終宴

梵は十数時間、地下の祠に篭っているらしい。

蒅がその入口まで案内してくれるという。

滴る水など気にも止めず、夢中で蒅の背中を追った。夕風が頬を撫でて熱を奪う。


「七宝柑さん、笑顔だし、余裕そうだね!年の功ってやつ!?」


「わっはっは!そう見えるか!」


───そんな訳があるか。


想いを寄せる相手に「もう会わない」と言われ、気を揉まない輩がいるものか。


虫の知らせを感じてか、背筋が冷える。

今筆を執ろうものなら、墨が滲んで文字も書けないだろう。

千尋の谷へ突き落とされているような心地だった。


「あ!でもやっぱり寒い!?ちょっと震えてない!?七宝柑さんに水被せるなんて不敬だったかなあ!?ごめん!!俺も被るから!!」


勝手に水を被り始めた蒅の後ろを見ると、赤漆で塗られた鳥居と、荘重な神門があった。

地下への扉しか無い小さな社だが、その周りには外界を拒むように玉垣がめぐらされていた。


「蒅、ここか。」


「はぁ、はぁ……あ!そう!ここがそよ兄の引きこもり部屋だよ!襖とか階段が多いから、気をつけてね!」


門を開き、一歩そこに踏み入れると、空蝉では無いような雰囲気に充ちていた。

そこいらの若造ならこの時点で怖気づきそうな程の陰鬱とした空気。


この奥に梵が一人、何かを抱え込んで思い詰めているのか。そう考えた時にはもう、十数枚の襖をこじ開けていた。


そのまま勢いを落とすことなく、疾駆する。

空気が薄くなり初め、襖の音の響きも変わったころ、最後の一枚を開け放った。


「梵…………!」


そこには、怯えとも困惑ともとれる顔の梵が座っていた。


「し、七宝柑……っ何故……!」


「なに、大したことでは無い。宴に誘おうと思ってな。」


「ふざけるな!……私は、もうお前には会えない!……いや、会わない。蒅にもそう言付けたはずだ……。」


珍しく取り乱した様子の梵へ、優しく窘めるように言葉をかける。


「……梵、何をそう恐れているのか、俺に話してくれないか。理由も分からぬまま、おめおめと帰るわけにはいかん。俺はまだ、お前と共にいたい。」


強い、恐れの念を感じる。しかし、その裏には確かに昨夜感じたが隠れている。


「っ……!そうやってお前が、私の心を踏み荒らすからだ…!」


そう言った梵は、目に涙雲を浮かべているように見えた。その顔と言葉に、何も言えず立ち尽くす。一時の沈黙の後、梵は俺に背を向け、言葉を連ねた。


「七宝柑…、お前が私に語りかけ、この心をこじ開けることで、私の中の何かがゆっくりと瓦解していく……。私はもう、それに耐えられそうにない。頼む、これ以上私を苦しめないでくれ…!もう、私の前から消えてくれ……!」


これは梵が腹の底から思っていることではない。そんな事は分かっていた。

それでも、梵をここまで追い込んだのは自分だという事実は変わりない。幾ら慕っていようと、想いが強かろうと、幸せにできずに何が好漢か。


潮時だろう。結ばれなくとも、愛を失うわけではない。梵の幸せを祈り、影から見守ることが出来ればそれで十分だ。


「……そうか。それ程までにお前を苦しめているのなら、俺は消えよう。二度と現れないと、……………………約束する。」


「……。」


梵は、振り向きもせず、貝のように押し黙っていた。せめて最後に、あの美しい炎のような瞳が見たい。絹のような髪に触れたい。落ち着き払った、澄んだ声が聞きたい。


千歳を生きておいて、なんと女々しいことを願うのか。もうそれが叶わないということは、この静寂しじまが残酷に示唆している。


「……すまなかった、梵……。」


我ながら、厚い心化粧をしたものだ。

死に物狂いで身に付けた克己心が、まさかこんなところで役に立つとは。


ぐっ……


後ろの裾を引かれた感覚に、息が止まった。

鼓動が速くなるのを感じながら振り向くと、梵が俺の裾を掴んでいた。


その顔を見た途端、今まで抑えていた愛しさや卑しい感情がとめどなく溢れかえる。ぶちっと音を立てて、唇が切れた。


「ッ…………!なんて顔を……!」


梵は無意識だったのか、はっとして手を離したがもう遅い。俺の箍は外れ、二度と嵌ることは無い。気づけば俺は梵を抱き寄せ、口付けを交わしていた。


「ッ……な、七宝柑……ッ!?」


「…………気が変わった。」


狼狽している梵の口を、再び口で塞ぐ。無理やり口をこじ開け、舌を吸い出す。食むように舌を絡めながら、梵の細い身体をきつく抱き締めた。切れた唇が甘く痛む。


「ん"ッ……!うぅ"ッ……///ふ、ッ……♡///」


「ハァッ…♡梵……ッ///」


互いの舌が溶け合いそうなほどその甘美な感覚を確かめ合う。苦しそうに息を漏らす梵の口を存分に犯した後で、ゆっくりと舌を抜いた。光る露が、二人の口を繋ぐ。


「ハッ…♡ハァッ…♡♡///七ッ、宝柑……♡///何を……ッ!///」


先程までとはうってかわり、蕩けるような顔の梵がそこに居た。そして溢れるは例の念。その念にあてられるようにして、俺も衝動を抑えきれなくなった。


これが五色米の言っていた、所謂「欲情」の念だろう。


「俺に、欲情しているのか…梵。」


「……………………ッッッ!?////欲ッ……お前ッ、何を馬鹿なことをッ……!!///」


目を逸らし、逃げようとする梵の手首を掴み、床に押し倒した。梵は必死に身じろぐが、その努力も虚しく俺に組み敷かれる。


「俺は、欲情している。」


震える梵の股に欲情の証を押し当てる。


「は、ぁ"ッ……////♡♡何だッ……その、かたいッ……////」


「知りたいか…?

…………………!

………………お前も同じみたいだぞ。///」


梵のそれが膨らんでいることに気付き、互いのそれを擦り付け合った。びくりと跳ねた感覚が下腹部に伝わってくる。


「う"、ぁ"ッ……!?///♡♡♡」


「フッ……♡///梵ッ……♡俺もこれが何か知らなかったが、やっと分かったんだ…///これは、お前を俺のものにしたいという欲の現れらしい…///」


「ッッッッ……!!!////」


梵はその言葉を聞くと、髪を逆立て目を瞠った。


「七宝柑、お前ッ……!////何を言っているのか分かっているのか……!?////」


「……梵、お前を一生俺の傍に置きたい。こうなっているということは、お前も、同じように思ってくれているんだろう?///」


ぐりっ♡


「ん"ッぁ"♡////ッッ……!////さ、触るなッ……///♡そこはッ……!////」


「……認めるまで確かめ続けるぞ。」


「ぁ"ッッッ‎٨ـﮩﮩ٨ﮩ෴ﮩ──♡♡♡♡///」


少し強く擦ると、足をがくがくと震わせ、咄嗟に口を押えた。


「フッ……♡フーッ…♡♡////」


「梵…///俺の前では、何も隠すな…どんなお前も受け入れる。……好きだ、梵。」


「ッッッぐ、ぁ"ッ……♡♡♡♡///」


耳元で想いの丈を伝えると、梵が急にびくびくと大きく震えた。何が起こったのか分からず、梵をよく観察してみると、股が濡れていた。


「……これは、梵。もう気をやったのか…?///」


「……ッッ////見るなあ"ッ…!////」


ゾクゾクッ……♡♡♡


心臓が壊れそうになるほどの興奮。

気付けば俺は、梵のそれを直接掴み、扱いていた。


「ぁ"ッ♡あ"ッッ♡♡うあ"ぁ"ッ♡♡////だめだッ♡♡そんなッ♡♡///今は、あ"♡♡////」


「フーッ♡♡///梵ッ…♡♡♡///そんな姿を見せられては、もう歯止めが効かん"ッ…♡♡♡♡///大人しく観念しろ"ッ……♡♡♡////」


震えながらもまたかたくなりはじめたそれを、次は口へと誘う。


「ッッ!?!///しっ、七宝柑ッ……!?」


「……よく見ておけ。///」


梵に見せつけるように舌をゆっくりと太ももに這わせる。


「ひっ、ま、待てッ……///まさか……ッ!」


梵の制止など聞くはずもなく、先端から一気にずぷずぷと咥えこんだ。


「は、ぁ"ああ"ッ……♡♡♡///ぐ、う"ッ♡///」


梵の反応を見ながら、口の中でそれを嬲る。

裏筋を執拗に舐めたり、根元から先端まで吸い上げたりしてやると、腰を浮かせながら仰け反った。


「ハァッ♡♡ハァーッ♡♡///あ"ッ♡///はっ、ぁ"ッ♡う"ッ♡♡♡ああ"ッッッ♡♡♡しっぽぅ"かん"ッ♡♡♡♡///も、またッ♡♡出ッッッ…♡♡♡♡///」


ぴた


「───ッッッぁ"!?!////」


梵がもう少しで達しそうになっていたのを見て、すんでのところで止めてやった。


「何ッ……///七宝柑ッ……!?////何故ッ……!」


「……まだ、お前の返事を聞いていない。」


「……ッッッ!わ、私はッ……////」


まだ少し、恐れの念が混じっている。口を結ぶ梵を見て、更に言葉を投げかける。


「……俺は、お前とならば、契りを交わしたいと思っている。」


「ッ……ち、契り……?///」


「契りを交わせば、お前は永遠に俺のものとなる。」


「ッッッ…だから、その契りとは、何をするんだッ……///」


「………………これを、お前の中に挿れて、俺の魔力を注ぐ。」


梵の声を聞いて、味を知って、すっかり出来上がったそれを、見せつけながら押し当てた。


「ッッ……!!??!/////なッ……///挿れ……!?///一体どこに挿れるつもりだ。!!?///」


「…………ここだ。///」


精液と唾液が混じったもので、遠に濡れそぼったその穴を、指で刺激した。


「ぉ"ッあ……!?////ふ、ふざけるなッ……そんなところ、ッ……!///」


つぷッ……♡


「ッッぁ"ッ……!♡////」


ぬぷぬぷと、先ずは一本の指で徐々に解していく。


「は、話をッ♡♡聞けッ……ぇ"!////♡」


「フーッ……♡///言っただろう、もう歯止めが効かないと…ッ♡♡///」


中を優しく解している間、物欲しそうにぴくぴくと震えている梵のそれも丁寧に舐めてやる。


「お"ッ…ぁ"ッ!?♡♡♡♡///やめ"ッ♡///さ、さっきので、またッ……♡////」


「だめだ。まだ返事を聞いていないぞ、梵。」


「ッッッ……!!!///、ッ……!///」


それから数回、同じ下りを繰り返し、俺も梵も我慢の限界に達していた。俺は梵の足に自身を擦り付けながら、梵の中や梵自身を執拗に責め続けていた。梵はと言えば、俺の指を三本も呑み込み、中をうねらせている。


「ハッ♡♡ん"ッ……♡♡///梵ッ♡もう、三本も入った…♡♡///すぐにでも、契れるぞ……♡♡♡////」


ぐちゅぐちゅと水音が響く中、梵が俺の肩に手を回した。


「ッッッ……ハァッ♡♡ハァーッ…♡♡////ぐ、う、ッ♡♡♡七宝柑ッ……♡♡///私がどうなってもッ……、愛してくれるか……ッ?////」


全身の血が湧き、腕に力が入る。

生唾を飲み込み、声を絞り出した。


「……愚問だな、梵ッ……////誓って、愛し続ける。」


「……ッッッ♡♡♡////七宝柑ッ……♡♡好きだッ♡♡♡お前のものになりたッ…

ぁ"ッッッ‎ﮩ٨٨ـﮩﮩ٨ﮩ෴ﮩ───♡♡♡♡!?////」


抑えきれない衝動に駆られ、気付けば腰を打ち付けていた。


「───ッッッぉ"♡♡♡♡///あ"ッ♡…ハァッ♡♡♡ハァーッ♡♡♡////梵ッ♡♡///ぐッ…♡もう"少し、力を抜けッ……♡♡///は、ぁ"ッ…♡♡///」


梵の中が熱い。この上ない多幸感と、甘い電流のような刺激が火照った身体に響く。力を抜けと言いながら、自分は腰が止まらなくなっていた。梵の前立腺を抉るように突く度、中が吸い付くようにうねる。


「七ッ、宝柑"ッ♡♡あ"ッぁ"ッ///♡♡♡♡♡無理だッ♡♡そんな、急に"ッ♡♡ッ♡ハァッ♡♡ずっと、出していなかったからッ♡♡♡♡もう出るッ♡出るッッ♡♡♡♡七宝柑"ッッ♡♡♡♡///」


「ッッッ////煽るのも大概にしておけえ"ッ……!////♡♡♡俺も、もう"ッ♡♡はッ♡ぁ"ッ♡♡///イ"ッッ……く♡♡♡♡///梵ッッ♡♡好きだッ♡一生幸せにする"ッ……♡♡♡お"ッッッ♡♡♡////」


梵の嬌声と締めつけに五分と経たず精を放った。


ぎゅうっ♡♡


と、間髪入れずに締め付けられ、身体が跳ねた。


「ッッッ!?!!ッぉ"……い"ッ////♡♡♡そ、梵ッ♡///」


「はっぁ"ッッ♡♡♡好き、だぁッッ…♡♡♡♡///」


脚が腰に絡みつき、ずぷずぷと奥まで呑まれてゆく。根元まで入ると、更に締め付けが強くなった。


「ん"ッ……♡♡ッ♡////そんなッ、絞めたらッ♡♡また、イ"ッぐッッ…♡♡♡♡////ん"、ぉ"ッ♡♡

ッッッﮩ٨ﮩ٨ـﮩﮩ٨ﮩ෴ﮩ───♡♡♡♡///」


「ッッッ♡♡ハァッ♡♡///本当はッ♡♡ずっとこうしたかっ……♡♡♡♡///ぁ"ッ♡♡

い"ッ‎ﮩ٨ـﮩﮩ෴ﮩ──────♡♡♡♡♡♡////」


「ハァッ♡♡♡俺もだッ……♡♡梵ッ♡♡愛してるッ……♡♡♡♡///」


その後、獣のように貪り合いながら夜もすがら愛を誓いあった。


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開宴 王水 @pinnsetto87653

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