13
「私、水瀬くんに告白しようと思うんだ」
雨は言った。
「え?」
その言葉を聞いて、愛は、本当に珍しく、すごく驚いた顔をした。
「告白する。自分の思いをきちんと水瀬くんに伝える」
雨は愛の目を見ながらそう言った。
場所は土手の上の道をすぎて、いつものように二人が離れ離れになる場所である、田んぼの横にある分かれ道の上だった。
「……そうなんだ」
少し間を置いたあとで、下を向いて愛が言った。
「……うん。よかった。よかったじゃん」
にっこりと笑って愛は言った。
「そうか、そうか。水瀬くんがこの田舎の街に引越しをしてきて、約一年。一目惚れの初恋から、ようやく雨も運命の王子様に告白をするつもりになったか。うん。うん。よかった、よかった」
愛はそう言って、軽く雨の肩を二回、叩いた。
「おめでとう」
と愛は言った。
「……告白、うまくいくといいね」
「……うん。ありがとう」
ずっと黙っていた雨は、自分の目の前に立っている、小さいころからの幼馴染であり、自分のもっとも親しい友達であり、親友である浜辺愛にそう言った。
「それで、水瀬くんに告白はいつするの?」
地面の上にある土と草を軽く蹴りながら、愛は言う。
「天体観測の日」
雨はすぐにそう答える。
「わかった」
愛は言う。
「雨の告白がうまくいくように、私は雨のことを全力で応援するよ」
愛は笑う。
雨は無言。
「じゃあ、そういうことで、今日はさよならだね」
夕日を背にして、愛は雨にそう言った。
「うん。また明日」
雨は言う。
それから二人はいつものようにさよならをして、それぞれの家に帰って行った。
その道の途中で、雨が後ろを振り向くと、赤い夕焼けに染まる世界の中で、田んぼの中の畦道を歩いて、一人家路に向かう愛の小さな後ろ姿が見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます