第5話 大地が揺れる

結局、朝までアルプと飲み明かした。

とても楽しい夜だった。こんなにも楽しい夜は生まれて初めてな感じだ。この世界も捨てたもんじゃないと、心の底からそう思えた。そういう出会いだった。


「行くか」


「おう」


「お主、これから北に行くのじゃ。亜人族が住む集落があるはずじゃ」


「亜人の集落?」


「本当は、あたいの自治領に招きたいところじゃが、あたいのところにいる寄るよりもまず、亜人族のアミークスを頼るとよい。あやつならお主を基礎から鍛えてくれることじゃろう」


「アミークスって奴に会えばいいんだな。わかった!」


「アミークスがいる集落についてじゃが、ここから南方に位置する大規模集落テラーがあるのじゃ。きっと、あたいのことを離せば良き師匠になることじゃろうよ」


「俺はこの世界のことを何も知らないしな。師匠が出来るなら嬉しい限りだ。ありがとな、アルプ」


「まぁなんじゃ、これから色々なことが起きるかも知れんが、お主なら大丈夫じゃろう。あたいと盃を酌み交わした友じゃからのぉ。アミークスもきっとお主を気に入るはずじゃ。この世界は未知で溢れておる、困ることも多々あるじゃろう。じゃから、なるべく早く北に行くのじゃ」


「おう、ありがとな!」


「なに、大したことはしておらぬのじゃ。それじゃあたいは、これから用事があるのでな。ここで別れじゃ。また何処かで会おう」


「おう」


アルプの小さな拳と俺の拳をコツンと打つけて、アルプと別れた。

寂しいという感覚はない。また会えるという感じが強くした。これはご縁というやつだろう。


それにしても一晩中、飲み交わしたというのに、身体の疲れや、二日酔いという感じもしない。酔っていた感覚はあるが、楽しく酔えたということだろう。


昨夜大量に飲んだお酒のアルコールの度数が低いから?

俺の身体が変化しているということなのだろうか?

こうして、今元気ということは少なからず耐性が付いている可能性があるな。


亜人族のアミークスという人物にも会うということも同時に、自分自身のことも知る旅になることだろう。さて、どうなることやら。こんな感じになるなら、アルプの国に一緒に同行したかったが、そういう空気じゃなかったし、アルプも積極的に自分の故郷に俺を招くという提案をしていない時点でお察しだ。


それに、アミークスという人物の紹介をしてくれたということは何かの意味があるのだろう。アルプとは見た目は可愛いウサギの人だが、話を聞く限りかなり強いということが知れた。


モンスターもこの辺りは出るという話も会話の中で出ていた。アルプのおかげで危険度はかなり低いらしいが、本来は魔獣やモンスターが多数生息していて、遭遇する確率がかなり高いという話らしい。


「それにしても、この辺りが本来は大森林だったって誰かに聞かせても信じられないだろうな。石と砂しか残っていないし。それだけ、豚頭族オークの力が凄まじいということか。それをアルプ一人でどうにかしちまうなんてスゲえな。本当に」


足を北に向ける。

こんな荒廃した土地で方角を知る手段は無いが、アルプが指さした方向に向かって、歩き、途中から体力作りも兼ねて走ることにした。時間が短くなることには越したことはないだろう。


それだけ、短い時間で到着すれば、アミークスに出会って早く修行をつけてもらえることができる。それは俺が今出来る唯一の努力であり、義務だ。


速力はどんどん早くなる。景色が流れる。目の端では景色が溶けているように見えた。それだけ、俺が今早い速度で走っているということだろう。幸いというべきか、やはりというべきか、息もあがらずに安定して長距離を走れている。


この自分に起きている現象は、想像するに体力が馬鹿になっているか、身体そのものが別の”何か”になっているかの二択だろう。恐らく山勘だが、おそらく後者。俺自身の記憶は無いが、俺が前いた世界の知識ははっきり覚えている。それから仮定するに別の何かになったという線が正解に近いんではないかと思う。


踏み込む大地がまるで、クッキーのように簡単に砕ける。荒廃した大地に土煙と足跡で粉砕していく大地がリズム良く大地を鳴らした。

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