・新巻へもん「Under the Storm」

　アパートの一室で、趣味の小説を書いている主人公の男。ふと、外が暗くなったのをきっかけに、彼の思考は一時中断される。日常の中のワンシチュエーションを淡々と描いた現代ドラマショートショート。

　書籍化作家の新巻さんが、またまた参加してくださいました。今回までで皆勤賞ですね。誠にありがとうございます。

　本編は、めちゃくちゃシンプルな作品です。いい意味で、ヤマなし、オチなし、意味なしです。芥川の『蜜柑』を思い出します。

　ともかく、描写が細かいです。作中時間だと、三十分もたっていないのではないのでしょうか。長編小説だと、わざわざ書かないような、洗濯物を取り込む様子や、コーヒーを淹れる手順なんかも描写されています。

　唯一、特異な点と言ったら、主人公が創作者であることです。しかもスランプ中。ただ、もう筆を折ってしまおうかというほどどん底ではないので、どこか親近感が湧きます。

　また芥川の話ですが、彼は家族との生活と自分の理想を追い求める文学活動とで、悩んでいた部分があります。確かに、生活と文学は反対語のように見えますが、生活の中に文学があるという暮らしも、存在するのだとしみじみ思いました。

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