第11話 レッツメイクヤタイノケバブ ③
こんにちは。私はエミリア・ベーカー。スタイリッシュな十四歳。見習い調術師です。これだけ春の感謝祭に向け真っ当に働いたのだから、そろそろ春の感謝祭推進委員会会長を名乗っても許されることでしょう。
「昨夜はその、大変、お見苦しいところを…………」
一寝入りをしたのち、真っ赤になって俯くアマリさんを堪能し、納品のお手伝いのためともに王宮冒険者ギルドへと向かいます。
「ほいさ、百個たしかに確認でヤンス」
無事に納品完了。ほっとひと息です。受付で手続きを終えると、フリフリの黒いドレスを着た謎の女性に遠くから何故かじいっと見つめられました。
「あなた、ちょおっと良いかしらぁ?」
声をかけられ、何か不審だったかしらと思うと──
数分後、私は何故か着せ替え人形になっていました。
「可愛いぃ! 可愛いわぁ!」
おおはしゃぎで私に取っ替え引っ替えドレスを着せて楽しんでいるのは、──誰?
まだ自己紹介もろくに受けていないというのに、衣装部屋へ連れられ、気がつけばこのざま。
「あのう、私、今日は新しいパンに挑戦しなくてはならないので、そろそろ帰らなきゃなんですけれど」
「アマリ、アマリ見てぇ! この子、何着ても似合うわぁ! すっっごおく逸材よぉ!」
聞いちゃいません。
「もうちょっとだけだからぁ! お礼にどれでも好きなドレスあげるからぁ、モデルになってよぉ!」
着せられたお姫様のような煌びやかなドレスには少し心惹かれましたが、花より団子、ドレスよりパンです。
「ごめんねエマ、この人はイザベラ・テイラー。魔力の篭った布から防具となる衣服を作る裁縫師……、って、わ、可愛いね!」
暴走にお慣れの様子で申し訳なさそうにしていたアマリさんから突然のお褒めをいただき全てを許します。
「今度の売り出しはこのデザインにするわぁ、ありがとうねぇ」
ようやく紹介をしていただいたイザベラさんはご満悦です。これで帰れるかと思いきや。
「それじゃあ、次はアマリの衣装選びねぇ」
一大イベントの発生フラグです。推しの着せ替えタイム、課金が必要でしょうか。ワクワクドキドキが止まりま──
「あ、私はいいや」
あ、ばっさりと断っています。一瞬でフラグが折れました。
「ちょっとぉ! それじゃあ舞踏会はどうするのよぉ!」
「出ない」
「ちょっとぉ!?」
脱穀のようなさっぱり具合。お嫌いなんですね、そういうの。それにしても。
「舞踏会って、近々あるんですか?」
「今年は感謝祭の日の夜に舞踏会があるのよぉ」
初耳です。それで今年はやたらと忙しいのかもしれません。
「ライアン王子にリオット王子も参加するけどぉ、紹介があれば一般の人も参加できるのよぉ」
「へええ……」
ロマンチックな響きです。なんて感心していたら、イザベラさんにそっと耳打ちされます。
「……本当はぁ、貴族のお見合いパーティが狙いって噂よぉ」
アマリさんを横目にヒソヒソとお話。なんと、要するに、やんごとなきお方たちの合コンであると。
「……ねぇ、アマリも年頃の乙女なんだから、そろそろ良い話があって良いと思わない?」
「え?」
バチリとウィンクをされます。ちなみにアマリさんはしっかりとした貴族のご家系らしく、やんごとなきお方。
「……そこでね、お友達の貴女も参加して、アマリをサポートしてあげてくれないかしらぁ?」
なんということでしょう。そんな話を聞いては、放ってはおけません。
「それって今からでも私がアマリさんのパートナーってことになりませんか!?!?」
イザベラさんがずっこけました。そんな古典的な。この人、ジャスくんとか見たらどうなっちゃうんだろう。
「アマリさんに似合いそうな服……燕尾服、白手袋、ワンポイントに控えめなタイ付きのブローチでどうでしょう?」
「なんなのよぉ! 絶対に可愛い服を着せてやるんだからぁ!」
ご協力は丁重にお断りさせていただきましょう。どこの馬の骨とも知れぬ男とアマリさんが結婚するなんてもってのほか。
いえ、それもありますが、単純に──
「あの、あの、アマリさん」
「エマ?」
声をかけると首をかしげる姿も、大好き。
「あの、その……」
憧れの人ですもの。いざ誘おうと思うと、案外緊張するものですね。
「舞踏会、私とダンスを踊っていただけませんか?」
稲の葉脈のように真っ直ぐに手を差し出し、実った稲穂のようにぺこりと頭を下げます。これで合っているかは分かりません。ご令嬢の礼儀作法なんて分からないもの。でも、この繁忙期の終わりにちょっとご褒美くらいあったって良いじゃないですか。
さあ──
「ごめん。人が多いから行きたくない」
「一貫してる」
フラれました。
今晩はやけくそで屋台の料理を買い込みましょう。焼きそば、焼きうどん、たこ焼き、クレープ、タコス、ケバブ、祭りに向けて色々なものが売っていました。なんて考えていたら、そういえば納品のお手伝いに来てくれた完全に存在を忘れていたジャスくんが肩をポンと叩いてきました。
「じゃ、俺と踊る?」
「え……」
固まってしまいました。
そういえばこの人王宮職員だった。
「エマっち超足踏んでくれそうでアガる」
一貫してますね貴方も。
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