第3話 能力鑑定と初デート?

『翔君も、デメリットがあるんだ…えへへ、私と同じだね』


『そうだね、そう考えたらこのデメリットにも存在価値を見出せる気がするよ』


『私のデメリットはまだ1度しか経験したことないけど、絶対に使いたくないよ……怖いよ…』


『■■のデメリットって…』


『ごめん、今は言いたくないんだ……そうだ!今日も一緒に帰ろう!今日は私の家で一緒に遊ぼうよ、新しいゲームも買ったんだ!』


『えぇ!?女の子の家に行くの初めてだよ…緊張する…』


『そ、そっか、そう言われると私も緊張してきちゃった……』


『(他人から見れば傷の舐めあいかもしれないけど、彼女との会話ほど楽しめるものを俺は知らない、彼女との会話でだけ俺は本当の自分になることが出来る…)』


『ご、ご飯も食べて行って、お母さんも喜ぶと思うから!いつもコンビニ弁当なんでしょ?』


『うん、ありがとう、お言葉に甘えさせてもらおうかな……あれ?■■?どこ行ったの?■■!!どこ!?』


―――ピピピピピピ


 飛び起きた翔は携帯をとってアラームを消し、何かを探すように周りを見渡す。


「………夢か、この夢を見るのも久しぶりだな」


「なんか…美玖に似てる気がするな……あの子……」


「(能力覚醒後から不思議な夢を見るようになったんだよな、能力ではなく自分を見てくれる女の子の夢、最初はお姉さんだと思っていたけど、今では同い年くらいだな……)」


 そんな子は今まで現れなかったが…と翔はため息を漏らした。


 翔は、寝巻から普段着に着替えリビングへ向かう、美玖はもう起きていたようで朝食の準備をしている。


「おはよう、昨日よりはよく眠れたみたいね」


「おはよう、何か手伝おうか?」


「じゃあ、そこの棚から食器を出してちょうだい」


「わかった」


 朝食をとった後、美玖が翔に声を掛ける。


「翔、今日デートをしましょう」


「へ?いや、今日は超能力者の能力鑑定日だぞ?無理だろ」


「ちゃんとできるわよ、10分くらいで終わるかしら」


「確かに並ばなきゃそんなもんだろうけど、この世に超能力者が何人いると思ってんだ……」


 能力者と超能力者の比率は大体2:1で学校にもかなりの人数がいる、一時期超能力者は能力者の上位存在だという風潮が広がっていたが、能力者の増加によって現在では強力だが使い勝手の悪い能力と言う認識にとどまっていた。


「じゃあ準備して、あ、財布は持たなくてもいいわよ、私が全部払ってあげるから」


「いや……そういうことじゃ…」


 早々に準備を終えて外へ出ると、家の前に一台の車が止まっていた、割とどこにでもあるようなセダンだ、運転席と助手席に人が乗っている。


「お父さん、お母さん、運転は私の運転手に任せるって言ったでしょう?」


「え……?」


 すると窓が開き、快活そうな雰囲気の男性が顔を出す。


「いやー、すまんすまん、どうしても翔君に会ってみたくなってね、昔から話は聞いていたが、やはり一度も会わないのはどうかと思うし……」


「そうよ美玖、私たちだって翔君に会いたかったんだから」


「もう、お母さんだってずっと能力を使うの疲れるでしょ?だから運転手を雇ってたのに……」


「この程度問題ないわよ、車の強度を上げるくらいなんでもないわ、と言っても訓練された超能力者の攻撃には1発防ぐのが限界でしょうけど」


「さあ、美玖も翔君もはなく乗って、早く終わらせてしまおう、先生も待っているからね」


 扉を開けて車に乗り込む、シートベルトを着けて車を出すが翔が思っていた方向ではない。


「すみません、こっちは能力鑑定会場じゃないですよ?」


「なんだ美玖、翔君に言ってなかったのか?翔君、うちは専属の鑑定士がいるんだよ、今からその人の家に行って鑑定してもらうんだ、もちろん資格は持ってる人だから安心してね」


「す、すごいですね…」


「ははは、僕たちに敬語を使う必要はないよ、僕たちのことは家族と思ってもらって大丈夫だから!」


「そうよ、ご家族のことで大変だって聞いたけど、これからは私たちもあなたを支えるわ」


「あ、あはは……ありがとうございます」


 15分ほど車を走らせると、一軒家の前で車で止まる。


「ついたよ、私たちは車の中で待ってるから、行ってきなさい」


「ありがとうお父さん」


「ありがとうございます」


 車を降り家のチャイムを鳴らすして間もなく玄関が開かれる。


「お待ちしていましたお嬢様……そちらの方は…?」


「恋人の野々瀬ののせかけるさんよ、今回から彼も鑑定してくれる?」


「その方が…承知いたしました、ではこちらへ」


 格式ばった印象を受ける女性の案内で突き当りの部屋に通される。


「ではこちらで鑑定を行います、まずはお嬢様から」


「はい」


 鑑定士の女性が美玖の手を握り能力を発動する、はたから見れば特に変化はないが、女性は翔達が見えていないものが見えているようで、文字を読んでいるかのように目が動いていた。


「ふむ、お嬢様の能力は変わりありませんね、報告はいつものように?」


「ええ、不明とだけ報告しておきなさい」


「承知いたしました、では翔様もこちらに」


「は、はい」


 鑑定士が美玖の時と同じように能力を使う、今度は少し顔をしかめているようだ。


「終わりました、また難儀な能力に目覚めましたね……今までつらかったでしょう…」


「い、いえ…その、はい…」


「結果ですが、一度に渡せる幸運の量が増えているみたいですね、お嬢様、翔様の能力はどのように報告するので?」


「さ、様?」


「そうね……前回の鑑定結果は持っているわね、それと同じ結果だったことにしましょうか」


「それが良いと思います、このまま報告してしまうと不埒な輩が寄ってくるかもしれませんから…このまま最大限能力を使ってしまうと……最悪死んでしまいます」


「え……」


 その後、美玖と鑑定士の女性は少し話をして能力鑑定は終了した。


「ほら、10分で終わったでしょう?」


「そうだな……」


「最後に言っていたことが気になるの?そんなこと私がさせないわ、それに私たちも絶対にしない」


「ああ、ありがとう…」


「じゃあ、これからデートね、両親には帰ってもらいましょう」


「いやいや、まだまだ父さんたちは一緒に居るよ?美玖と会うのも久しぶりなのに、ここでお別れなんてひどいじゃないか」


「娘のデートを邪魔するのはひどいことじゃないの?」


「うぐ……そんなこと言わないで、父さんたちにも翔君と話をさせてよ」


「はぁ、分かったわよ…翔、ごめんなさい、2人きりのデートはまた今度にしましょう」


「あぁ、俺は問題ないよ」


「じゃあどこに行こうか……」


「とりあえず話すだけなら私が決めていいかしら」


「そこは美玖から見てなんだね?」


「えぇ」


「(大丈夫な場所?まあ、美玖の家は金持ちみたいだからな…狙われることも多いか)」


「なら早く行きましょ!お母さんちょっと疲れてきちゃった…」


 美玖の母親が大げさな動作で疲れたことをアピールしている、それを聞いて父親が大変だとばかりに翔たちに乗車を促す。


「そうだね、じゃあ、車を出すから二人とも早く乗って!」


「はぁ…はいはい」


「よろしくおねがいします」


「よしじゃあ、出発するから場所を教えてくれ」


「はいはい、場所は――――」


 そしてついたのは意外にもこじんまりとしたイタリアンキッチン、入ると落ち着いた雰囲気に小気味良い音楽、そして香ばしい匂いがあたりに漂っている、席に着いたが昼にはいささか早いので飲み物と軽食を頼む。


「それじゃあ、まずは自己紹介をしようか、美玖の父親で支倉はせくら信二しんじだ、よろしく」


「母親の支倉はせくら優実ゆみよ、よろしくね」


「野々瀬翔ですよろしくお願いします」


「さっきも言ったけどそこまでかしこまらなくても大丈夫だよ、将来僕たちの息子になるんだから」


「そうそう、だから本当のお母さんだと思ってくれていいのよ」


「はぁ、お二人の養子になるってことでしょうか…?」


「違う違う、美玖と結婚してもらうってことさ」


「あぁ、そういうことです…か…?えぇ?どうしてそんな話に?」


「もちろん今すぐってわけじゃなくて学校を卒業してからだけど……今の君の立場は非常に不安定なんだ、君の両親が幸運の能力に執着しなくなったのはいいんだが、それで君を保護しようと動いてる組織がいくつか出てきてしまってね……」


「保護?今俺は美玖に保護されているようなものですが…」


「ああ、奴らの保護はつまり君を使って商売したいだけなのさ、君の両親みたいにね、今は美玖と僕たちが抑止力になっているけど学校を卒業したらいろんな企業からスカウトが来ると思うよ?それをさせないために美玖と結婚してもらい僕たちの仕事を継いでもらうってことになってるんだ」


「仕事を継ぐ?」


「僕たちはすでに働く必要がないほどの資金があるんだけど、それを使って投資をしているんだよ、君にはそれを手伝ってもらう、もちろん能力を使わずまっとうな方法でね」


 翔はその説明を聞き複雑な心境になった、素直に好意を向けてくれている美玖に自分は何も返していない、ただ受け取るだけで何も返さないのは両親と同じではないかと。


「美玖…気持ちはうれしいが、俺を助けるためにそこまでする必要はない…」


「ははは!逆だよ逆!美玖は君と結婚したいから助けることを口実にしてるのさ!」


「お父さん?それは言わないでって言ったよね…?」


「おっと、聞かなかったことにしてくれ…」


「なに美玖、あなたまだ翔君に好きだって言っていないの?」


「告白はしたし、キスもしたもん…頬にだけど……」


「はぁ、あのねぇ美玖?男なんて言葉で言われなきゃわからない生き物なんだから言いすぎるくらいでちょうどいいの、好きって言葉を大切にしたい気持ちはわかるけど翔君に伝わらなきゃ意味がないでしょう?」


「すみません!違います!美玖からの好意はちゃんと伝わっています!だた俺が何も返せていないのが心苦しかっただ…け……あ…その…何でもないです」


 顔が熱くなるのを感じながら下を向く、今の発言に何も反応しない3人に翔は呆れられたと感じ、なおのこと頭を上げることが出来なくなる。


「………え…っと…こ、これなら大丈夫みたいね!お母さん安心したわ!」


「…わかる、わかるぞ翔君、心苦しいよな、美玖にプレゼントしたいものとかがあったら僕も相談に乗るから連絡先を交換しないか?」


「翔、そう言ってくれるのはうれしいけど、私はあなたに尽くしたいの、お父さんは仕事を手伝ってもらうなんて言っていたけど、私としては今の資金だけで遊んで暮らせるしずっと私のそばにいてくれた方がうれしい、どうしても何か返したいと思うなら部屋の鍵を開けてちょうだい?私はそれだけで十分よ、もちろん変なことはしないから安心してね、ちょっと寝顔が見たいというか一緒に寝てみたいというか、もしくは翔の方からキスを返してくれても私は――――――」


「もうゆるして」











××××××××××××10回目×××××××××××××

 今回はそう難しくはなさそうだと思ったが、2回も能力を使ってしまった、どうしても彼を止めることが出来ない…


 彼を止めるには何が必要だろうか、友達と言う立場だけでは足りなかった、恋人ならどうだろう、けど今の内気で弱気な私が彼女になっても彼を止めることは出来ない、だったら権力を持っていたら?外見に気を付けて、いっぱい勉強して、人と会話もできるようにならなきゃ……


「あなた、私と付き合って、あぁ、もちろん恋人になるって意味よ」


 そう言って彼を呼び出すあれからまた私は失敗した、優しく接しすぎて彼を止めることが出来なかった、だから私はあくまで強気に傲慢そうに自分を繕う、とにかく止められればそれでいい、そこから先のことは考えない……


 結果、翔は生き残り、工藤くどうおさむは能力の弱化によって落第になった、ざまぁみろ、でも工藤の火球を見て翔が異常に怖がっていたことが気になる…


 翌日、私たち超能力者の能力鑑定に翔と向かう、一緒に外を歩くだけでも楽しい、鑑定の順番を待っていた、その時男の職員がこちらに指をさし、その指から赤い光線が一直線に彼の頭へ………


 私は能力を使った



―――――――――――――――――――――

能力鑑定……超能力者が1か月に1回受けなければならない、能力鑑定士により能力の成長と変化を確認する、学校には報告されないため定期能力試験に自己申告で報告する必要がある。


能力鑑定士……鑑定系能力者が国家資格を取得すると就けるようになる職業、相手の能力を鑑定できるほどの能力が国家資格では求められるため数は多くない。正式名称は能力鑑定士だが鑑定士と呼んでいる人がほとんど。

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