第8話 SSRって言葉を知っているの?
このとてつもない力を強く秘めた光は明らかに攻撃だと本能が俺に言う。
「ぬぅおッ!!」
どのくらいの時間が経過したか、痛みは感じない。攻撃ではない? いや、これは間違いない。殺意を素人でも敏感に感じたからだ。あれだけの殺意を感じない人なんているのだろうか。
「こんなの俺には効かない!! 出て来い臆病者!!」
光が治まる。俺は服がボロボロになった程度で、身体や精神的にも攻撃で効いた感じは一切しない。
「お前、本当に何者だ?!」
驚きを含んだ言葉に聞こえた。
「俺は、シウだ!!」
「シウ、お前はこの聖域を脅かす者だ。いや、存在だ。こちらも全力で征く」
静かに怒りが込められた意思を言葉に乗って聞こえた。殺意よりも、もっと深い何かだ。この感情を俺は知らない。誤解はあるとはいえ、現状、会話でどうこうなる状況ではない。むしろ、相手の怒りを買うだけだろう。
正面に意識が向いた。何かも見えない。強い衝撃が顔面を伝った瞬間、俺は何かに殴られたことを認識した。だが、相手の影すら見えない。気配も。かなりの手練れだと素人ながら感じた。
今はただ、五感と全身に意識を集中させた。見えないなら、攻撃するその瞬間を狙う!
右脇腹に強い衝撃が突き抜けた。普通の人間ならこの時点でダウンだろう。いや、今までの相手の攻撃はどれもが、一撃で即死級の攻撃だ。衝撃が伝わった瞬間にその何かを掴んだ。
「何!!」
「ようやく、会えたな。お前は誰だ?」
「貴様! 離せ!」
凄い力だ。俺の目に見えた謎の人物は、黒いローブを深く被って顔まではわからないが、モンスターの類いではないように経験則からそう感じる。勢いよく、深く被ったローブを捲った。
「えるふ?!」
「違う! 私は、神託者だ!! 私の一撃を止めるとは貴様は何者だ!?」
「だから、何度も言っているだろう。俺はシウだ。俺はこの聖域から出る。それでいいだろう」
「断じて否だ! お前は、聖域に踏み入れたその瞬間に死罪が確定している」
「聞いてくれ、俺は本当にこの森が聖域だと知らなかった。それに、脅かす存在でもない」
可能な限り、穏やかな口調で伝えた。だが。
「貴様は、私の神託者の攻撃を受けて尚、無傷でいる。それは何故だ! この怪物め! 離せ!!」
「いや、離すことはできない。平和的に解決したい。俺はこの森を去る。それが叶わないのなら、俺はお前を倒さなくてはいけない。無駄な血を流したくはない」
「ハッ! 貴様が、私を倒すだと? 笑わせてくれる! 貴様如きが私を倒すことは不可能だ! ”神託”が降りた! 貴様を殺せと!」
俺に向かってくるその存在は俺を知ろうともしない。話も聞かない。敵意を超えた、殺意を濃縮した先の憎悪に似た感情を当て付けられたような感覚を受けた。ようやく、アルプ以外で会話が出来る存在と出会うことが出来たというのに、この異世界のことを俺は知らなすぎた結果がこれか。
アルプともこの世界のことを聞いたが、そう深くまでは聞けなかった。純粋にこの世界を語るには時間が足りないということだ。宴が一つの限られた時間で世界の全て知ることは不可能だ。
俺は、憎悪を込められた目を見つめた。
どうすれば、一体、どうすれば、この場を切り抜けられる? そもそも、神託者って何者なんだよ。聖域って何なんだよ。
この人は凄い力だ。多少、俺には余力があるが、ある程度の強い力で抑えていないと、今にも攻撃して来そうだ。
「俺は、お前を」
何かの別の気配を周囲に感じた。さっきの光の影響か? あれで、コイツの仲間が集まって来たのか? もしくはモンスターか? 考えてもどうしようもない。今は時間がない。
『
声が聞こえた瞬間に周囲の森が、景色、いや、空間がそのものが歪んだように見えた。俺は夢でも見ているのか?!
「何だ?!」
「!?」
敵か、いや、捕まえているコイツも同様している?! ようだ。
「君を助けてあげるよ」
「アルバ、貴様ァ! 何しに来た! こんなことして許されるとでも、神託を邪魔するなァ!!」
アルバ? どうやら、この状況をつくったであろう者の名前らしい。得体の知れない人物が増えた。俺を助けるだと? 捕まえている傍から、足下が沈む。
「なんだ?!」
俺の足に粘液みたいに粘りついた。底なし沼のような印象だ。そういえば! 気が付いた瞬間には、名を名乗らなかった神託者という人物は大地に飲み込まれていた。最後に見えたのは、指先だけだった。
「今度は何が起きたんだ」
「君は助けるって言ったでしょ、私はアルバ。神託者のアルバよ」
目の前に現れた人物に目をやると同時に、足下は完全に堅い大地のままだ。今まで通りの森の大地。そして、アルバと名乗る別の神託者か。
「俺はシウ。助かったが、いいのか? お前の仲間なんじゃないのか?」
「仲間? とんでもない。あれはただの狂信者だよ」
笑いながら、あっけらかんと言いのけた。そして、アルバという人物はとてつもなく強い。俺の本能が全力で逃げろと告げるような感じがした。
「シウね。はじめまして。そう、身構えなくていいよ。改めまして、私はアルバ。この聖域を統べる神の使者の一人よ。今まで闘っていたのも、使者の一人」
「アルバは俺を殺さないのか?」
「聖域の件? 私の管轄外だわ。今まで貴方が闘っていた彼女はアルミール。聖域に出入りする侵入者に抵抗する免疫反応みたいな存在よ。心配しないで、彼女はあれしきのことで死なないし、私たちは死という概念すら無いのだから気にしなくてよいのよ。それよりも、貴方に私は途轍もなく興味があるの。どうして、彼女の攻撃を受けて尚、生きているのか? そして、どうして、この聖域に無条件で侵入することが出来たのか? 他にも聞きたいことは山ほどあるわ」
前のめりで俺の顔の近くまで攻め寄って来た。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 俺にも状況がわからないんだ。どうして、こうなっているのか」
警戒したことには越したことはない。あのアルミールという神託者を一瞬で倒してしまったのだから。何が琴線に触れるのかも分からない。この世界は俺にとっては知らないことが多すぎる。
「貴方、独特な雰囲気がするわ。神人? いや、また別の何か。いいわ、貴方と大神殿の神官に会わせるわ。そこで、貴方のことが分かることでしょう。全てね」
「全て分かるのか?!」
「シウ、貴方、自分の状況が理解出来ていないようね。貴方は私から見て、かなり特別な存在よ。通常、聖域は無条件に侵入することは出来ない。厚い信仰心と、犠牲と幾重にも施された神の試練を乗り越えて超越した者が入ることが許されるのよ。本当に、シウは面白い存在だわ。貴方の内に秘めている疑問も解決する大神殿に行けば解決するでしょう。処遇はそれからじゃないかしら」
「処遇ってどういう意味だ? 俺を殺そうとするのか?」
「そんなことしないわ。シウは無条件でこの聖域へ侵入出来た時点で、かなりの特別よ。そうね、私個人的な意見だとSSRな存在わね」
「SSR?!」
「何? 貴方、SSRって言葉を知っているの? あはは! 本当にシウ、面白いわ。神目録語録の言葉を知っている時点で、学者? いや、大神殿に貴方を連れていくのが更に楽しみになったわ。それじゃ、一緒にいきましょ!」
「今からか?」
「もちろん! 時間は無限に見えて有限ですから。善は急げですわ」
俺は彼女の手に引っ張られながら、森の中央に位置するという大神殿に行くことになった。俺のことや、この世界のこと、前世の記憶にあった言葉がこの世界にもあるということも含めて、色々知る機会が出来た。だが、まだ、このアルバという女性を信じたわけではない。
今の俺では逃げ切れるか、どうかだ。
「さぁ、行くわよ! シウ!」
「お、おう」
『
青く光に包まれた。
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