4ー4

PM 3:30 『仮面の魔女』の工房


 中央警察署を出て、邸に帰る前に『仮面の魔女ジャンヌ』の工房のあるビルに立ち寄る。

 もちろん。渡すものを渡して帰るつもりだ。


「ほら、いつもやつ」


「えぇ。確かに、受け取ったわ」


仮面の魔女ジャンヌ』は紙袋を受け取り、中身を取り出す。中身はもちろん、一万円が千枚の束になっている物だった。

 それを受け取った『仮面の魔女ジャンヌ』は、それをカウンターに置く。


「今回は、別に意味で厄介なのもだったわね」


「あぁ。まさか、犯人が亡霊だったとはね。今回ばかりは、少々面倒だったよ」


「そうね。私も、調べ上げるのにいつも以上にかかったわ。魔術師だったなら、すぐに片付いたでしょうね」


仮面の魔女ジャンヌ』は、私の煙草に火をつける。そして、私は煙草の煙を吐く。


「いい感じの化粧をしてるのに、煙草を吸ってるなんて、これじゃ美人の顔も台無しだわ」


「別にいいでしょう? 見られるわけじゃあるまいし」


 私は煙草の灰を灰皿に落とす。『仮面の魔女ジャンヌ』は、私に酒を用意し、グラスを私に渡す。


「これは?」


「ウィスキーよ。今回は、いつもと違うウィスキーよ」


 私は、ウィスキーを飲む。すると、風味がいつも飲んでいる物よりも、風味が違っていた。


「スコッチとは違う風味だな。バーボンよりもクセが強い」


「アイリッシュウィスキーよ。バーボンよりも、風味がキツいわ。まぁ、これに関しては人それぞれね」


「そうだね。まぁ、悪くないな」


 私は、ウィスキーを飲み干す。そして、もう一本煙草を吸う。


「ねぇ、彼女達の霊はどうなったのかしらね?」


「さぁ? でも、無事に成仏されたか、現世に留まったままかのどちらかだ。前者ならまだしも、後者なら、あの亡霊と同じ末路になるだろう。でも、これからもう私たちが干渉することはないと思うな」


「まぁ、あの亡霊ほど強い怨念はないでしょうね。今回のようにはならないでしょう?」


仮面の魔女ジャンヌ』は、私が呑んでいたグラスを片付ける。煙草を吸い終えた私は、ここを後にする。

 そして、別れ際に『仮面の魔女ジャンヌ』は語りかける。


「それじゃね、アル。また何かあったら、連絡するわ」


「あぁ、また頼むよ。『仮面の魔女ジャンヌ』」


仮面の魔女ジャンヌ』は、私を見送るように扉を見つめている。それを後ろに、私は『仮面の魔女ジャンヌ』の工房を後にした。

 ビルを出て、すすきのを歩く。ラフィラの通りを歩くと、どうやら解体作業が再開されていたようだ。

 この間まで、投身自殺で騒ぎが起きていたと思えないほどに、この街は平和だ。誰かにとって、大事になっていても、この街ではとても些細なことに過ぎないのだ。

 すすきのに入る道に進むと、身に覚えのある人物がそこで待っていた。


「やっぱり。あれの所にいたんだ」


「明日香か。ここで待ってたの?」


「まぁね。君があれの所に行ったら、大体ここを通るの知ってるしね」


 偶然そこで待っていた明日香と合流し、二人で帰ることにした。どうやら彼女も、用が済んだらしい。


「リリムが君によろしくって。それに、良く解決できたなって言ってたよ」


「そう。あれも予想していなかったのでしょうね。それより、君はどうして待ってたの?」


「何って、お腹空いただけだよ。早く帰ってラスティアの料理食べたいよ」


 明日香は、ラスティアの料理を楽しみしながら帰ってる最中のようだ。しばらく歩いていると、邸に着いた。

 邸に入ると、ラスティアが待っていた。そして、私たちは食事をするのだった。


 今でコーヒーを飲みながら、テレビを見る。すると、これまで起きていたすすきので起きていた自殺についての特集がやっていた。

 司会者が弁面をしているが、私には耳障りにしか聞こえない。

 それをソファーで見ていた明日香とラスティアは、何か不審に感じていた。


「なんで、こんなことを平然と言えるのかね」


「彼らはそれを知らないんでしょう。だから言えるんじゃないんです」


 ラスティアの言ってることは最もだ。彼らはそれを、『悲劇』として叫ぶだろう。でも、それをしようとするから、根本的なことを知りもしないのだ。

 私は、テレビを横目に、二人に話し始める。


「結局は、彼らにとってこれは所謂ネタでしかないんだ。こうもしないと、人が寄ってこないし、世論の支持を得られない。要するに、エゴの押し付けさ。そうもしないと、彼女達の死は正当化されないんだから」


 私の言葉に、二人は頷く。それを見た私は、話を続ける。


「時に『自殺』というものは三種に分かれる。一つは等価交換による『自殺』。二つは言葉や圧制による『自殺』。三つは使命のための『自殺』に分かれるわけだ。でも、この中で正当に『自殺』と言える物がある。それはなんだと思う?」


 私は、二人に『自殺』について問いかける。二人はその問いに、頭を傾げている。


「いきなり何をいうのさ。そんなの、わかるわけないでしょう?」


 明日香は、呆れながら私の問いに反論する。いきなりそんなこと言われると、そりゃわからなくなるだろう。


「等価交換による『自殺』かな? 残り二つは、『他殺』になるのでは?」


「そうだね。例えば、私はどの道大量破壊兵器となるかもしれない。生きてるだけで、多くに人間を無差別に殺すほどの病原菌を待ってるかもしれない。そうなった場合、私は喜んで『自殺』するだろう。私の『自殺』によって、多くの人を救われるのなら、それで構わないさ。

 でも、残り二つはどうだろう? 結局は人のエゴによって『自殺』する羽目になる。だから、この二つは『他殺』になるんだ」


「『他殺』ねぇ〜。まぁ、昔だったらそれが名誉な事になっていただろうね。でも、今の時代言葉一つで簡単に『殺せる』時代なんだ。時代によってその根幹は変わってるんだろうさ」


「そうだね。今の時代が厄介なのは『自殺の多様化』だ。こんな物があれば、簡単に人を『殺せる』し、『自殺』のやり方なんて簡単に調べられるんだ。

 SNSが普及している時代に、『他殺』の意識なんて、薄いものさ。彼らは誰かが異なる意見を言うと、大勢でそれを非難する。そしてやがて、それを言った人間は耐えきれずに『自殺』する。彼らは、その意見を言った者が死んだらその悲劇を悲しむんだ。自分たちが『殺した』と知らずにね」


「つまりは、みんな自分が『殺した』事に気が付かないまま、『殺した』人間の死を嘆くこと?」


「そういうこと。今回亡くなった少女達は、これに該当するだろう。彼女達は、本来死ぬ事はなかったはずだ。だが、彼女に取り憑いた亡霊のよって『自殺』した。そして、彼女は贖罪の為、自殺した。彼女の場合は一つ目に該当するね」


 私の言葉に、二人は頷く。彼女達の『自殺』を早くに止めれたのだろう。だが、その時点では私たちはどうすることもできなかったのも事実だ。

 その前に止めるというもの意見を聞きたいものだと、私はそう思う次第だ。


「都合がいいことだね。『殺した』くせして知らんぷりなんて、無神経じゃないか」


「それが人間さ。自分はやりもしないのに、他人がやることを非難して挫折させるんだよ。その結果、間接的に『殺した』ことになるとも知らずにね」


 私は、コーヒーを飲み干す。ラスティアは、私に酒を注ごうとするが、私はコーヒーを要望する。なんだか、そんな話をしていると、酒を飲む気分でなくなるのだ。

 明日香は、テレビを止める。そして、ソファーから起き上がる。


「まぁ、君が思うことはわからなくもないよ。でも、自殺なんて良くは思わないかな?」


「そうですね。生きていればまたやり直せるのだから、またやればいいだけですしね」


「やれやれ。前向きだな二人は。いつそこまで仲良しになったんだ?」


 二人は、私のことを振り向く。


「それはそうさ。君が危なかしいだけだよ」


「姉さんは、ほっとくと一人で危ないことも平然とやるんだから。それに、私たちがいないとダメでしょ?」


 私は、ため息をしながら二人の方を見る。流石の私も、こればかりは頭が上がらない。


「わかったよ。これからもよろしくね」


 私は、二人のよろしくの一言を言う。二人は笑顔で、私を見ていた。

 こうして、私たちは、風呂に入りに睡眠するのだった。

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