第4話 変化した学校生活

 能力鑑定の翌日、翔の学校生活は明らかに変化していた、すでに昼休みになるというのに1件の依頼もない、ここまで安息に満ちた学校生活は今までなかっただろう、だがかけるの心境は複雑だった。


「(金がねぇ………)」


 今まで能力の依頼で稼いでいた翔は収入減を失っていた、ほとんどを両親に渡していたとはいえ、隠していた分ですらプレゼントを買うには少なすぎる。


「(どうすりゃ美玖みくに恩返しできるんだ、そもそもプレゼントなんかで喜ぶのか?俺が買える程度のもので…、だけど部屋の鍵を開けるのはなんか怖いんだよなぁ…自分からキスするのもハードルが高い…)」


「どうしたの翔」


「うわっ、びっくりした…」


「一緒にお弁当食べましょう?」


「あぁ今行く」


 いつも昼に利用している屋上につき、美玖と一緒に作った(と言っても翔は手伝い程度だが)お弁当を広げる。


「気にしなくてもいいからね?」


「そうは言うが、俺はこの恩をどうやって返せばいいんだ…?ここ二日病気もケガもしてねぇ、こんなことはガキの頃以来初めてだ…」


 美玖の両親と話した後、家で何度もこの手の話をしている二人はお互いの意見を曲げる気はない。


「だから、翔は私と一緒に居てくれればそれでいいの、ほんとは恩に感じる必要すらないけどそれだけで恩は返してもらってるのよ、どうしてもと言うなら今日一緒に寝ましょう」


「それが出来ねぇから何かプレゼントしたいって言ってんじゃねぇか……さすがに能力で金儲けするのは美玖の好意に泥を塗るようなことだってわかってるからやらねぇが、バイトもダメなのはどういうことだ?」


「バイトを始めたら一緒に居る時間が無くなってしまうじゃない…そんなの嫌だわ…」


「う……悲しそうな顔すんなよ…わかった、バイトはしねぇから…な…?」

「(あの夢を見てから美玖への気持ちが強くなってる気が…夢の中に出てくる女の子が美玖に似てるような気がするのが関係してんのか?)」


「(これまで何回もやり直したけど、翔の態度が付き合って数日で軟化するなんて…こんなことなかったわよね?何が原因で変わったのかしら…今のところ私以外にはいつも通りふるまってるから…私が原因?何かしたかしら…)」


「美玖……?大丈夫か…?」


「えぇ、何でもないわ、心配してくれてうれしい」


「…………よし、決めた!」


「?…どうしたの?」


「いや、気にしないでくれ!家に帰ってから説明する!」


「わ、わかったわ」


 弁当を食べた終わった二人はしばらく屋上で過ごして教室に戻った。


「えー、先日の定期能力試験ですが、このクラスから複数人の落第者が出てしまいました、皆さんは日ごろから訓練を怠らないようにしましょう」

「また、上位10人の中からも落第者が出てきました、今までは上位10名は無条件で訓練を免除出来ましたが、これからは訓練免除申請を行い自己訓練内容を記載した書類と訓練を実施した際の動画を提出してください」

「では今日の訓練を始めます、超能力者の生徒たちはいつものように座学となりますがデメリットが軽い生徒は訓練への参加を許可します、以上です、では座学以外の人は体育館へ移動しましょう」


 ぞろぞろと教室から移動していく生徒たち、教室に残ったのは10人ほど。


「翔、今日は何勉強するの?」


「あぁ、幸運の能力者の歴史について調べる気だ」


「どうして?」


「幸運のデメリットを発生させずに能力を使っていた人がいないかってね」


「ヴィンセント・ギデンズみたいな?でも彼が言っていたのは嘘だって歴史書には書いてあるわよね……ほかに誰かいたの?」


「ああ、結局その人は幸運のデメリットで亡くなっているしね、だけどヴィンセントが能力を使った描写があるのにデメリットの記述がない人が一人いたんだ」


「……誰かしら?」


「愛人だよ、どの歴史書にもほとんど記述がないけど、浮気がばれて感情的になった奥さんに二人が刺されそうになったときに能力を使って愛人を助けたって書かれていて、その後は特にけがをしたとか重い病気になったとかの記述がないんだ」


「確かに教科書には浮気がばれて破局した、くらいしか書かれていないところね」


「俺が幸運の能力だからわかるけど、今にも殺されそうな人を助けるってことは、自分も死にかけるほどの不幸が降りかかるってことなんだ、だからこの後に何の記述もないのが気になって……」


「わかった、私も手伝うわ」


「え?いや、単なる好奇心で調べてるだけだからな?」


「ええ、私も気になるから手伝うの、だって、妻よりも愛していた人を助けるために能力を使ってデメリットなかったなら、私たちが愛し合えばデメリットなしに能力が使えるかもしれないじゃない?」


 美玖の発言に勉強していた生徒がコソコソ話を始める。


「美玖、そういうことはせめて二人の時に言ってくれ……」


「ええ、ごめんなさい、少し興奮してしまって……」


 結局その後さまざまな歴史書をあさってみたがそれ以上の情報を得ることは出来ないままその日は終わりを迎えた。




「ふぅ、今日も楽しい一日になったわね」


「…………」


「まぁ、翔が一緒に居てくれているからだけれど」


「…………」


「どうしたの翔?何か私悪いことs「美玖っ!」」


 翔が美玖の方をつかむ、あまりのことに美玖は冷静さを失いうろたえることしかできない。


「なななな、なに!?どうしたの!?どういう状況なの!?」


「美玖!俺美玖に感謝してるんだ!」


「え、ええ、感謝はありがたく受け取っておくわ、でもこの状況はいったい……」


「美玖、前にお礼ならキスしてくれって言ってたよな?」


「あ、あれは、確かに言ったけど、半分…いえ、2割くらい冗談のつもりで……」


「美玖!俺を助けてくれてありがとう!」


 そう言って、翔は美玖のおでこに口付けをする。


「へ?おでこ?」


「す、すまん、さすがに唇へは勇気が足りなかった………」


「な、なんだ、おでこかぁ、びっくりしたぁ」


「美玖、その言葉遣い………」


「あ、ごめんなさい、ちょっと素が…いえ、何でもないわ…」


『えへへ、私と同じだね』『一緒に帰ろう!』『私も翔君と一緒に居るのが一番落ち着くんだ…』夢の少女の記憶が翔の頭にあふれ出す、だがこれはありえない記憶、そもそも翔はこの少女と会ったことがないのだから。


「う、あ……」


「翔?どうしたの?……翔?」


「え?ああ、ごめん、何でもない……いや…最近知らない少女の夢を見たんだ、夢の中でその子は俺の大切な友達で、かけがえのない存在だった、現実でそんな子いないんだが…ちょっと美玖に似ててさ…はは、その子との会話が頭をよぎっただけなんだ、ごめん、意味わかんねぇよな…」


「………そんな…ありえない…今までこんなこと…」


「美玖?」


「ごめんなさい、少し気持ちの整理をさせて……おでこでもキスはうれしかったわ……」


「え、美玖!?」









×××××××××××××××××××××××××

「翔、明日は専属の鑑定士に依頼するから、能力鑑定会場に行く必要はないわ」


「…チッ、分かったよ、どうせ拒否権はねぇんだろ…」


「まぁそうね、でも、あなたを幸せにしたいだけなのは覚えておいてちょうだい」


「どうだか…、だが、学校のやつらから助けてくれたのは事実だからな……瀕死になるくらいなら我慢してやるからさっさと望みを言え」


「っ!!だから!私はあなたを幸せにしたいだけなの!あなたが好きなだけなのよ!なんでわかってくれないの!?」


「な…何怒ってやがんだ…俺を好きなだけなんて…そんなことあるはずがねぇ…俺を好きな奴なんて…そんな奴…」


 私は耐えなければならない、友達のまま彼を救うことは出来ないと彼の自由を制限している私は、彼に私の好意が受け取ってもらえないことを苦痛に思ってはいけない、彼の唯一の友達も私は奪ってしまったのだから…


 何度彼に好きだと言っても、愛をささやいても、彼の中でそれは嘘になる、彼から部屋にカギを掛けたいと言われた、私はそこまで信用できないのか、私は間違っていたのか…


 能力鑑定が終わり、余った時間で近くのファミレスに向かう。


「(これは私が望んだんだ、でも、やっぱりつらいよ……)」


 バキッガキンッガコン…


「ぁあ?なんだこの音」


 美玖の頭上に看板が落ちてくる、考え事をしている彼女が気付くはずもなく、気が付いているのは翔だけ。


「チッ、てめぇ!ボーっとしてんじゃねぇ!」


 ドンッと翔が美玖の背中を押す。


 ガコォン!!


 落ちてきた看板は丁度美玖と翔の間に落ちた。


「あ、ありが――」


ギギギ…バタァン!


 そのまま看板は翔の方へ傾き、翔は下敷きになる。


「え……きゃあぁぁぁああ!!翔!!」


 一応翔の意識はあるようだが、彼の体から広がる血は彼にもう時間がないことが素人目にもわかるほどの物だ。


「へ、へへ、これで貸し借りはなしだ……ゴホッ……………」


「しゃ、しゃべらないで!今救急車を…」


 結局救急車で運ばれるまでのなく到着した救急隊からは「諦めてください…」と言われるのみだった。


 私は能力を使った

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