エピローグ

エピローグ

 後から聞いた話によると、私はそのあと意識を失って、病院へと運ばれてしまったらしい。とはいっても、普通に呼吸していて、なおかついかにも幸せそうに眠っていたものだから、三人で私を抱き上げて病院まで連れて行ったということだ。親にも連絡が行って、家に帰ってから「やっぱり無理してたんでしょ。心配させたくないって気持ちは嬉しいけど、それでかえって心配させられちゃあ、こっちとしてもたまんないってもんでね」と、長々説教を食らった。お母さんがあそこまで感情を露わにして喋るところを見たのは、実に数年ぶりかもしれない。


「今何時?」

 病床で目を覚ますやいなやそう言い放った私に対して、三人はいっせいに「八時だよ!!!」と叫んだ。どこぞのテレビ番組みたいだな、と思う間もなく、私は質問攻めに遭うこととなった。

 私はすべてを赤裸々に話した。みんなとの時間を大切にするあまり、かえって空回りしてしまっていたんだと伝えると、三人は安堵の表情を浮かべた。

「やっぱり、佐織はけっこう流されやすいところあるよね。前々からそう思ってた」

 千佳が言った。

「あれ? 門限は?」

 私が訊くと、千佳は

「親に連絡して許してもらったに決まってるでしょ」

 と不満げな表情を見せた。

「ああそっか、まあそうだよね」

 私が笑いながら言うと、「笑い事じゃない」という反駁が飛んできた。その表情の深刻さを見て、私はさらに笑ってしまった。それにつられて、茜や真帆も笑い出す。最終的には、千佳も声を上げて笑っていた。


     ○

 

 医師が私に下した診断は、「極度の疲労」というにべもないものだった。それを聞いている間、私は終始恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。結局、私は翌日には退院することができた。

 病院の自動ドアをくぐり抜けて外へ出ると、風が吹いていた。梅雨にしては珍しいことに、空は雲一つない快晴だった。体はお世辞にもまだ本調子とは言えないけれど、心にずっと巣食っていた大きなわだかまりもすっかり消え去って、私は快い気持ちでそれを見上げていた。


 例の公園に行くと、ビンの破片はまだそのままの状態で散乱していた。まあ、私以外の誰にも見えないのだから、無理はないだろう。

 破片の中でもひときわ大きいやつを手に取り、ポケットから黒いものを取り出す。そう、油性ペンである。

 太い方のペンで、思いっきり「回収」と書いてやる。そして、その破片を放り投げ、私は公園を後にした。


「ああ、困ります! 我々の大切な品が、どうしてこんな酷いことに……。ちょっと!これはどういうことなのか、説明していただけませんか!」

 後ろから、私を呼び止める声が聞こえた気がした。


 私はノイキャンイヤホンを耳にはめ込み、それを無視した。


 私は、正しくなった。


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ボトル・マリオネット —根之尾 鵙太 筑駒文藝部 @tk_bungei

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