第6話 ドラゴンリベンジ
「結構走ったな」
自分の肌感覚だと、数時間は爆走したと思う。時計がないので、正確な時間を知る術は今のところはない。こればかりはしょうがないと思う。
そもそも、この世界に時間という時間という概念があるのか、そもそも、時計が存在しているのか、俺はまだ知らない。アルプとの会話の中でも時間や時計という概念は星と太陽の周期で確認するという話だった。
「この世界の人々は、星や太陽で時間を計るのかな。そんなことだと大分アバウトな感じじゃないかな。そういうものか」
休憩がてら、岩陰で休んだ。上空には何かが幾つか浮いているのが見えた。
「そういえば、あれは一体なんだろう。空飛ぶ島? 建築物? 大地? 遠くにあるからよく見えないな」
上空に浮かんでいる何かのせいだろう。明らかに濃い影が辺り一辺を黒に落とした。まるで、夜のようだ。太陽を覆うように空飛ぶ大地が重なる。日食のように、空飛ぶ大地の輪郭に沿って光の際が見える。
「なんだか、改めてみると神秘的な光景だな。この世界は俺がかつていた世界とは違う異世界で間違いないだろうな。豚の人とか前にいた世界にはいなかったし」
多分というか、この世界は、俺の記憶で知っている異世界というやつで間違い無い。それに、この現状と俺自身の五感で感じるのは現実という実感から言うに、俺は生きている。
だが、馬鹿げたこの力は一体なんだというのか。足を思いっきり大地に踏みしめたら地面が崩れる。脆いというわけではない。地面は明らかに岩石の類いで出来ている。かつて、ここ一帯が大森林だということなんて、俺から見たら全く信じられない。
そんなことより、今は自分の力に集中する。前の世界では有り得ない程、馬鹿げた力。あのドラゴンには通用しなかったが、この力だけは今の俺が持てる最大の武器だ。
アルプが言うには、この辺りには魔物や魔獣の類いが多く生息している地域らしい。かつての大森林が
「結構、走ったんだけどなー。あとどれくらいで目的地に着くんだ。アルプの話だと、そんなに時間は掛からないみたいなこと言っていたけど、かれこれ数時間は全力で走ったぞ。と、言ってもしょうがない。また、全力で走ってみるか!」
その時だった、岩陰から出た瞬間に、大きな影が目端から直進して来た。
「うわッ!」
数メートルは飛ばされただろうか。車に轢かれたことは無いが、凄まじい衝撃が全身を覆ったが痛くはない。むしろ、平気だ。
目線を突進してきた影にやると、明らかにこちらに敵意を持ったモンスターだった。魔獣か魔物かの分別は今の俺には咄嗟の区別は出来ない。どちらか、またはその両方の可能性もある。
敵は俺に咆哮し威嚇する。咆哮だけで大地に亀裂が入った。このモンスターは強い類いのものか、そういう雰囲気が放たれた殺気が周囲を包み込んだ。まるで、ライオンを百倍に恐くした存在というべき、四足獣の双頭の黒いモンスターだった。
「俺の見立てだと、魔獣で、いいよな? お前から攻撃してきたんだ! こちらも容赦はしない!」
拳に全身の力を込めて、魔獣がこちらを噛みつく瞬間のタイミングを見て右頬を殴った。
黒い双頭の魔獣は双頭共一瞬で消し飛んだ。
魔獣が大地に沈み込む。
「一発KOかよ」
高揚する自分がいることを感じた。いや、意識した。俺はどうやら、この魔獣程度であれば余裕で一発で倒せるらしい。
「!? なんだ?!! 何かが近づいて来る!」
今の衝撃で、辺りのモンスターを呼び寄せてしまったみたいだ。至る所で大地を響かせる敵意に満ちた咆哮が耳に入ってきた。これは大変なことだぞ。内心、そう思った。これが絶体絶命の危機という感じはしない。先程の魔獣を倒したことで、自信が付いたということもあり、俺は高揚した気分でいた。
「おい! 掛かってこいよ! 全員、片っ端から俺の自信という経験値にしてくれてやる!」
俺は俺を俺の言葉で鼓舞した。それしか、今の俺には出来ないと知っているからだ。
魔獣はいったい何体いるのだろうか。おびただしい数の魔獣が俺の周囲を囲っていた。
モンスターの種類も違う。種類が違うというのに、敵意は俺一点に集約されていた。(この世界の自然か)心でそう思った。
一斉に襲ってきた。片っ端から殴る。蹴る。を、手当たり次第、全力で闘った。犬らしき魔獣やら、鳥のような魔獣、蛇のような魔獣もいた。その中には
種族も種類も恐らくみんな違うのに、連携のとれた攻撃を俺に向けて仕掛けてくる。何かに指示されているかのように。
「うおりゃあああああー!!!」
蛇の魔獣が異様に堅い。一発で倒せなかった。平均して一体あたり五発で倒せるようだ。やはり、魔獣の個体差だろうか、殴った感覚で堅さが、より堅牢なものとそうでないものと二種類いる。
俺の記憶の中では、異世界と言ったらレベル上げや、ステータスが桁違いというのがお約束な筈なんだが。俺がいる異世界は違うらしい。モンスターの類いは共通する部分があるかも知れないが、実際にはレベルが上がった感覚もないし、経験値が上がったという感覚もない。力を込める拳の威力も特段上がった形跡もない。
ただ、わかったことは、俺の純粋な力は強いほうみたいだ。だが、実際にこのモンスター達の勢力がどのくらい危険なのかは、正直分からないというのが率直な感想だ。
ドラゴンらしきモンスターが襲ってきて噛まれた。油断した。そのドラゴンは上空に急上昇した。そのまま乱暴に、”空飛ぶ島”へ叩き付けられた。流石はドラゴン。衝撃の威力で島が半ば半壊しているのが見えた。
島が砕けたと共に落下した。かなりの高度だ。普通なら即死だろう。空中で抗うにも、足場が無いと、ドラゴンの手の内だ。周囲には同族のドラゴンが複数匹見えた。俺を狙っている。そう本能が告げる。
「こんなところで死んでたまるかよッ!!!」
ドラゴンが噛みつこうとする。空中戦では分が悪い。噛みつく瞬間を狙って、口の中を殴った。ドラゴンが怯む。流石はドラゴン、一発程度じゃ、くたばらない。今度は、ドラゴンの首後ろに回って両手で首に両手で握った。
ドラゴンの悲鳴と思われる咆哮が空気を震わせた。
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