第2話 会話
今日も玄関付近で島田さんを待っている。どうやら部活動には入らないようだ。自身でマイペースなのがわかっているので、自分のペースでできない部活動は避けるようだ。一人でできる文化系もあると伝えたが、できることがない、と言われてしまった。ちなみに俺は美術部にいたが、去年の秋の文化祭を最後にやめた。下手の横好きだったのもあるが、受験に集中するためだ。
あれから3日ほど、島田さんと登下校を共にしてきた。とはいえ、あのペースで会話をするうえに、学校でわからない事などを聞かれたりして、あまり進展らしい進展はない。いやあ、これじゃあ単に親切な先輩でしょう。今は名字で呼ばれているが、先輩、とか呼ばれだしたら進展どころか後退だ。
「……さん」
そうこうしている間に問題の件の方が進んでしまわないか心配だ。姉からは特にあれ以降聞いていないが、急に「じゃあ明日ね」とか言われるのではないかと危惧している。
「……ん!」
夕食時、姉に確認してみよう。藪蛇になってしまう可能性もあるので、あまり気乗りはしないが、見えないままであるのも不安だ。それに名前も分かって、一緒に登下校しているという現実がある、動きがありそうでも多少引き伸ばすことは叶う気がする。
「藤井さん!」
「おわっ⁉️――あぁ、びっくりした、いつから呼んでた?」
「もう……、10回くらい、呼んでましたよ?」
ごめん。
「――…………。帰りましょうか」
少し間を開けて、なにか言いたげであったが、彼女はそれを口にすることをなく、歩き始めた。俺もそれに倣う。
しかし何だろうか、何を言いたかったのだろうか。呼ばれて反応しなかったこと?でもそれはさっき告げられたところ。謝ってない?いや、謝ったはずだけれど。
「本当に、遅くても、待っていてくれるんですね。それはやはり嬉しいです。……でも、最初にも、言いましたけど……、私には好きな方がいるんです」
そう言いながら彼女の顔がうつむき気味になる。好きな人の話をするのに悲しい話なのか?彼女は続けた。
「でも実は、長い間、会ったことも……話したこととも、なくて……。なんとか会えないかと、頑張ったりしてるんですけど……」
けど、会えないのかな。そのまま俯いてしまった彼女を見て推測する。
「……会って、くれないらしくて」
「嫌がられてるの?酷いやつだなあ……。あ、ごめん、好きな相手だよね」
「……んっ…………。まぁ、そう、みたいです……。理由も、分からないんですが――、ところで」
一緒に帰っていて、島田さんは話すのが遅いけれど、結構話すタイプなんだなと感じている。正直意外だな、と思ったけれど。
「まだ数回しか、話していないですが……。そんなに強く、藤井さんの気持ちを聞いたのは、初めてな気がしますね……」
え?逆に俺は話してないのか?そうだろうか。さらに、ちょっとストレート過ぎる気もしますが、とも付け加えられた。それは申し訳ないと思う。でも仕方がない。チャンスと感じてしまったし、彼女が嫌われているのかと思うと正直腹立たしかった。
「まぁ、そうかな」
「ふふっ……、隠れきれてませんよ……。」
何の話だろう。特に何かを隠しているつもりはないけれど。なんだか楽しそうにしているようにも見える。ちょっとどこか入って話したりできれば遊んだりできないだろうか。駅についたタイミングで思いついたので喫茶店くらいしかないけれど。
「よかったら、なんか飲みながらもう少し話さない?」
そういいながら、店の方へ顔を向ける。
「ええと……ごめんなさい。それは、できないです」
駄目か。今日は行けると思ったのだけれど。昨日も断られている。
「話すのは、楽しいのですけれど、ごめんなさい。苦手、なので。あまり長いと、疲れてしまうんです」
なるほど。それでは仕方がない、無理強いしたいわけではないし。
「無理は良くない」
「そのかわり……、というわけでは、ないのですが。あの、よかったら。連絡先を……、交換しませんか」
連絡先か。SNSなどであれば、登下校外でも気軽に話ができて確かにいい。その一方で、その気軽さが関係性を今より軽いものにしてしまわないかという可能性や、ただだらだらと内容の無い文字列の応酬になってしまうのではないかという危惧もある。正直、まだ、様子を見たい。しかしせっかく誘ってくれているのに断るのも申し訳ない。それに勿体ない。だがそれに時間をかけてしまい受験勉強の時間を圧迫するのも困る。
「あ……。やっぱり、やめておきますね。ごめんなさい……」
色々と考えていると、返答が遅いのを拒絶と受け取られてしまった。
断られるとやはり勿体ない気もしてしまう。いますぐにお願いし直すか?と考えながら改札をくぐる。
「……あ、ごめんなさい。今日は、方向が、違うので」
そう言い、続けて挨拶を続けた彼女は呼び止める間もなく去っていった。考え直す暇は与えられなかった。
夕飯。相変わらず父さんは帰宅が遅いのか、3人で夕飯だ。母さんがいる場でこの話をあまりしたくはなかったのだが、夕飯開始と同時にビール缶を開けた姉を見ると、今はなさないと明日になってしまう気がする。姉の方を見て話した。
「あの話どうなったの姉貴。もうなんも言ってこないから無くなったとか?」
そんな事はないだろうなと思いつつ、希望をつけておく。もしその程度なら一年も姉が言われ続けることはないだろう。
「そんな訳ないでしょ」
だよね。
「あ、でも、だいぶ敷居は下がったかもね。よく話聞いたら婚約は、上司の希望が勝手に付け加えられてて、娘さんに怒られたらしいわ。とりあえず会うだけで良いってさ」
「会うのかあ。いや、実は……、最近仲良くしてる女の子がいてさ……」
彼女!?どか行ったの?と、食い気味で聞いてくる。
「まだ良く話しするくらいでどこか行ったりは」
「だ・よ・ねぇ~。分かってて聞いた。だって、これまでも告られたりしたりしてたけど一ヶ月持ったことないの、知ってるよ?原因も明確なんだけど、こればかりはなぁ……」
なんと。お見通しだったどころか、これまでのことまで知られているようだ。姉に話した記憶はないんだけども……。おや?姉のとなりの母さんの目が泳いでいる。
「母さん?」
「な、何?あっ……、父さんから連絡だわ。ちょっとあとでね」
いや別に、そこまで追求するつもりはなかったけども。それよりも気になるのは原因が分かっているという部分だ。明確というくらいなら教えてほしいところだけれど。
「教えてもいいけど、すぐ治るもんじゃないよ?」
えっ!読心術か⁉️
「別に心が読めるとかじゃないよ。そこが原因なんだけど、言ってすぐ治るかなあ……」
そう言い、おかずと米と酒を口へ放り込み思案する仕草をみせる。その食事の仕方はどうかと思うな。姉の食事に疑問を抱きつつ、お願いすることにした。
「知ってるなら教えてほしい」
「――――!へぇ…………。よし、その言葉に免じて教えてあげよう」
大層だな、俺の問題点を言うくらいで。
「そこだよ。今もそう、その前もそう。想思郎は思ったことを口に出さなさ過ぎる。全部言葉として出すような性格も問題あると思うけど、内に秘め過ぎも問題あると思うよ。」
初めて言われた。結構ずけずけと言ってるつもりなんだけど。
「あんたが勘違いするのはあれだね、私ら家族は見てりゃ大体わかるからなんだよ。……顔に出過ぎ。でもこれまで接した女子たちには、それが読めてないだろうから、こいつ全然話しないし面白くないなー、とか思われているかもね」
「へぇー、知らなかった。ありがとう」
教えてくれた姉はなにを考えているのか、うんうんと考え事をしている。
「そうだなあ、確かに考えたらそんなあんたと直接会話したところで、長く持たないかもしれないし、……ちょっとまってな」
そう言うと席を外してスマートフォンを取り出しりながら去っていった。
しかし、顔に⁉️恥ずかしいな……。じゃあ基本的に姉や親は表情から俺の考え読んでるのか?確かに、女の子どころか、友人とも会話はあまりもたないかも。明日から島田さんと話すときは気をつけよう。
そんなことを考えていると、父さんから連絡があったと席を立っていた母さんが戻ってきた。
「ごめんね、母さんおしゃべりだから。母さんに言ったことは全部綾音につつぬけよ?」
いやいや、開き直っていうことじゃないだろ。
「といっても、その事実だけで、それ以上のことは想思郎も話さないから言っていないわ。綾音ほど、何考えてるかわからないからねえ……」
もしや、やはりあれは読心術ではないのか。
「俺って、昔からそんな感じ?」
母さんは少し目を見開き、少し考えてから口を開いた。
「そうね……小さい頃はそんなことなかったかも?小学校に上る前だったかねぇ、急に喋りたがらなくなって、どんどん無口になっていったというか。まぁ子供は少しの影響で大きく変わるからと深くは考えなかったけれど」
「急に。なんかあったのかな……、ありがとう。全然記憶にないけど。あ、ごちそうさまでした」
「はい、おそまつさま。お風呂は?」
「今日は最後で、すぐ勉強したいから」
うーん。たしかに最低限しか話してないか?まぁいい、部屋に戻って少し休んだら勉強しよう。
そう思い、部屋に戻る途中。
「あ、ちょっと逃げないでよ。はい、これ」
姉に呼び止められ、紙切れを渡された。
逃げているつもりはないけども。え、なにこれ?
「とりあえずすぐには会わなくてもよくしておいたわよ、どうせ会ってもまともに話さないでしょ。代わりにここへ連絡してくれたらいいらしいわ」
これで私もこの件から開放かな、と深いため息をわざとらしく口にしながら姉は夕食へと戻っていった。
連絡先……か。こんなことなら島田さんの連絡先すぐもらっておけばよかったな。
ベットへ横になり、受け取った紙を開くとそこには、あまり一般の普及率の高いとは言えないSNSの名称とアカウントが乗っていた。
そこには『s.midou』と、かいてあった。漢字は不明だが『みどう』さん、おそらく名字だろう。
しかしなんでこのSNSなんだ。疑問はもったものも、幸いにしてPCでそのSNSを利用したことはあったのでアカウントは持っている。スマートフォンへ専用アプリを入れて、アカウントを思い出しながらサインイン。何度か間違えたものも、あっていたようだ。……『soshiro.fuji』そういえばかつては日本語が使えなかった。今は日本語に変更できるよう変わっているようだが、まぁいいか。登録された知り合いのアカウントは、見事にすべてがオフライングループの中に入っている。受け取ったアカウントを入れるとオンラインだった。
「とりあえず、挨拶しとくか」
はじめまして、藤井想思郎です。姉の上司を経由して紹介されました――、と。これでいいか。
返事待つのも変だし、風呂でも……。風呂は最後で良いっていったんだった。
――♪
などと考えている少しの間に、返事が返ってきた。
s.midou:始めまして、御堂桜です。この度は私のわがままにお付き合いいただきまして、誠にありがとうございます。つきましては、恐縮ではございますが、一度お会いいただけますと幸いでございます。
……いきなりグイグイくるな。しかし偶然だな、名前は島田さんと同じで桜さんっていうのか。綺麗な名前だ。
soshiro.fuji:御堂さん。綺麗なお名前ですね。名前に惚れてしまいそうです。しかし、会うことはちょっと、いきなりすぎませんか?ちょっと前向きに検討することはできません。
とりあえず断った。あ、あともう勉強しないと。
soshiro.fuji:それと、私は受験生でして、そろそろ勉強をしたいので、返答は滞ります。それでは。
そう送ってからスマートフォンの通知音をオフにした。
直後画面に『s.midou:そうですか、それは残念です。受験生なんですね、頑張ってください。私は』と書かれているのが見えたが、それ以降の内容は確認しなかった。とりあえず分かってもらえたようで何よりだ。
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