炎の龍をも焼き払う②
予定通りにいかないというのも予定通りである。
建築予定地に着いて、出来る限り簡略的な小屋を建てる。小屋というか、テントに近い設計のものを、事前に用意していた木材を組み立てて作っていく。
だが、まず予定よりも時間が押していてこれだと一日遅れが出そうだ。
一日ぐらいの遅れなら問題ないが、一軒ごとに一日遅れが出たらレングのタイムリミットに間に合わない。
遅れている理由は主に魔物の出現が多すぎることだ。想定の数倍の数が襲ってきていて、そのせいで毎回足が止まってしまう。
牛のような食えそうな魔物が出たおかげでそれなりに豪勢な食事が出来そうなことや、それ以外でも討伐報酬やら素材になる部位やらで思ったよりも冒険者たちや俺たちの収入にはなったが、その収入にはあやかれない行商人は少し不満そうだ。
……行商人には「移動速度は遅いし、出発時間はこちらに合わせてもらう代わりに大人数の護衛が格安で雇える」という触れ込みで金を出してもらっているが……これはすこし遅すぎるな。
仕方ない。と、行商人たちの方に足を向ける。
「外で待たせることになって悪いな。魔物の襲撃が多く、冒険者たちの疲労が溜まっていて、手を貸してもらいたい」
「……手を貸す?」
俺の今までの演説が冒険者寄りだったことや、冒険者に人気があることからか、商人達は少し訝しんで俺を見る。
「ああ、この商品は次やその次の街で売る予定なんだろう? 問題ない範囲で構わないから、俺に売ってくれないか?」
先程の魔物を倒した収入から俺の取り分の金を概算し、行商人が早く消費したいであろう生の食品を適当に購入しておく。
事前に狩ってきたばかりの魔物と先程買った野菜を切って事前に用意していた串に刺して適当に調味料で味を付けていく。
「総統が作るんですか?」
「下準備はな。焼くのは各々に任せようかと」
「お手伝いします」
「いや大丈夫。それよりもフィナの様子を見てきてくれないか? なんか怒ってるみたいで」
モノは俺に対して少し呆れた表情を向ける。
「そうとー、そういうとこです」
「何がだよ……」
渋々と言った様子でフィナの元に向かうメイド服の少女を見送りながらバーベキューの準備を整える。
小屋とテントの合いの子のようなものが出来ていくが……そろそろ頃合いだな。
大工や職人とその手伝いをしている冒険者の元に向かう。
「おーい、飯の準備が出来たぞ! 日も傾いてきた、怪我をする前にやめよう!」
彼等は少し驚いた様子で作業の手を止める。
わざとらしく子供のフリをして、バーベキューの用意をしたところに案内していく。
「おー、豪勢だな。食っていいのか?」
「ああ、俺の奢りだ。と言っても、酒もなくて申し訳ないが、流石にこんなところで酔うわけにもいかないしな」
「はは、違いない」
それからバーベキューを焼くために組んだ木に異能で火を点けていきながら、ひとりひとりに労いの言葉をかけていく。
同じ釜の飯……とは違うが、同じものを立ちながら食っていることで、貴族の子供に対する警戒心と心の距離が溶けていくのを感じる。
食事の時間はやはり距離を詰めるのにはいいな。
特に今回は演出のために英雄のフリをしたり、貴族アピールをしたり、強さを見せつけたりしたせいで微妙に距離がある。
仲間としての団結を強めるにはもう少し距離が近い方がいいだろう。
などと考えながら全員に声をかけ終えたところで肩をポンと叩かれる。
「おー、坊主。婚約者の嬢ちゃんとはどうだ? デートは出来たか?」
「ああ、おっちゃんか……。出来てるように見えるか?」
「ははっ、なんか勢いでここまできてるからなぁ。こんなところにまでやってきて」
「なんかおっちゃんに乗せられた気がするな……」
と、まるで彼が発案者のひとりのような言い方をすると、彼は気をよくしたように笑う。
「まぁでも、よかったな。随分と可愛らしい子だ。それに着いてきてくれるって随分と愛されてるな」
「フィナなぁ……。俺は着いてこないように言ったんだけど」
「やっぱり婚約者が街の外に出るのは危ないと思うのか。まぁ魔物とか出るしな」
「いや、フィナは俺よりも強いからそこは心配してないけど」
おっちゃんは俺の言葉を冗談かと思ったのかガハハと笑う。
いや……マジで強いんだよ、あの子……。俺達もそうだけど、他の反政府組織もひとりでボッコボコにしてたからな。
前世は津月凛音だけど、前前世はゴリラだと思う。
「まぁ、こんなところまで着いてきてくれる子はそうそういないよ。あのメイドの嬢ちゃんもな」
「まぁ……それはそうだけど」
フィナは俺の監視という目的だろうが、モノの方はかなり純粋な俺への好意だろう。
それなりにお礼とかしないとなぁと、考えていると、両手に串焼き肉を持った食いしん坊スタイルのフィナとモノがやってくる。
「グラスフェルトー、話してばっかりで全然食べてませんよね。はい、焼いてきてあげましたよ」
「あー、坊主、愛されてるなぁ」
「ああ、ありがと……」
津月って基本すべてのことを暴力で解決するタイプだから、挨拶回りみたいなのよく分かってなさそうだな。
グイグイと顔の前に押し付けられる肉をパクリと食べると、フィナはふにゃっと満足そうに笑う。
「どうですか? 美味しいです?」
「ああ、美味いよ」
「料理上手な嫁さんもらえてよかったなぁ、坊主」
まぁ、実際にいい焼き加減ではあるけど、用意したのほとんど俺なんだよなぁ。
「そーとー、私のもどうぞ」
「ああ、ありがとう。美味いぞ」
少し焦げているのを齧ると、フィナがむっとした様子でもう一度俺に肉を押し付ける。
「あーんしてください」
「えっ、はい」
「総統」
「待って、もご、もごごご」
「グラスフェルト」
「もごごご」
「総統」
「ももももも」
「グラスフェルト」
「も」
俺は口を押さえながら逃げた。
モノはまだしも、フィナは前世と合わせてもう三十歳ぐらいなんだから子供相手に張り合うなよ……!
レングの近くに避難すると、レングはレングで大工の人と話していた。
どうやら堀の形を大きさを相談しているらしい。
正直、一番立場上の問題で浮きやすいと思っていたが、上手くやっているらしく感心する。
やっぱり、レングはいいな。隙がない。
敢えて言うなら人が良すぎて俺みたいな奴に散々利用されまくっているところと、立場上忙しいところぐらいか。
うーん、是非とも組織にほしいが……本人のことを考えると、もう少し磐石にしてからか。
俺がいない状態で組織の運営をしてくれる人材がほしいのに、俺よりも忙しいレングに頼んでも仕方ないしな。
うーん、フィナは強いけどゴリラだから人間を取りまとめるみたいなことは難しいだろうし、この旅が終わったら実家の方に帰るだろう。
人を集めたら適性がありそうなやつが見つかるかと思ったが、案外いないな。
まぁこれから色々な街を探すからそのうち見つかるか……もし見つからなければ、組織の方に勧誘する人間も数を絞らないと組織が空中分解してしまう。
まぁ、レングの交渉は上手くいったらしいので、最悪でも街を解放すれば拠点は手に入るし、それなりの名声もだ。
別にそれで十分と言えば十分であり、それでも本格的な活動を始める予定の、俺が学校を卒業してからには余裕で間に合う。
……まぁ一応何人か勧誘とまではいかずとも口説いておくか。
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