23

「水瀬守くん」

「はい」

 水瀬くんは雨のほうにゆっくりと、体の向きを向けた。

「私は、水瀬くんのことが好きです」

 雨は言った。

「私と付き合ってください」

(その言葉は、思っていた以上に自然に雨の口から溢れた)

 雨の突然の告白を聞いて、水瀬くんはすごく驚いた表情をした。

 ……でも、それから直ぐにその表情をいつものクールな水瀬くんの表情に戻して、にっこりと嬉しそうに笑ってから、「ありがとう」と、水瀬くんは雨に言った。

 夜空に星が流れ始める。

(でも、そのことに雨と守は気がついていない)

「……返事を聞かせてくれますか?」

 雨は言った。

 水瀬くんは無言。

 雨も、ずっと無言だった。

 それは随分と長い時間に感じた。でも実際にはそれほど長い時間でもなかったのかもしれない。

「……僕も、遠野さんのことが好きです」

 と水瀬くんは言った。

 その言葉を聞いて、雨は内心、心臓が飛び出るくらいに嬉しかった。(実際に雨の心臓の鼓動は、雨の内側で、すごくどきどきしていた)

「……でも、遠野さんとお付き合いをすることはできません」

 と水瀬くんは言った。

「え?」

 雨は言う。

「どういうことですか?」

「僕は、『高校生になったら、もう一度、父の仕事の関係で、今度はこの街とは違う街にまた引越しをする』んです」

 水瀬くんはそう言った。

 もう水瀬くんは、全然笑っていなかった。

 すごく真剣な表情をしていた。

「引越し」

 雨は言った。 

 雨はなんだか頭の中がくらくらした。

 そして実際に、そのままその場に雨は座り込むようにして(それは貧血の症状に似ていた)、倒れてしまった。

「遠野さん?」

「遠野さん!? 大丈夫!!」

 そんな水瀬くんと朝見先生の声が聞こえたような気がした。

 雨はそのまま、気を失った。

 雨が最後に見た風景は、星空の下で、心配そうな顔で雨を見ている水瀬くんの顔だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る