「富樫君ってどこの高校?」


「この駅より1つ奥の工業校だよ」


「ああ、あそこね。なんで工業校に行ったの?女の子がいないことなんてわかりきってるじゃない」


ただいまショッピングモールで適当にぶらつきながら会話をしております。

隣で歩く秋保さん……秋保にみんなの視線が集まっているのが俺にかなり伝わってくる。

中には俺に敵意を向ける男子高校生もいる。


不可抗力なんですよぉぉ!!


「勉強しなくてもいけそうな高校探してたのと、大学行きたくなくって就職できそうなところを探していた、かな?」


「そう。結構ふざけた理由とちゃんとした理由なのね」


「そういう秋保はどこ校なんですか?」


「なんで敬語?あ、もしかして2年生?」


「一応、2年生だけど……」


「じゃあ先輩なのね」


「え、1年生なの……?」


いや、まさかとは思ってたけど、1つ年下とは……。

年下にリードされるとか恥ずかしい……!


「そうね、4月に入学したばかりよ」


「なんかごめんね……」


「なんで謝るのよ?あ、敬語のほうがいいですか?」


「今さら取り繕っても意味ないよ?」


「そうね、富樫君相手に年下ムーブしても仕方ないわね」


「ちょ!それはそれで傷つくんだけど!」


最初こそツンケンして取り付きのなさそうだったけど話してると結構話しやすい。

遠慮されないってのもあるけど、上手いくらいに話してくれるし、テンポも悪くない。

あと、弄られるもが丁度いいってのもある。


Mじゃないよ?

たぶん……。


「ふふ、そーませんぱ~い!」


「ぐふ……」


「ぶっ……!」


急に小走りになり、俺の前に上目遣いになったと思ったら甘い声で先輩呼び。

富樫颯真がクリティカルヒットで瀕死に陥った。


俺の反応に満足したのか、笑いを堪えている。


「くっそ……」


「さすが富樫くんね。予想通りの反応だわ」


「バカにしやがって……!」


「ふふっ」


こうなったらやり返すしかない。

だけど、やり返していいのだろうか?


いや、どうせこれっきりだ!

やってやらぁ!


俺は手を伸ばし、いまだ前かがみの秋保の頭に手を乗せる。


「仕返しだ!」


「ひう!」


ただ頭を撫でるだけだ。

だが、過剰に反応された俺は手を引いてしまった。


え、なんかかなり悪いことやってしまった気がする!


「ご、ごめん!」


「あ、いえ、びっくりしただけです……」


なんか急に敬語なんだが?

しかもなんか語彙に迫力がない。


えええ、本当になんかやっちゃいました?!


「急に触ってごめんね?」


「いえ、本当にびっくりしだただけだから……」


「そっか……」


敬語は戻ったけど、なんかナンパして余ったときより気まずい!

と、とにかく場所を移動しないと!

周りの視線が痛い!


「ここだと目立つのでと、とにかく移動しよう!」


秋保の手首を掴んで半ば強引に人気の少なそうな端のほうへ向かっていく。


「っ!」


ちょ、手首握っただけで過敏に反応しないでよ!

罪悪感がすごい!


「ここなら大丈夫かな……、えっと、大丈夫?……秋保?」


「だ、大丈夫です……」


「もしかして……」


「っ!」


「お腹痛くなっちゃった?!」


男慣れしてない?とか聞けないじゃん!

いや、今までの反応みてるとたぶん男慣れしてないんだろうけど……。


ちょっと鈍感のフリしようとしたらさっきまでちょっと赤かった顔に陰りが現れた。


「はぁ?」


「え?」


やべぇぇ!地雷踏んじゃった!

どうしよ、どうしたらいいのかな?!


「はぁ……。ありがと、すこし冷静になれたわ」


「そっか……よかった」


あっぶねぇぇぇ!命が失われる3秒前くらいだったよ!

しかし、秋保の顔はいまだに陰りが消えていない。


「むやみやたらと女子の頭を触ってはダメよ」


「すいません……」


「今回は特別許してあげる、こういうのも経験だから」


「でも最初にやってきたのは……。いえ、なんでもありません……」


急に睨まれた。

まぁちょっと……いや、ほぼ俺が悪いのか?

しかし、怖い思いはしたが貴重な経験をしちゃった気がする。


「はぁ。もうこんな時間なのね……」


スマホで時間を確認すると18時くらいだった。

俺的にはまったく問題ないが、女子的には問題あるのだろうか。


「帰る?」


「そうね……、お母さんを心配させるのも悪いし帰るわ」


「そっか~。家近いの?」


「いえ、二駅前ね」


「じゃあ駅まで送るよ、俺も電車だしね」


「じゃあお願いしようかしら」


結局これといった進展もなく、ショッピングモールを後にする。

駅へ向かって歩く生徒がちらほらいる。

カップルだったり同性同士のグループだったり、スーツをきたサラリーマンだったり。

平日にショッピングモールなんて行かないため非日常を経験しているようだった。


「ねぇ、連絡先教えてよ」


「え?」


「聞こえなかった?連絡先教えてよ」


「いいけど……」


これっきりだと思っていたから結構びっくりした。

彼女から提示されたQR コードを読み込み連絡先を登録した。


「ありがと、お父さんを除くとあなたが異性で初めての連絡先よ」


「ふ、俺がの男ってことかな?」


「……」


「無言やめて!なんか傷つく!」


「……なんでそういうことはさらっといえるのよ」


なんかぼそっと言ったな。

だけど、聞こえなかった。

いや、鈍感じゃないと思いたいっ!


「光栄に思いなさいって言ったのよ」


「ありがとうございます!それはそれとして、俺も初めての異性の連絡先だよ、ありがと」


「どういたしまして。富樫君にとって私がの女ってことね?」


「そうだね、間違ってないよ!」


「……そういうところよ」


「?」


「なんでもないわ、もう駅ね……」


「あ、ほんとだ。あっという間だね~」


本当に今日はあっという間だった。

午後の授業は長く感じたけど放課後になってから一瞬だった気がする。

世のカップルはいつもこんな感じなのだろうか?

うらやまけしからんぞ!


「今日はありがとね、巻き込んだ側とは言え俺に付き合ってもらっちゃって……」


「そうね、間違ってはないわ。……まぁ、でも私も楽しかったからチャラにしてあげる。またね、富樫


「ああ、またな」


丁度秋保が載る予定の電車が来たので走っていってしまった。

だが、乗り込んで余裕ができたのか、振り返って俺に手を振ってきた。

俺も手を振り返し、電車が行ってしまった。


「かわいいかよ……」


行ってしまった電車をすこし見つめて、俺の乗る予定のレーンへ向かう。

ベンチに座って今日の出来事を思い出していたら俺の乗る予定だった電車を一本逃してしまった。


「やっちまった……」


電車が来るまで15分待つ羽目になった。

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