第13話 レッツメイクヤタイノケバブ ⑤
こんばんは。私はエミリア・ベーカー。体力やる気有り余る十四歳。見習い調術師です。本日は春の感謝祭。夕飯に売れ行きの芳しくなかった魔道具を食べ、レッツ製作ニュー魔道具です。調術室へと移動します。
「舞踏会は良いのか? 誘われてるんだろ?」
「まだ間に合います。この悔しさを忘れないうちにやりたいんです。ご指導よろしくお願いします!」
「それは良いが……」
まだ夕暮れ時。王宮での舞踏会は日が沈みきってからです。
「ジャスくんはすっぽかしたらすっぽかしたで喜びそうですし」
「興奮材料を与えて良いのか?」
「間に合わせましょう」
さて、どうしましょうか。
と、考えていると、玄関を叩く音が。
「まだやってる?」
扉を開けて入ってきたのは、なんとアマリさんでした。
「酒場みたいに入ってくるな。舞踏会は?」
「うん、行かない」
爽やかな笑顔です。
ジーン先生が柔らかな手刀をきめます。
「任意参加! 任意参加! 今日はもう休めって言われたもん!」
「仕事はせずに舞踏会に出ろということだそれは」
青ポーションの件でここに来てから、なんとなくお二人のわだかまりが解けてきているようです。
「余暇は自由に使う権利があるもん」
「お前はもう少し社交性を持て」
「君にだけは言われたくないんだけど!?」
冷静に考えると理不尽なことを言われています。
「同僚に挨拶とかあるだろ」
「だって女装したくないし」
「正装だろ」
繁忙期でお疲れのためかアマリさんの何かが崩れてきている気がします。残念なお姿を拝見できて嬉しいような少し残念なようなそれもまたいいような。
「それで、調術中だよね? 何か悩んでいる?」
そして何事もなかったかのように、私の前では大人らしい態度への切り替えがお上手です。追求しないことにしましょう。
「かくかくしかじかで新商品を考えたくて。あの、私、ダンスが上手になる魔道具を作ってみたいんですが……」
「わ、良いアイデアだね。そういう日用品の魔道具ってどうしても調術研究所では手薄になるし、需要があるんじゃないかな」
「要は協調運動補助系の魔道具にあたるわけだ。戦闘用よりもかえって微細な調整が必要になる」
「ふふ、楽しそう。この素材はどうかな?」
アマリさんが踊り子のスパイスを手に取ります。踊り子のスパイスは素早さを上昇させます。しかし混乱状態に陥り、戦闘中にも関わらずひたすら踊ってしまうとか。
「あ、これも使えそうです!」
マネマネズミの肉は素早さを上昇させます。しかしマネマネの呪いがかかり、周囲の動きを真似てしまうとか。
「混乱と呪いの重ねがけから入るなよ。普通に体の動きを良くする効果を狙えば良いだろ」
混乱治しの蜜砂糖と解呪のカミモールを少量混ぜ合わせます。さらにマトの実をたっぷり追加。マトの実は素早さを上昇させます。そしてひらりと回避の効果があり、回避率を上昇させます。
「たしかに素早く動ければ踊りやすいかもですね。あ、これも!」
オリベ油は素早さを上昇させます。そして連続攻撃付与効果があります。
「これ、決めポーズとかバッチリ決められるかも!」
「舞踏会のダンスには必要無さそうだがな」
レト草は素早さを上昇させます。そして集中状態付与の効果があり、物理攻撃の命中率を上昇させます。
想像したらしいジーン先生の口元がこころなしか緩んでいます。ああ、楽しい時間です。こんな時間がずっと続けば良いのにと思うほど。
けれど、そろそろ舞踏会の時間です。気分は逆灰かぶり姫。行かねばなりません。
「お二人ともありがとうございます。じゃあ、あとは調合成功率を上げるエン麦粉と……」
「「もうオチが見えてる」」
シイ海岸の塩、純粋な水、ふくらみの元を加え、調術鍋に入れ、呪文を唱えます。
「ヤネギン ミエテス エヨダハ スンウッソ ダイカ!」
蓋を開けると、そこには──
「ホップ! ステップ! ハヤスギル! シュンソクフェスタケバブ!」
お祭りの屋台にぴったりのケバブサンドが完成していました。
さあ、舞踏会へ急ぎましょう。
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