「雨さ。今日も図書室で、水瀬くんの読んでいた本と同じ本を読んでいたでしょ?」

「……うん。まあ」

 雨は赤色に染まっている大きな川の流れを見つめる。

「そんな風にして、遠回しに行動しても、水瀬くんには雨の水瀬くんのことが好きって気持ちは、あんまり伝わらないと思うよ」愛は言う。

「わかっている」

 雨がそう言うと、愛は小さくため息をついた。

「まあ、別にいいけどね」

 愛はそう言って土手の上を再び歩き出した。雨も同じように、愛の隣を歩き始める。

「ねえ、愛」

 雨が言う。

「なに?」

「愛はさ、好きな人っていないの?」雨が言う。

「そんな人いないよ」

 雨の言葉に愛はそう即答する。

「本当に?」

「本当」

 愛はそう言って、雨を見て、わざとらしくにっこりと笑う。

 そんな愛の笑顔を見て、雨は、あれ? もしかして、愛は本当に誰かに恋をしているのかな? と思った。

 もし、本当に愛が誰かに恋をしているとしたら、それはいったい誰だろう? と雨は思う。

 それらしい男の子の顔は思い浮かばない。

 愛は雨とは違って、あんまり自分の話を雨にしてくれない。愛はすごく素敵な友達だけど、そんな秘密主義のところが、雨は少しだけ不満だった。

「じゃあ、また明日ね」

 いつもの分かれ道のところで愛が言う。

「うん。また明日」

 雨は言う。

 そしていつものように、そこから二人はそれぞれ別の道を歩いて、自分たちの暮らしている家に帰って行った。

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