清瀬六朗『人魚と内緒話』


・清瀬六朗『人魚と内緒話』

https://kakuyomu.jp/works/16818093081512731356


 イギリス領のアジアの港町にて、とある船の船長・コリンスは、とあるお嬢様が公開中に見かけた人魚を、彼女と共に探し出してほしいという命令を受ける。しかし、実のところ、コリンスには、その「人魚」に心当たりがあった。十九世紀のアジアを舞台に、おてんばな少女のひと時の冒険と、その後の人生を描き出した、中編歴史小説。

 清瀬さんは、こちらで四月からの皆勤賞です。六月号の参加作『Under the Storm スクーナー船パーシャンハウンド号の航海』の舞台と地続きの作品ですが、もちろん、『人魚と内緒話』単体でも楽しめます。


 二万文字越えの作品ですが、前半の後半とでは結構雰囲気が違います。前半は、コリンス船長が、地元警察のガートルードの協力を得て、人魚問題を何とかしようと奮闘するドタバタが中心ですが、後編では時間が一気に飛び、人魚が見たいと言ったお嬢様のステファニーがどんな人生を送ったのかが語られます。

 中々にギャップがあって、「およよよ?」となってしまいましたが、コリンス船長とガートルードの会話から、このひと時の平和は、本当に危ういバランスの上で成り立っているのだということが分かっているので、まあ、史実ではありますが、ある意味伏線回収みたいなものですね。当時の日本とかアメリカとか、どうなっているのかもわかってくるので、それもまた面白いです。


 んで、個人的な好きポイントは、お嬢様と使用人のアリソンの関係ですねぇ。『虎に翼』の涼子様とお玉ちゃんもそうですが、『エリザベスの友達』で、太平洋戦争前の中国・天津で暮らした日本人のエピソードとか、『ののはな通信』でアフリカの発展途上国での日本人外交官の暮らしとか、まあ、使用人というよりも執事ですが、もちろん外せない『日の名残り』とかで、雇う側、雇われる側についていろいろ考えることがあったので。現代人だと、「旦那様/奥様め、えらそうにしやがって、うっきー!」と単純に考えそうですが、それではくくれない感情があるのでしょうねぇ。

 それから、植民地支配について、私も沖縄出身者として、色々と思うところありますし、はっきりと反対派ではあるのですが、普段は交わらない者同士の交流が、何かを生み出す瞬間は、どんな時でも貴いものだと感じます。ステファニーが「人魚さん」からもらった「もの」を、これからも大切にしていくのだと、感じ取れる一編でした。


















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