遠野雨が水瀬守に恋をしたのは、守がこの田舎にある山奥の街に引越しをしてきた中学二年生の春だった。

 守はずっと東京に住んでいた男の子で、雨が今まで見たことがないくらいに、すごく洗練された雰囲気を持った、とてもかっこいい男の子だった。

 みんなの前で挨拶をする守を見て、雨は一目で恋に落ちた。

 それは雨の人生で初めての恋だった。

 でも、恋に奥手の雨は守になかなか恋の告白をすることができないでいた。……それは中学三年生になった今もまったく同じ状況だった。

「雨。もう帰るよ」

 雨の親友であるクラスメート、浜辺愛がそう言った。

「あ、うん。今行く」

 雨は読んでいた本を本棚の元の場所に戻してから、カバンを持って、急いで愛のいる図書室のドアのところまで移動した。

 それから二人はいつものように並んで歩いて、校舎の中をあとにした。

「雨さ」

 その帰り道で愛が言う。

 時刻は四時。

 世界はもう、夕焼けの色に染まっている。

「なに?」

 雨は言う。

「雨はもう、水瀬くんに告白したの?」

「え?」

 愛が突然、そんな恋の話をしてきたので、雨は少しだけ動揺してしまう。

「……してない」

 少し下を向いて雨は言う。

「告白、しないの?」

 愛は言う。

「……するよ。いつかね」雨は言う。

「いつかって、いつ?」

「中学を卒業するまでの間のいつかの日」雨がそう言うと、愛はそっと足を止めた。隣を歩いていた雨も同じように足を止める。

 二人は今、街の真ん中を流れる大きな川の土手沿いの道の上にいる。

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