神も魔王も勇者も想像できないぐらいの規模で遍く世界史上最強の存在になってしまったXの話
一
第1話 死亡そして転生
夢を叶えるためには、この方法しかなかった。
異世界転生だ。
自殺する? 事故に巻き込まれる?
「痛いのは真っ平ごめんだ。もう十分だ」と心の中で叫んでも死という境地を越えなければ、異世界転生という自分の中での人生最大の偉業を成し得ることはできないのだろうと思った。
この窮屈な今の世界での俺では無力だ。
不幸というべきか、俺は末期癌だ。ステージ4らしい。担当医師からも全身に癌が転移して余命数ヶ月ということらしい。
だが、このまま死ぬのも真っ平ごめんだ。
呼吸が荒くなった。肺にも癌はもれなく転移している。俺の寿命はのこり数ヶ月。このまま受け身でいることではたして異世界へ転生することができるのだろうか。
俺はとても疑問だった。
「如月さん、血圧を測りますね」
「・・・」
俺の声はとっくに死んでいる。
医師も看護師も俺の目には虚でボヤけて見えるのだ。これが死期を迎える俺の身体の状態なのだろうか。この体験は半ば夢を見ているような感覚に陥る。「これは夢だ。癌なんて悪い夢だ。死ぬのは怖い、恐い、死にたくない!」そう心の中で叫んでみても、誰にも聴こえても聞こえてもいない。言葉という物質が空間に拡散しないからだ。
「し...しぬ..のはこわい」
俺の本音の声は空に溶けて死んでいく。枕元に置いてある異世界転生のラノベらが俺を覗いているような気がした。俺もあわよくば、もし、万が一、それ以下の確率であっても転生するなら未来永劫生きるような健康体で無敵で誰よりも無敵でありたいと強く願った。
「如月さん、今よろしいですか?」
見慣れた担当医師が見えた。
「如月さん、新たに癌が転移していることが判明しました。我々も私も担当医として死力を尽くしていますが、病状が想像以上に早く進行しているいるようです。抗がん剤の投与もこのまま続けます」
医療に関しての手続きは入院した時点で、全てに目を通し書類にサインした。俺には身寄りはいない。25歳という若さもあり、癌の進行が早いと入院する前の診察で話がされていた。
初めての抗がん剤も嘔吐も抜け毛も俺にとっては苦痛を感じる中で生きることを諦めていない自分がいることを無意識内では自覚していた。生きるということは辛い。生きるということはなんだ?
担当医師の応答にゆっくり瞬きで返事した。
抗がん剤には中々慣れない。フサフサだった自慢の髪の毛ももう無い。俺の人生は生まれてから、今日という日に至るまで、後悔の連続だった。
亡くなる前の親にも反抗的で感謝とかもしていなかった。親孝行というものも今更ながらしてみたかった。だが、そんな後悔も、恋愛に失敗した中高時代の連中の顔が心の中を駆け巡る。
今更、悲しくは無いが、自分の無力さに馬鹿さ加減に猛省していた。異世界転生という話も仏や神にすがるだけの無謀な感じに近いのかも知れない。こんなことも、あんなことも、俺には短い人生の中で記憶を掻き集めるように思索した。
俺には夢がある。
異世界転生して、健康体で無敵に過ごすこと。
そんなことを強く思う。
重たい瞼を閉じ深い眠りについた。
心地良い夢が流れてくる。体が少し楽になっているような感覚もある。なんだろうか。こんなに心地よい夢は久しぶりに見た。
夢だというのに、夢だと認識している。
「ここはどこだ?!」
心地良い風が俺の全身を吹き抜けた。まるで現実みたいだ。夢のような現実。そんな夢ももしかしたらあるのかも知れない。立つ感覚もある。見慣れた病室は面影もない。ただ広い草原と青空が広がっている。
「もしかして、これは、俺は死んだのか?!」
手足を確認する。問題無し。死んだのか、誰かに拉致、いや、髪もあるし、弱く細りきった身体が誰かの補助無しで自立出来るわけがない。これは現実だと直感した。
「僕は死んだのか。そうか、あっけない人生だったな。ここが異世界か死後の世界か」
とりあえず歩くことにした。広い草原を宛も無く。少しも疲労を感じることもないし、今のところ空腹も感じない。病的な何か不調も感じることもなかった。
「それにしても、ここはどこなのだろう。異世界だと良いな」
期待が膨らむ。今までできなかったことを、思う存分に新たな人生を歩むことが出来ることはとても楽しいとワクワクしてきた。これからどんな人生が待っているのだろうか。これがただのリアルに見えるだけの夢でないように願うばかりだった。
数十分は歩いただろうか。特別に景色に変化はない。時計がないので、本当に数十分歩いているのかは、勘で感じた体内時計の感覚だ。
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