第12話 レッツメイクヤタイノケバブ ④

 こんにちは。私はエミリア・ベーカー。お祭り娘の十四歳。見習い調術師です。これだけ春の感謝祭に向け真っ当に働いたのだから、そろそろ春の感謝祭廃止推進委員会会長を名乗っても許されることでしょう。


「全部滅びれば良いのに」

「闇堕ちするな」

 ついについに、本日は春の感謝祭当日です。ブレストフォード西調術所は広場近くの露店にて新作魔道具を絶賛販売中ですが、なかなか売れ行きが良くありません。

「荒れ果てた麦畑もまた美しくないですかね?」(どうしてこんなに売れないんですかね?)

「闇落ち語を使うな」

 特殊な話法で素朴な疑問をぶつけてみますが、ジーン先生は素っ気ない返答です。

「俺に集客のコツとか分かるわけがないだろう」

「置かれた場所で咲けてる?」(接客業辞めたら?)

 自分で考えるしかないようです。並べた魔道具、もとい、パンを眺めて考えてみます。もしや──

「やむを得ぬ収斂進化ですけど!?」(パン屋さんと思われてます!?)

「だろうな」

 脳内に稲妻が走ります。衝撃的事実でした。しかしこの師匠平然と特殊話法についてきますね。なんで。

「じゃあ、まずは誤解を解くところからじゃないですか!」

 慌てて魔道具アピールを開始します。

「こちらブレストフォード西調術所です! フェアリー粉蒸しパン! 魔力と体力の回復効果のある一品です!」

 声を上げ、お客様を呼び込み作戦です。ちょうど目の前にいたちびっ子に試食を提供してみます。

「いかがですか?」

「ライトエリクサーで良くね?」

 購入に至らず。子供には分からないようです。気にせず通りがかったご婦人に次の一品。

「マッスルベーグル! 攻撃力をアップする一品です! いかがですか?」

「龍の秘薬じゃダメなのかしら?」

 購入に至らず。奥様には必要のない品でした。はい次。いかつい鍛冶屋のおじ様にもう一品。

「オリハルコンパン!! めっちゃ硬い!!」

「すっげー!! 嬢ちゃんこれオリハルコンじゃねーか!! 使わせてもらうぜ!!」

 いかつい鍛冶屋のおじ様、お買い上げありがとうございます。


 結果売り上げ。オリハルコンパン十二個、マッスルベーグル三個、フェアリー粉蒸しパン二個、ワトライス粉パン一個、デカデカナン一個。

「魔道具にオリジナリティが足りないんですかね」

「ある意味オリジナリティはあるんだけどな」

 悔しい結果です。しかしここからどう次回に繋げていくかが大事なのでしょう。

「エリクサー、龍の秘薬、どれも王宮魔法研究所で開発され流通している魔道具だ。商売敵が強すぎる。これくらいの回復アイテムなら、よその街で売れば感動されるレベルだ」

 デカデカナンを食べながらジーン先生が慰めなのか愚痴なのか分からないことを言います。

「これからの時代、わざわざ古臭い街の調術所の新作魔道具を買う必要もないのかもしれないな」

 もともとこの調術所はジーン先生の師匠がやっていたお店だそうです。以前はあんなことを言っていましたが、ジーン先生が冒険者をやらずこの店を続けている本当の理由はそれなのかもしれません。

「お前の言うように、これからの時代は回復薬や攻撃アイテムよりも、『魔法で作ったただただ美味いパン』とかが売れるのかもしれない」

「時にはあえて奇をてらうことも必要だということですか……」

「おい待て、奇行と分かっててやってんのか」

 世知辛い世の中です。商売の難しさを考えさせられる結果となりました。

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