4ー2

AM 1:45 如月邸


 事件がひと段落し、事務所で一服をする。ラスティアは、資料を収集し始め、明日香は持って帰ってきたマカロンを開けては食べ始める。

 ラスティアは、そっと私に酒を用意する。ロックグラスにウィスキーを注ぎ、私のデスクにそれを置く。


「結局、彼女は自分で死ぬことにしたよ。贖罪だろうけどね」


「そう。なら、私に止める権利がないようだね」


「本人の決断だからね。でも、私はやるせ無い気持ちになるかな?」


 ラスティアがそういうが、その気持ちはわからなくもない。だが、自分でその選択をしたのなら、私たちがそれを責める価値はない。

 そうしてしまえば、エゴでしかなくなるのだから。


「姉さん。姉さんなら、どうしてたの?」


「私? 私も同じことを考えてたんだろう。誰かに殺されるよりも、自分で死んだ方がマシさ」


「その方がマシだろうさ。誰かに殺されるより、病に伏してる時間がないのなら、なおさらさ」


 私は、自分ならそうするだろうとラスティアに話す。そして、ラスティアもまた返答をする。


「結局、あの人に残された選択は、自分で死んで全てに終止符をつけるしかなかったっと。でも、そうしなくてもよかった道があったのかな?」


「こればかりは難しいね。どうしようとも、彼女には孤独という現実しかなかった。仲間が欲しかったゆえの末路が、自分で死期を早めたことになったとゆう事実だけが残ったのだから」


 明日香は、彼女に同情するかのように彼女の実態は考察する。結局のところ、彼女に救いの手を差し伸べたところで彼女が独りだったことには変わりはない。

 そうならないように呼び掛けたところで、それを未然に防がないと意味がない。私が思うに、死後にそれを誰かがやるとエゴでしかないのだからだ。


「それはそうとして、明日はどうするの? 休みにするの?」


「そうしようと思う。私も行かなきゃいけないところもあるし、ラスティアも魔術院むこうに報告書作らないといけないしね」


 ラスティアが明日のことを聞き、私は事務所を休みにする。それを聞いた二人はうなずき、それぞれ寝る準備をする。

 私は、もう一本煙草を吸い始める。そして、グラスに注がれてるウィスキーを飲み干す。

 古時計の時刻は、3時を告げている。すすきのから離れているこの邸の外は、静寂に包まれている。

 あれほどの悲劇が起きていたのに、この街では何にも感じていないことに、街っていうのは非情だなっと感じてしまう。

 こうして、私は吸い切った煙草を灰皿に入れ、私も寝る準備を始めるのだった。






 ――――――――――――――――――――――――



数時間前 とある病院



 あの後、話した女性、キサラギ・ラスティアさんと付き添いの女性は去っていった。


「嘘ばっかり。本当は、もう醜くなってるのに」


 彼女は嘘をついた。本当は、この手は咎人になりつつあることはわかっている。でも、彼女のついた嘘には悪い気がしなかった。

 彼女の嘘は、優しい嘘だった。だから、私は彼女を責めるつもりはない。なら、もう行動を起こすしかないのだ。

 私は、車いすに乗り、エスカレーターで下まで降りる。病院を出ると、そのまますすきのに向かう。

 ペダルを回しながら、離れていたころに見た記憶を頼りに、すすきのを目指す。

 手に皮膚が、悲鳴を上げている。病床に伏していた体にはかなりの酷を強いている。


「はぁ……。はぁ……。はぁ……」


 呼吸を荒げながら、すすきのを目指していく。そして、ラフィラの前のビルにたどり着く。

 ビルの屋上までエレベーターで上がる。そして、私はゆっくりと立ち上がり、ビルの下を眺める。

 結局、私は屋上からの投身自殺をすることにした。それが、私ができる贖罪でもある。


「あなたに感謝するわ。あなたが、私を彼女から引き剥がさなかったら、私は咎人になっていた。感謝します、『魔女』」


 私は、一歩ずつビルの屋上の端まで歩く。気がつく頃には、もう足場なんてない。それでも、私は身を投げる準備をする。

 そうだ、私は鳥になろう。鳥が見る光景は、さぞ、美しい光景なのだろう。

 それは、俯瞰を見るということには変わらない。ただ、それは人の身からではなく鳥として見る形だ。

 それが私の贖罪になるのなら、それでいい。私にはもう、それぐらいでしか罪を償えないのだから。

 私は、身を投げ出す。もうこの世に思い残すことはない。そう、私は――――――――






 ――――――――――――――――――――



AM 2:50 とあるホテル 【『仮面の魔女』の視点】


「そう、彼女は結局、自殺をしたのね」


 彼女の訃報を聞き、私はそうなるであろうと感じた。料理を食しながら、ワイングラスに注がれたワインを飲む。

 その料理は、『魔女』となって1000年経った今でも美味に感じるのだ。


「それで? あの方に解き放った彼女の魂は、自身の体に戻って、そして、自殺したっと。都合の良いものねぇ。私が『生きた時代』では、そんな事すら許されなかったのに」


「今の時代の人達は、そういう考えに至ることが多いのよ。どう言おうが、結局はそうするの。でも、起きるまではみんな無関心なのも今の時代の特徴よ」


「皮肉なものね。抱え込むことが当たり前になるなんて、育ちがいいのが仇になったのかしら?」


「そうかもしれないわね。それで? 何故、私は誘ったのかしら?」


 彼女は、不敵な笑みを浮かべながら、話と続ける。


「単純よ。ただあなたと話したかっただけ」


「そう。なら、もうすぐお暇させてもろうわ」


「連れないわねぇ。あなたの為に高級な食材を提供したのに」


「別にいいでしょう? あなたも『魔女』なら、自分の使命を弁えなさい。不要に出ることは、あまりしない事ね」


「わかってるわよ。私も、あなたと同じ、祖国に棄てられた身ですもの」


 その言葉に、私は無言になる。だが、彼女と私では、その時代というのかなりかけ離れているが、境遇は一緒だ。それを指摘する価値は、私には無いのだから。


「では、失礼するわね、『優越の魔女マリー』。それと、料理は大変美味だったわ」


「えぇ、嬉しい限りだわ『仮面の魔女ジャンヌ』。またお会いしましょう」


 彼女の言葉に、私は亜空間を開き、この場を去る。こうして、二人の『魔女』による密談は、これにて終演となるのだった。

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