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雨は自分の『雨』、という名前があまり好きではなかった。
生まれた日に雨が降っていたから雨。
(雨の誕生部は七月の七日だった)
姉の雪は、生まれた日に雪が降っていたから(雪の誕生日は一月十四日だった)雪。
姉妹に名前をつけたのはお母さんだった。
そのお母さんの愛について、もちろん雨は感謝をしているし、本当の本当のところでは、雨という自分の名前も、嫌いというわけではないのだけど、でも、もう少し可愛らしい名前をつけてくれても良かったのにな、とそんなことを思ったりもした。
「愛はメガネ、取らないの?」
放課後。
帰り道の途中にある駄菓子屋さんで寄り道をしているときに、雨は言った。
「うん。別に取らない」
ラムネを飲みながら、愛は言う。
「メガネとったほうが、愛はずっと可愛いよ。もちろん、今も可愛いけど」
水色のアイスを食べながら、雨は言う。
二人は木製のベンチの上に座って、放課後の夕焼けを眺めている。
遠くで鳥が鳴いている。
「別に可愛くならなくてもいい」
愛は言う。
「どうして?」
「私をちゃんと見てくれる人は、この世界にはいないから」
愛は雨を見て、にっこりと笑った。
「そんな悲しいこと言わないでよ」
雨は言う。
「私は愛のこと、ちゃんと見てるよ」
「ありがとう」
雨の言葉に愛はうなずく。
そこで二人の会話は一旦、途切れた。
「朝見先生って、天文部の顧問なんだって」
地面の上に映る自分の影を見ながら、雨は言う。
「そうらしいね」
愛は言う。
「朝見先生。星が好きなのかな?」
雨は言う。
「そうなんじゃない。天文部の顧問になるくらいなんだしさ」愛は言う。
「愛は星、好き?」
雨は言う。
雨は顔をあげて愛を見る。
「好きだよ。星」
空を見上げて、愛は言った。
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