あなたの人生に幸多からんことを
GINSK
第1話 なんだこの女…
「私と付き合って、あぁ、もちろん恋人になりたいって意味よ」
―ああまたか―
それなのになぜ翔はため息をつき、周囲の生徒たちは慣れているかのように気にも留めないのか、それは彼女の目的をすでに確信しているからだ。
「いいですよ、では続きは空き教室でも使って話しましょうか」
翔は事務的に返事をする。
「ええ、分かったわ、すぐに行きましょう」
美玖の目的は翔の能力だと翔は確信していた、今まで何度も恋人になりたいと言って相手の願いをかなえた後に捨てられることがあり、今では女性の間で翔に恋人になりたいと言うことは願いをかなえてほしいという隠喩になっておりそのことを翔も知っているためだ。
「ここです」
移動してきた空き教室は翔がよく利用するため人がめったに来ない、職員でさえ関わりたくないのかめったに来ることはない。
「で?あなたは何をかなえてほしいんですか?一つ説明しますが、あまり大きな願いだと私が反動で死んでしまう可能性があるのをお忘れなく、そんな願いを聞く気はないので」
「あなたが死ななければどんな願いでもかなえてくれるということ?」
「ええ、まあ、噂には聞いているかと思いますが、報酬は私の治療費とその倍の金額を要求します」
「ええ、それでいいわ、だってお金なんて払う必要ないもの」
「?それはどういう……」
翔は訝し気な様子で美玖へと問いかける。
「もう言ったでしょう?私の恋人になってって」
「…本気か?いったい何のために?恋人だからってなんでも願いをかなえると思ったら大間違いだぞ…」
「ようやく他人行儀な言葉遣いがなくなったわね。私は本気よ、それにあなたも恋人がいた方が都合良いんじゃない?」
「………」
「あなたもわかってるようね、恋人がいれば少なくとも女性から要求されることは減るはず、そして私は次期生徒会長ともいわれている文武両道の美少女、そんな私が恋人になれば、学校の生徒は声をかけづらくなるでしょうね」
「…自分で言ってんじゃねぇよ……」
「事実だもの」
翔の能力を利用する人間は少なくなく、少なくとも学校内の半数が利用したことがあり、希望者が現れる頻度も多くケガや病気が絶えないため希望者が減ってくれるのはありがたかった。
「チッ……で、俺の恋人になって何するつもりだ……」
「恋人になってする事なんて決まっているでしょう?デートとか、家での勉強会とか、お昼に一緒にお弁当食べるとか」
「はぁ、まあそう簡単には言わねぇか……で、条件は何だ?」
「条件?」
「この契約は俺にとって有利すぎる、なんかあるだろ」
「ふふふ、まあ、条件がある方があなたは安心しそうだから出しておきましょうか」
「そうしてくれ」
「では、デートの場所や日時は私が決めるわ、その予定にあなたは合わせてちょうだい、拒否することもキャンセルすることも許さない、それと私が指示したことには何も言わずに従うこと、能力を使わなければいけないことだった場合はもちろん料金を払うわ…こんなものかしら」
「………まあいいだろう、自分の命に関わる指示は受けねぇからな」
「もちろんよ」
「で、あんたの能力は?」
「ナイショ♡」
「まあ、そんなこったろうと思ったよ」
美玖は徹底的に能力を隠している、未来予知なんて眉唾物の噂もあるくらいだ、翔達が通っている能力育成学校は能力をまとめた書類を提出しなければ入れないはずだが、美玖はなぜか学校の書類に能力が書かれていないらしく噂が独り歩きしている。
「じゃあ、まずは今日の昼休みに一緒にお弁当を食べましょう」
「俺は学食なんだが…」
「あなたの分も作ってきてるわ」
「まじかよ、俺が断ったらどうするつもりだったんだ?」
「あなたは断らないってわかってたから」
「……マジで未来予知なんて能力じゃねぇだろうな」
「さあ?どうでしょうね、ふふふふ」
「はは、あんま詮索しないでおくか……」
そもそも本当に未来予知ならばこんなことに能力は使わない、ほとんどの能力にデメリットは存在しないが一部の強力な能力にはデメリットがあり、以前未来予知が出た時のデメリットは記憶喪失、能力を使うと予知した未来と同じくらいに大切な記憶を一つ失うというもの、どんな記憶が消されるかわからない以上軽々しく使うことは出来ないだろう。
「じゃあ、お昼に屋上でね」
「了解……はぁ」
昼休み翔は屋上へ向かう、その足取りは重く翔が行くことを望んでいないことがよくわかる、それでも翔はいかなければならない、そういった契約を交わしたのだから。
ギィ…ガチャン
屋上の扉を開けると、設置されているベンチに美玖が座っている、彼女は翔を見ると微笑んで翔に手を振った、翔も男だ、美少女にそんな顔をされて不覚にもときめいてしまい、自己嫌悪に陥りそうになる。
「こっちよ翔、ここで食べましょう」
「わかったから目立つことをしないでくれ、周りの目が痛い」
「ふふふ、嫉妬させておけばいいのよ」
「はぁ…で、支倉、俺の弁当は?」
「美玖よ」
「は?」
「私のことを美玖って呼んでくれたらあげる」
「はぁ、美玖、弁当くれないか?…これでいいか…」
翔は自分の頬が紅潮するのを感じながら美玖の指示に従う。
「あなたも照れるのね…いいもの見たわ、はいお弁当」
「うるせぇ、だが弁当には感謝してやる」
弁当箱を開けるとそこには翔の好きなものが詰め込まれたようなおかずたち、ここまで翔の好きなものを知ってるのは自分以外では親も含めていないはずだ。
「美玖、てめぇどうやって俺の好きなもんをここまで…」
「翔の事なら結構知ってるわよ」
「どんな能力かは知らねぇがデメリットはあるだろう?そんなポンポン使うもんじゃねぇ」
「あなた以外に使ったことはほとんどないわ、それに今となってはどうでもいいデメリットだもの、さぁ、お弁当食べましょう?」
「お、おう」
以前は辛かったのか、と聞こうとしたが美玖からこれ以上話したくないという雰囲気を察した翔は疑問を飲み込み渡された弁当を食べることにした。
美玖が渡してくれた弁当は献立、バランス、見栄え、味付け、すべてこだわって作ってくれていることがよくわかる、今まで学食かコンビニ弁当で済ませていた翔は夢中で弁当を平らげた。
「ふふふ、そんなに急いで食べなくても逃げないわよ」
「だってこれ、めちゃくちゃ美味しいぞ!?これお前が作ったのか!?」
「えぇ、もちろん翔のために愛情込めて作ったのよ、あとお前じゃなくて美玖よ」
「ありがとう美玖!すっげぇ美味しかった!」
満面の笑みでそう言う翔に美玖は照れたように髪をいじり下を向く、そんな様子に気が付かない翔は今しがた食べた弁当の余韻に浸るので忙しいようだ。
「学食ってそんなに美味しくないの?」
「ん?あぁ、あいつら栄養のことしか考えてねぇからな、味は大抵二の次さ」
「ふぅん……あ、そうだ、今日の放課後一緒に帰りましょう」
「え?美玖の家俺と同じ方向なのか?」
「いいえ、真逆よ」
「じゃあ無理じゃねぇか……」
「今日から私の家が翔の家でもあるのよ」
「???……は?」
「もうご両親には言ってあるわ、翔の荷物も私の家に移送済み」
「嘘だ、あいつらがそう簡単に俺を手放すはずねぇ……」
「ざっと10億渡したら簡単に手放したわよ?」
「…………そうか」
翔は安心したような、傷ついたような複雑な表情で空を見上げた。
「何も言わずに進めてごめんなさい、けど、あなたにこれ以上苦しんでほしくなかったの」
「はは、そんなことまで知ってんのかよ……」
「ええ、最初はなんで律儀に人の願いを聞いてるのか気になっていたけど……」
「そうさ、両親に強制されてやってたんだ、親の願いをかなえるにも俺がケガや病気になったら金を払うのはあいつらだからな、外で他人の願いをかなえさせてその金で遊んでやがるんだ……クソッ」
「これからは私があなたを支えるわ、安心してちょうだい」
「……すまねぇ、すぐには信用できない、だが親あいつらから助け出してくれた恩は必ず返すと誓う」
「契約さえ守ってくれれば信用しなくてもいいわ、それに恩を感じる必要もない、私が好きでやってることだから」
「じゃあ、俺も勝手に恩を感じることにするよ」
「勝手にしなさい…」
放課後、翔達は美玖の家について早々荷ほどきを進めていた。
「美玖お前生徒会だったよな、こんなに早く帰ってきてよかったのか?それくらいなら俺も待ってるぞ」
「みんなには事情を話してるから問題ないわよ、でも明日からは待って居て」
「わかった、で、お前の親はいつ帰ってくるんだ?挨拶しときたいからな」
「来ないわよ?私一人暮らしだもの」
「はぁ!?お前一人暮らしの女の家に男住まわせようとしてんのか!?」
「そうよ?恋人なんだから何も問題ないでしょ?大丈夫、私の両親も知ってるわ」
「せめてカギはついてんだろうな」
「もちろん翔の部屋にはカギを付けたわ、ほかにはつけてないから不便にはならないと思う」
「お前の部屋についてねぇなら意味ねぇだろうが!!」
「でも、私を襲う気ないでしょう?」
「今なくても一緒に生活してたらわかんねぇだろ………」
「大丈夫、翔は私を襲わないわ」
美玖が翔に微笑み、それを受けた翔はため息を吐きながら額に手を当てた。
「俺のどこをそんなに信用してるんだか……」
「ふぅ、こんなものかしら、あなたの私物ほとんどなかったから楽でいいわね、ベッドは私が用意したからこっちのお布団は処分しておきましょうか?」
「ああ、頼む……」
「明日は定期能力試験ね、私たちにはあまり関係ないけど早めにご飯にして寝ましょうか」
「そうだな」
その後、翔から見れば豪華な夕食をいただいて、緊張しながらお風呂に入り床に就いた。
××××××××××××1回目×××××××××××××
最近初めての友達が出来た、私と同じように能力のデメリットで苦しんでいるらしい、意気投合した私たちは一緒に帰ることも多くなってきた、家が近いのも理由だけど、やっぱり長く一緒に居たいから……
でも楽しい日々は長く続くことはなかった、友達が死んだと学校を経由して連絡が入ったからだ、家族に能力の使用を強制されたのち、デメリットで死んでしまったそうだ、あの人がいなくなったら私はまた一人になる……
私は能力を使った
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