってプレイしていたので全然気づかなかった。

20時にメッセージが届いていた。


「え……!あ、やばい……?」


既読付けて返信する?

いや、1時に返信するのか?!

まじ、どうしよ!


明日彰人にどうすればいいか確認するか?

いや、今……は彰人が寝てるか……。


「ええい、返信しちまえ!」


メッセージを開く。


「内容は……『よろしくおねがいします』か」


たぶん、連絡先を交換したから連絡してきただけだよな?

無難によろしくでいいのかな?

たぶん、あっちから連絡返ってこないと思うし……。


「いや、普通に返すか。『今日はごめんね、よろしく』っと。って、1時だけど今日でいいのかな?まぁなんとなく察してくれるでしょ。送信っと!」


寝ようとし、スマホおこうとしたとき、ふと気づいた。

すぐに既読がついたことに。


「え、なんか既読ついてるんだけどぉぉ?!」


それから一応返信が来てもいいように起きていたが一向に返信が来ない。


「既読無視って結構傷つくな……」


結局寝たのは2時を過ぎた頃だった。





 

◇◆◇◆◇◆◇






私は目覚めた。

まだちょっと外が暗い。


「ああ、寝落ちしちゃった……ん?ああああああっ!!!!」


スマホで時間を確認すると5時半だった。

そして画面は最後に連絡して返信待ちだったチャット画面だった。

何時に寝ちゃったのかわからないけど、返信が返ってきた時間が1時過ぎくらい。

でも、既読は付いてるわけで……。


「え、やばいかな……?」


嫌われちゃう?!

いや、嫌われるくらいならまだいい。

今返信して既読無視されるほうが傷つく!


「でも、返信しないと……っ!」


なんて返信しよう!

昨日のお詫びに買い物行こうって誘おうかな?

って、それはデートじゃん!

寝起きで頭お花畑になってるんじゃないの、私!


「無難でいいよね?本当に?会話終わっちゃわない?」


朝から悩むなんていつぶりかしら……。

うーん、既読無視しちゃってる件でも謝っとこうかな。


「『寝落ちしちゃってました!既読無視してごめんなさい』っと。はあ……。目が覚めちゃったし少しシャワーでも浴びよっかな」


冷や汗がすごいからね。

あといつもより丁寧に手入れしないと。

好きな人が出来るってこんな感じなんだろうな~。


いままで馬鹿にしてたけど、全然バカにできないわね。

恋は盲目っていうけど正しく盲目状態ね、今の私。


着替えをもって浴室へ。

途中でお母さんが起きてきてびっくりしていた。

まぁいつもより起きるの早かったもんね。


でも、だからといって好きな人でも出来たって聞いてくるのはちょっとどうかと思うわ!

早く起きたくらいで好きな人できたと疑うとかお母さんはどういう考えをしているのかな?


「いや、お母さんだし、案外私と同じチョロインだった可能性あるか……」


なんか腑に落ちた気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る