第2話 未知との遭遇
「手も足もあるということは意外な感じだな。これが転生というものなのだろうか」
俺は広大な草原に座り、思索した。今のところ人の影すら見当たらない。それよりも草原ばかりで建築物すらも見えてこない。山も川も木もない。
ゆるやかな丘が、ゆるい波をを打つような間隔でただ、緑と空の群青が広がっていた。群青日和とはこのことだと思った。
寝転んで空を見上げた。
「あれなんだ?」
遥か上空に何かの影がある。月じゃない。星でもない。何かそこに人工の建築物の影が浮かんでいた。
「空に建物があるなんて、俺は一体どんな世界に転生してしまったんだ? いや、これは今の状態は転生した状態で間違いないのか? もしかしたら、死後の世界だったりするのか? クッソー!!! 誰も話せる相手がいないからどうしようもないじゃないか!!」
地面に向かって右手を叩きつけた。ただの八つ当たりのつもりだったんだ。本当に。
叩きつけた瞬間、穏やかな草原が広範囲に渡って大きく大地が砕けた。その衝撃は大地から地殻まで届いたんだじゃないかと思うくらいの衝撃が右手から伝わってきた。
「んあ、なんじゃこりゃー!!! 景色半分穏やかじゃない景色になってしまった。というか、俺どうしちまったんだ?! なんか、このままじゃマズい気がする。ここはとりあえず逃げよう!」
大声で自分を鼓舞した。動揺している自分と事態を把握できていない自分と、この力は一体という疑問が身体の中で侵食するかのように膨れあがる気がした。だが、この大地がクラッカーを割ったようにいとも簡単に大きく砕けた光景を見た現実だけが、全身の何かが駆け巡った。
これは血流とも違う。何か自分の中で大きな奔流が渦巻き唸り轟く感触が身体の内側からビシビシと感じることができた。
無我夢中で全力で草原を走った。景色が線に流れていく。正面には何もない。ただ、走った。息は上がらない。得体の知れない動揺感だけが身体の内側から膨れ上がって今にも弾けそうな『力』を感じた。
「うわあああああああああァァッーーー!!!!」
全力で踏み込んだ左足から大地が砕け隆起し悲鳴をあげた。歪む光景に絶叫した。
「俺は一体、何になっちまったんだーァ!!!」
今、俺が走っている速度はきっと自分が思う想像以上に速いのだろう。踏みしめた足の力が左、右へと足が地面に接着する以前に風圧だけで砕けているような麻痺した感覚という違和感やら、感情が昂るままに走った。
結局走った体感時間は正確にはわからない。多分、数時間全力で走った感覚は肌感覚で残っていた。
「はぁ、はぁ、なんなんだ。この力は! こんなに走っても息もあがらない。感情の昂る感覚で息を吐き出しているような。本当になんなんだ。ん?」
一瞬、自分を覆うような影が過ぎ去ったような気がした。上空に目をやると自分の目を疑った。
「ど、ど、真っ赤なドラゴン?!!」
巨大というのには、あまりにも巨大だった。目算、推定あのスカイツリーぐらいはあるだろうか。真紅の巨龍はこちらへ向かって来た。
「貴様、何者だ? 人間族か? いや神人か?」
轟く低音が俺の耳に集約される。何を言っているのかは、何と無くは理解できる。だが、しんじん? という言葉には耳慣れなかった。
「あ、あの、俺は、き****」
あれ? 自分の名前が言えない。俺って誰だっけ? 名前も、どこから来たのかも分からない。まるで、記憶が他人の物になってしまったかのような感じだ。
「どうした? 今一度問う。貴様は何者だ」
轟く低音の声は俺の鼓膜を突き破る勢いで頭の中を反響した。ドラゴンは喋る生き物だったのか。だが、なんとなくだが、冷静な自分がいることに驚いた。
「あの、申し訳ありません。俺は誰かわかりません」
「・・・・・」
「本当なんです! 俺が一体何者で、どこからここに来たのか、全く分からないんです!」
「ほう・・、貴様は自分自身が分からない存在だと。痴れ者がッ!!」
巨大な咆哮が直線上に大地が捲りあがった。
「本当なんだ! 信じてくれ!」
俺は必死だった。このドラゴンは敵か味方かも分からない状態で、頭はフル回転で思考を加速させた。
「この聖地を荒らす不届き者が、何を言う」
ドラゴンの声はさらに低くなった。だが、その言葉と声を受けて、俺自身に恐怖という感情は不思議と無い。感情が無くなった? 現状に脳が処理できなくて麻痺しているとかあり得るのだろうか。
「聖地?! ここは聖地なのか。荒らしてすまなかった。荒らしたことは反省している」
「反省すれば許されるとでも?」
「俺はここの世界に来てまもないということだけしか、記憶がないんだ。だが、断片的に言葉と意味だけが残っているんだ」
俺は間違いなく心は冷静ではあるが、脳が支離滅裂だ。混乱していると言っても過言ではない。これは夢なのかも知れないという選択肢が浮かんでくるあたり、俺の限界なのかも知れない。
「貴様は危険だ。聖地を荒らし、何者かも余に告げぬ愚かな不届き者。余の名は
逆鱗とはこのことだ。そう直感した。
俺は現時点でとてつもなくヤバい存在に目をつけられた。しかも、今、敵認定されたようだ。非常にマズい。自分がどこまで戦えるか、それ以前に戦闘スキルがまるでない。
俺の装備は、ただの白いローブと肌着しかない。防御力は皆無。
「征くぞ」
俺は全力で巨大な龍の口から放たれた光線を正面から受けた。逃げ切れる時間はなさそうで、逃す気も相手にはない。
「まいったな、ここは地獄だな」
言葉よりも先に俺の身体は反応していた。
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