4ー3

PM 0:30 如月邸


『昨夜、午前2時頃、すすきので転落した女性の遺体が発見されました。

 警察によると、昨夜、午前2時頃、すすきののバーガーショップの入り口の前で、転落した女性の遺体が発見されました。女性は搬送された病院で死亡が確認されました。警察は、これまで起きた8件の自殺と関係性があると見て、捜査を進める方針です』


 睡眠をとり、正午過ぎに起床する。ラウンジに入ると、明日香とラスティアがテレビを見ていた。内容は、昨晩の自殺に関するニュースのようだ。

 自殺したのは彼女みたいだ。どうやら、本当に自分の手で自身の生涯を終わらせたらしい。その贖罪を果たしたのだろう。

 私は、コーヒーを飲みながらそのニュースを眺める。これで、もう自殺者が増えることはなさそうだ。


「結局、彼女は自分で死んでしまったのか。まぁ、自身で決めたことだから、私は何も言わないけど」


「それでいいんだ。どうせ、誰が何言おうと、彼女には死しかなかったんだ。自分の死くらい、決めてあげたくらいが何よりの救いさ」


 私は、一服しながら、彼女の結末を考察する。こうならなくてもよかったかもしれないが、彼女の取り巻く環境がそうさせたのだろうと思う。

 結局は、誰かが救いの手を差し伸べたところで、元の環境が酷い状況なら、人間変わらないと感じたのだ。


「姉さん。報告書にはどう書くの?」


「そうだな。対象の自殺っとでも書いといてもいいだろう。結局、私たちが直接手にかけたわけではないからね」


「わかった。でも、あの人の周囲の状況が良かったら、こうならなかったのかな?」


「そうだね。私は自分で死ぬ事ができないから、言える義理じゃないけど、多分支えてくれる人がいたら、こうはならなかったんだろう。

 でも、そうはならなかった。彼女には、周囲に支える人がいなかった。だから、この事件はこれで終わりなんだ」


「非情な世の中だね〜。死ぬ前から回避する術があっただろうに、死んでから動くんだもの」


 明日香の言うことにも一理ある。当人が死んでから誰かが声をあげるなんて、都合がいいだけの偽善でしかないのだから。

 私が部屋に戻ると、ラスティアも一緒に戻る。そして、私が着る衣服を用意する。


「こんなに平凡な日々が、一瞬で消えることになるなんてね」


「それくらい、この国が平和なだけさ。場所によっては、平和が日常なんて、滅多なことじゃない。非日常が日常の世界だって、あり得るんだから」


「でも、いきなり家族がいなくなる家庭ってどうなのか? 8人の自殺者ひがいしゃ達の家族達は、これからどうなるんだろう?」


 私は、ラスティアの言葉に少し黙り込む。残された人々は、どんな心境なのか、考えるだけで悲惨なものだからだ。


「そうだね。今までいた家族が、ある日を境にもういないなんて、考えるだけでゾッとするよ。だから、命が有限な人間には、自殺なんて考え欲しくもないし、して欲しくない。一体、いつから自殺なんて、気楽にできるものになったんだろうね」


「姉さんったら、人の死には敏感なんだから。だからセシリアや明日香さんにお人好しって言われるんだよ?」


「わかってるよ。それで? 今日の服装はどれにするの?」


 ラスティアは、私が着る服を決める。組み合わせ的には、至ってシンプルものだろう。

 私は、ラスティアに決めてもらった服を着る。黒のボトムスに、白のノースリーブのタートルネックと言う私好みの組み合わせだ。

 指を鳴らし、グラムの封印形態はジャケットから黒のコートに変える。そして、ブーツを履き邸を後にする。

 

「それじゃ、行ってくる」


 私が出る時に、ラスティアが手を振るう。地下鉄を使い、大通で降りると、私はチカホを経由して中央警察署に向かう。

 そして、下川さんに事件の解決を報告する。


「そうですか。全ては、9人目の自殺者が、犯人だったとわ」


「えぇ、彼女の霊に、『ラフィラの亡霊』が憑いてしまい、関係のない8人を自殺させた。そして、9人目は自らの罪を被る形で同じく自殺したって事になりますね。

 結局、オカルトな感じになりましたけど、もう同一の件は起こらないでしょう」


「わかりました。キサラギさんに頼まないと、我々は無関係な人物を逮捕するところでした。そうしないと、警察としてのメンツが丸潰れになりますしね」


 下川さんは、しれっと怖いことを言う。国家公務員としての顔が足らないのだろう。下川さんは、そんな私を見て、何かを話す。


「キサラギさんに言うのは少々アレですが、今回の事件、どうお考えでしたかな?」


「率直に申しますが、自殺と見せかけた他殺と存じます。今回に関しては、ただ自殺した8人が、精神的な問題を抱えたわけでもないのに、自殺した。側から見たら、何かあって、すすきののビルから飛び降りたっと見てもおかしくない。だが、蓋を返せば自殺に見せかてた他殺なのです。

 今の若い子は、単純なことでミスした時点で、自殺なんて考えますからね。そこを狙った殺人なんです」


「なるほど。そこまでお考えになられていたとは、感服しました。でも、警察としては、悔しい限りです。まさか、自殺に見せかてた連続殺人だなんて。

 それも、犯人もまた被害者だなんて。それに、幽霊である以上、こちらでは手の出し用がないのがまた嫌なところですね」


「とんでもない。私は、自殺という観点が疑問に感じただけですので」


 私は、適当に返答をする。魔術が絡んでいたなんて、そう易々といえ何だから。

 下川さんが、床に置いていたアタッシュケースをテーブルに置く。開けると、かなりの額の金が入っていた。


「では、こちらが報酬となります。依頼料と諸々合わせて、1億円になります」


「ありがとうございます。こちらからは2千万だけ受け取り、残りは遺族宛に送ってください」


「良いのですか? これだけの金を少しだけ受けとって残りは遺族に渡しても」


「えぇ、それで構いません。では、失礼します」


 私は、紙袋に札束を入れ、ここを後にする。時刻は、15時となっている。少し、話しすぎたみたいだ。

 こうして、私は寄るべきところに行くのだった。

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