第9話 来報響く鐘の音
青く優しい光に包まれた俺は、その得体の知れない慣れない感覚に戸惑っていた。目の前にはアルバという謎の神託者と言う女性だろうか、俺の目には一見ではそう思った。これから、大神殿に向かうとそのアルバという女性は声に出して言う。
彼女からは今のところこれと言った微かな敵意すらも感じない。
何というか、色々戸惑った。前世の記憶では魔法という概念というか、異世界にはお約束の概念があることとは別の概念。この異世界では
「転移するにも距離が距離だ。多少時間もある。少し話しをしようじゃないか」
アルバが話を俺に掛けてきた。
「あの、今の状況を聞きたいんですけど」
「今の状態? この光の中のこと?」
「そうです。今、俺たちはどういう状況なんですか?」
「これは
「魔法というものではないということですか?」
「魔法? よく知っているわね。私が行使するのは魔法とは別物。魔法には魔素が必要になるのに対して、私たちが使う神法は
俺の前世の記憶では、神法という言葉はラノベにも、ゲームでも聞いたことがない。
「そんなに怪訝な顔してどうしたの? 貴方はやはり人間族ではないということはわかったわ。さて、間もなく到着よ。大神殿へ。詳しいことは大司教クラスが対応することになるわ」
アルバがそう言うと、間もなく青い光が晴れた。
近代的でありながら中世ヨーロッパを彷彿させるデザインの建築物が荘厳かつ幻想的に建ち並んでいた。
「ここが、私たち神託者と神人しか入れない神聖域であり、中心に位置する大神首都メア・リリアよ。そして、正面中央に見える一際、巨大な建築物が大神殿メ・ノスよ」
「綺麗だ」
目を奪われる美しさということはこういう意味だと理解した。純白を基調とした美しい都市、そして、大神殿は更に荘厳で純白で天上まで届かんとする巨城だ。
前世のいかなる知識を巡らしても、このような建築物や名前は記憶にない。
純粋に俺自身の記憶が無いのと一緒で、前世にも似たような景色は存在するのかもしれないが、今の俺にはそれらを知る術も記憶もない。今ある現実だけが美しいという言葉に凝縮された感覚がした。
「あら、嬉しいわ。さて、ご覧の通り、ここは大神殿ではないわ。あの中央にあるのが大神殿。そして、そろそろかしら」
「そろそろ?」
俺が疑問に抱いていると、答えは直ぐ近くに来ていた。
「お迎えにあがりました。アルバ神官様。こちらが例の御仁でしょうか?」
全身、純白な服を纏った模様が刻印された仮面を被った集団が迎えに来た。
「そうよ、シウという名前持ち。無条件で聖域に侵入した存在という逸材よ」
「俺は、この聖域に侵入したことを謝罪しにきました」
「謝罪する必要はないわ。貴方のことは転移する前から大神殿には知られている。それに、侵入を許したのは大神殿側でしょう。だから、気にしなくていいわ。シウと出会えて良かったわ。後は、この者たちについて行けば、貴方が知りたい答えがそこにある筈よ」
「アルバさん、ありがとうございます!」
深々と一礼した。
「さぁ、シウ様、我々と参りましょう。アルバ神官様、ご苦労様でした」
「ええ、後は頼みました」
アルバが軽く手を振って俺を見送ってくれた。
「これに乗ればいいんですか?」
白い大きな馬車が停まっていた。今まで気付かなかった。隊列をなすように列になっていた。
「そうです。こちらの馬車で大神殿まで向かいます。ご安心を」
「わかりました」
俺は白い馬車に乗った。馬車の客室はとても広い空間だった。仮面を被った礼服の方々は名乗ることは無かった。
「俺はこれから、どうなるんですか?」
「そうですね、客人という扱いになりますね。先程の他の神官による無礼をお詫び申し上げます」
「いえいえ、こちからこそ、知らずに聖域に踏み入れてしまって申し訳ありません」
「シウ様は敬虔でいらっしゃる。これから、大神殿で天啓を受けることでしょう。ご安心ください。我々がサポートさせていただきます」
とても、丁寧で仕草、口調、発する何もかもが荘厳で上品な何かに見えた。
「皆さん、ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「ええ、こちらこそ。そういえば、シウ様はどのようにしてこの聖域をお知りになったのですか?」
「こちらの聖域と呼ばれる森を見つけたのは、偶然です。モンスターに襲われた先で、たまたま見つけ、隠れるつもりでした」
「ほう、聖域の外でモンスターと戦闘を。何と戦っていたのでしょうか?」
「ドラゴンの群れです」
ざわ、っと客室の空気が揺れた。
「ドラゴンの群れと仰いましたか?」
「そうです。ドラゴンの群れとです」
「なるほど。その群れと戦いながら、この森へ入ったと」
「いえ、全て倒して、行く宛も無くこの森へ入らさせていただきました」
また、空気が揺れた。
「お一人で、本当にドラゴンを全て倒したと?」
模様の違う仮面の人が俺に尋ねた。
「そうです。ドラゴンを俺一人で全て倒しました」
「そうですか。それで」
「何か問題でもありましたか?」
「いえ、シウ様が聖域に入った理由がわかりました。余計な詮索をお許しください」
「いえいえ、そんな、こちらこそ」
馬車は本当に大神殿に移動しているのだろうか。馬車の揺れ一つも感じ無い。生前の記憶にある電車ですら、ガタンゴトンと最新の技術を持ってしても大なり小なり音や衝撃がするものだ。
だが、この馬車からは一切の外部からの振動を含む音が聞こえない。ただ、会話する俺たちの声しか聞こえない。
まるで、純白の色そのものに音も衝撃も吸収されているかのように、静かに時間が流れているようだ。
「あの、あとどのくらいで到着でしょうか?」
「間もなくですよ、ほら、噂をすれば到着の鐘の音が聞こえるでしょう」
その言葉の次の瞬間には、確かに外から今まで一切雑音や衝撃が聞こえなかったのに、鐘の音だけが、俺の耳に確かに届いた。
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