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「水瀬守くん」
「はい」
水瀬くんは雨のほうにゆっくりと、体の向きを向けた。
「私は、水瀬くんのことが好きです」
雨は言った。
「私と付き合ってください」
(その言葉は、思っていた以上に自然に雨の口から溢れた)
雨の突然の告白を聞いて、水瀬くんはすごく驚いた表情をした。
……でも、それから直ぐにその表情をいつものクールな水瀬くんの表情に戻して、にっこりと嬉しそうに笑ってから、「ありがとう」と、水瀬くんは雨に言った。
夜空に星が流れ始める。
(でも、そのことに雨と守は気がついていない)
「……返事を聞かせてくれますか?」
雨は言った。
水瀬くんは無言。
雨も、ずっと無言だった。
それは随分と長い時間に感じた。でも実際にはそれほど長い時間でもなかったのかもしれない。
「……僕も、遠野さんのことが好きです」
と水瀬くんは言った。
その言葉を聞いて、雨は内心、心臓が飛び出るくらいに嬉しかった。(実際に雨の心臓の鼓動は、雨の内側で、すごくどきどきしていた)
「……でも、遠野さんとお付き合いをすることはできません」
と水瀬くんは言った。
「え?」
雨は言う。
「どういうことですか?」
「僕は、『高校生になったら、もう一度、父の仕事の関係で、今度はこの街とは違う街にまた引越しをする』んです」
水瀬くんはそう言った。
もう水瀬くんは、全然笑っていなかった。
すごく真剣な表情をしていた。
「引越し」
雨は言った。
雨はなんだか頭の中がくらくらした。
そして実際に、そのままその場に雨は座り込むようにして(それは貧血の症状に似ていた)、倒れてしまった。
「遠野さん?」
「遠野さん!? 大丈夫!!」
そんな水瀬くんと朝見先生の声が聞こえたような気がした。
雨はそのまま、気を失った。
雨が最後に見た風景は、星空の下で、心配そうな顔で雨を見ている水瀬くんの顔だった。
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