第2話 定期能力試験

 定期能力試験、能力育成学校に所属する学生が月1回行う試験で、能力の成長を確認するためのものである。


 しかしデメリットのある強力な能力者は試験を免除され、口頭での報告のみとなり美玖みくかけるにはあまり関係ない行事のはずだが、翔においては特に忙しい日となる。


 能力が相手に攻撃する類のものである場合、能力者同士の対人戦で確認することも多くその結果で賭け事をするもの、成績を良くしたいものが翔に能力で自分の調子を上げてもらうことが多いのだ。


「(美玖と付き合うことにはなったがそれを知ってるやつは多くない、いつものように能力で願いをかなえるだけだと思ってるやつも多いだろう、今日ぐらいは使わないといけないかもな)」


「あら、翔おはよう、早いのね」


「ああ、緊張してうまく寝られなくてな……って!?美玖お前なんて格好してんだ!?」


 美玖の恰好は下着の上に大きなTシャツの着ているというもの、翔はすぐさま視線を逸らす。


「ああ、ごめんなさい、私寝るときこの格好なの、今着替えてくるわ」


「おまえマジで警戒心ねぇな!頼むから気を付けてくれ!」


「はいはい、考えておくわ」


 美玖が着替えるために自分の部屋へと消えていく。


「………とりあえず準備しに行くか」




 朝食をとりながら2人は今日の予定について話している。


「今日はなるべく私と一緒に居て頂戴」


「ああ、分かった」


「あなた今日ぐらいは能力使わなきゃ、みたいなこと考えてるでしょ」


「え?ああ、そうだけど」


「駄目よ、そんなことしたらずっと能力を使い続けることになる、私と一緒に居れば私が断ってあげられるから、今日は私のそばにいること」


「わ、分かった」


「よろしい、あ、そうそう、翔ほしいものとかないかしら、何でも買ってあげるわよ」


「いや美玖お前、俺の親に10億も渡したんだろ?これ以上望んだら罰が当たっちまうよ」


「あんなのはした金よ、翔に比べればね、だから何か欲しいものがあったら言ってちょうだい、私が翔に買ってあげたいの」


「わ、わかった、何かあったら教えるよ」

「(こいつ、何か目的があって俺の恋人になりたいのかと思っていたが、マジで俺のことが好きなだけなのか…?いや、だまされるな、何度もあっただろこんなこと…いやねぇな、ここまでぶっとんだ奴は)」


「そんな顔しないで、あなたは悩まなくていいの、私のことを信用したいならそれでいいし、そうじゃなければあたしのことを利用するだけで大丈夫よ、けど私の指示だけは聞いてちょうだい」


「まあ、契約だからな、指示は聞くよ」


「じゃあ、そろそろ学校に行きましょうか、これ以上は遅れてしまうわ」


「え?うわっマジだ!すまん!」




 学校へ向かう2人、その姿を歩いている生徒がちらちらとみている、それもそうだろう、美玖はもともと学校で一番の人気者だ、その隣を悪いうわさが絶えない生徒が隣に立っているのだから、腕を組んで歩いていればなおさら注目される。


「なあ、腕組む必要はあるのか?」


「もちろんよ、これで周りに恋人アピールできるもの」


「………」


 そう言われてしまえば翔はそれ以上何も言えない。0p


「私のためだと思って我慢して頂戴」


「視線がいてぇ……」


 学校に着くまで翔にとって気まずい空気は続いた。


「なんで俺の隣が美玖になってんだ……いや、もう疑問に思うのもめんどくせぇ」


「ただ先生ともともと翔の隣だった生徒にお願いしただけよ」


「もう驚かねぇぞ……」


「なんだかつまらないわね」


「俺の反応で楽しんでんじゃねぇ」


「翔くん!今回もお願い…でき……ごめん何でもない…」


「それでいいわ、これからは私に許可なく彼に近づかないで頂戴」


「は、はい……」


「ここにいる全員に言っておくわ、これから私の許可なく彼に能力を使わせることは絶対に許さない、まあ、許可を出す気もないのだけど、そういうことだから彼の力でずるしてないで能力を伸ばす努力をしなさい」


ザワザワ……


 周りからは「恋人になるってホントのことだったんだ」「どうせ翔君の能力を独り占めしたいだけでしょ」「まじかよあいつが支倉さんと…」など、様々な声が聞こえてくる。


「あなたたちがどう思おうと関係ないけど、私は自分のためだけに彼を利用するつもりはないわ、それと私たちに危害を加えたらどんな方法を使ってでも必ず後悔させるから、覚えておくことね」


 翔はこぼれそうになる涙をこらえながらうつむいていた、ここまで守ろうとする意志を示してくれた人がいなかった翔にとってこれほど嬉しいことはなかった、これまでの美華の言動は能力ではなく自分を見てくれている、そんな気がした。


「おいおい、ちょっと待ってくれよ、能力試験ではそいつの力を借りてたやつも多いんだ、今日いきなりやめられたら俺らの成績が下がっちまうじゃねぇかよ」


 美玖の発言に異を唱えたのは前回の定期能力試験の成績ナンバー1、工藤くどうおさむ、能力は火球、掌から火の玉を出すという珍しくはないが比較的強力な能力でデメリットもない。


「それがどうしたの?努力してこなかったあなたの責任よ、勝手に翔の責任にしなくでもらえるかしら」


「こっちは与えられた幸運に見合った不幸がそいつに降りかかるって眉唾物のデメリットを信じて治療費とその倍なんて言う対価を払ってやってるんだ、デメリットが本当かもわからねぇし、正当な対価だろ」


「はぁ、話にならないわね、超能力者が試験を受けないから1番になっただけで、今では彼がいないと能力すらまともに使えないくせに」


「てめぇ、なめてんじゃねぇぞ!!」


 修が美玖に掌を向け火球を形作る、ボウリングの玉よりもさらに大きくなり、当たればやけどでは済まないだろう。


「は!病院送りにしてやるよ!」


 翔はその光景に既視感を覚えこの火球に当たれば命が危ないと思った本能が告げる、そして目の前の女性を守らなければいけないと自分の中にあるなにかが叫ぶと同時に体が動いた。


「危ない!美玖下がれ!」


 翔が美玖の前に立ち逃げるように促す。


「(俺は何を!?とっさに体が動いちまった!)」


「大丈夫よ、当たらないから」


 そう言って美玖は翔を横によけ、さらに一歩前に出る。


「ははは!どうなっても知らねぇぞ!くらえ!!!」


 火球が修の手を離れ、まっすぐに美玖に向かっていく……と思いきや、手を離れた瞬間火球は跡形もなく消えてしまった。


「な!クソ!どうなってやがる!」


 何度も火球を打ち出そうと試すが結果は同じ、美玖に火球が当たることはなかった。


「わかったかしら?もうあなたは彼の能力なしでは火球を撃ち出すことすらできないのよ、あなた、最近定期試験以外で能力を使っていないでしょう?だからそんなことになるのよ……」


 修は膝から崩れ落ち、周囲の生徒にも動揺している人が多い、それもそのはず、同じクラスの生徒は比較的翔に頼みやすかったため恩恵を受けられる人が多かったためだ、中には泣き崩れる生徒までいた。


「これに懲りたら授業をさぼらずしっかりと訓練することね…それと、守ろうとしてくれてありがとう翔…嬉しかったわ」


 呆然としていた翔の頬に美玖がつま先で立ってキスをする。


「…え?ええええ!?な、なにやって……」


 現実に引き戻された翔が自分の頬を抑えて後ずさりするが、美玖は関係ないとばかりに翔の手をつかみ歩き出す。


「さあ、私たちには関係ないし早く先生に報告して自由に過ごしましょう?」


「え?あ、ああ」


 翔とその手を引く美玖の頬は同じように紅潮していた。




「ごめんなさいごめんなさい……あんなことをするなんて…」


「いや、良いって……」


 自分たちの能力の状態を先生に報告した二人は屋上で気まずい雰囲気になっていた。


「だって…私のことを信用してない人にあんな……キ、キスなんて…」


「(もう良いか……なんでかこいつの事は信用できるって思っちまうし、泣きそうな美玖を見てると傷つけたくないって気持ちになる)」

「いや、気にしてないよ、それに美玖はいいヤツだし、今までのやつとは違うと思うから……」


「翔ッ……!」


 隣で涙目になっていた美玖は翔に抱き着いた、翔は拒否することもできず彼女の背中をさすってなだめることに専念する。


「落ち着いたか……?」


「うん……もう大丈夫………」


「そうか……じゃあ、離れてくれるか…?」


「もうちょっと…」


「だが……もう試験が終わった生徒が集まってきてるぞ…?」


 バッと美玖が翔から離れる、急いで身なりを整えて周りを確認すると、数人だが周りに生徒がおり、ちらちらとこちらをうかがっている。


「な、何見てるのよ!!」


 その声で周りは散っていったが今度はコソコソと話している、2人の仲を噂しているんだろう。


「ま、まあ、これで恋人だってことを疑うやつはいなくなるだろうな…」


「そうね……」


 その後、家に帰るまで美玖の悪くなった機嫌は戻らなかった。












××××××××××××5、6回目×××××××××××××

 あれから4回も能力を使った、デメリットにはちっとも慣れないけど着実に彼の死を回避する方法に近づいている、今回は情報収集に使うことにした、彼を助けるためには沢山のお金がいる……


 最初は両親に協力してもらう、私の能力を知っている両親なら協力してくれるはず、私自身はお金を稼ぐことが出来ないから両親に協力してもらうしか方法がない…


 どうにか協力を取り付けた、そのおかげで宝くじの番号や仮想通貨の価値が上がるタイミングなどを確認できた、あとはこれを頭に叩き込むだけ…


 また彼が死んだ、これで5回目ここがタイムリミットだ、ここから先の情報は今はいらない…


私は能力を使った


 戻ってきた私はまずは両親に協力を取り付けることから始める、私の能力は戻ることは出来ても戻る時間を指定することは出来ない、決まって能力が覚醒した日時に戻る、つまり12歳の誕生日に…


 協力を取り付けた両親とともに宝くじを当て、仮想通貨を買い、最適なタイミングで換金する、それをすることで私たち家族は、30兆円以上のお金を手に入れた。


 時間がかかってしまったが、とうとう彼を助けることが出来る…


 彼の家族を買収し我が家に迎え入れる、これからは家族と彼のいる生活、今から心が躍る…


 また彼がいなくなった……彼はまだ学校でお金稼ぎをしていたようでやめた方がいいって言ったんだけど、彼はこれが最後だからって定期能力試験でのぞんでいるすべての人に能力を使い幸運を授けた、その後、最後だと知った一人の生徒と口論になってしまい、能力で殺されてしまった。


 しかし彼が死んだことで幸運がなくなったそいつの能力は到底人に危害を及ぼすレベルのものではなく、能力の暴走として、1週間の停学処分になるだけと言うあまりにも軽い罰が言い渡されたのみ。


 工藤修…絶対に許さない


 私は能力を使った





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超能力者……デメリットのある強力な能力者


定期能力試験……1か月ごとにある能力の成長を確認するための試験、超能力者はデメリットがあるため参加せずに口頭による申告だけで突破できる。以前よりも能力が落ちていた場合は落第ののち成長の見込みなしと判断された場合学校を退学処分となり、能力の使用も制限されることとなる。


定期能力試験:対人戦……人を攻撃することのできる能力者が参加しなければならない試験、防御系統の能力を持っている先生がバリアなどを張って先に壊れた方の負けというルールで行われ、結果が良ければ要人の護衛などの職種に就けるようになる。※防御系の能力者はもとから就けるようになっている。

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