四谷軒「真新しい靴がステップ ~竜馬、寺田屋にて遭難す~」
・四谷軒「真新しい靴がステップ ~竜馬、寺田屋にて遭難す~」
→https://kakuyomu.jp/works/16818093074779777281
寺田屋に宿泊中の竜馬と護衛の三吉は、おりょうが捕り物の強襲を知らせてくれたため、紙一重でその場から逃げ出すが、竜馬は傷を負ってしまう。動けない竜馬のために、一人、三吉は同盟関係にある薩摩藩邸へ走るが、彼の心には一抹の不安があった。あの「寺田屋事件」の「もしも」を描いた歴史もの短編。
四谷さんは、二〇二一年度の同題異話・八月号「夏が燻る」で、初参加してくださいました。その際は、平安時代の源宛と平良文の戦いがテーマでしたが、それ以降の同題異話参加作も主人公の有名・無名、時代や場所を問わず、たくさんの歴史ものと一作の架空SF戦記で参加してくださいました。さらに、二〇二一年度同題異話・十一月号参加作「きょうを読むひと」で、「カクヨムWeb小説短編賞2021短編特別賞」を受賞しています。とんでもない方です。
四谷さんの筆致は、非常に読みやすいです。必要な情報は過不足なく描かれて、言葉遣いは雰囲気を壊さないけれど、スッと入ってきて、一万文字とは思えないほど濃密です。読んだことある司馬遼太郎作品は『梟の城』で、大河ドラマを見たのは『いだてん』だけという歴史に疎すぎる私でも、「なるほど!」と理解しやすいです。
歴史の、「こうだったかもしれない」あるいは「こうだったらいいな」を上手に描いています。今作の「真新しい靴」の使い方も、もしかしたら、という着眼点ですが、ありえる形でしたから(というのは、応援コメントからの受け売りですが)。
冒頭、おりょうが竜馬に襲撃を知らせるシーンから始まりますが、その緊迫感もすごいです。いや、すごいのはおりょうさんの恰好……ええと、混沌の時代に、名前を残す方ですから、これくらいは当然ですよね!
とまあ、作中人物の漢気(という言葉をあえて使います)が皆さん強いですね。竜馬はもちろん、三吉も、最後に登場するあの人も、一本気通っていて痺れる言動ばかりです。あの時代に、国をひっくり返そうとしていた人たちですから、軟派ではいられないでしょう。
ただ、この軟派、というのは、堅苦しいという意味とは違います。従来の掟や常識、過去から続くしがらみを断ち切って、新たな道を切り開く、柔軟さも含まれています。竜馬って、柔よく剛を制す的な人だったのかな、とふと思いました。
それから、好きなのは作中人物たちの言葉遣いですね。本文で説明されていましたが、遣う言葉で出身地がすぐに分かります。こちらは、現代人でも読めるように翻訳(と言っていいのかな)されていますが、所々に出てくる部分に、土地や本人の思考が染み出ていて、そこもまた素晴らしかったです。
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