第10話 不安、そして

 きっかけは、すごく些細なものだった。

 誰もが一度はするような、ありふれた経験。ありふれた挫折。ありふれた現実。

 そんな大きなものですらなく、ただ漠然と感じた不安に、私は飲み込まれた。


 何もなければ、そのままの日常が続いていたんだと思う。

 何も願わなけば、私は今でもここに居れたんだと思う。


 けれど、私は出会ってしまった。

 そして私の未来をゆだねてしまった。


 私は私に向き合わなくちゃいけなかったのに。

 見知らぬ悪魔にすべてをゆだねてしまった。


 そうして私は……


――――――


 3月も半ばを迎えた頃。中学校は卒業式を終えて、高校生となる春までの間。短いようでいて特にやることもなく、私はただなんとなく日々を過ごしていた。もちろん家族にお祝いはしてもらったし、受験であんまりできなかった天体観測をしたり、本を読んだり……一人でそれなりの日常は送っている。けれど、友達の少ない私には、大勢でどこかに遊びに行くなんてものとは無縁だった。それが少しだけ寂しくもあった。


 そんな折に、一件のメッセージが届いた。


『明後日なんだけど空いてる?二人で卒業パーティーしない?』


そのとき私は、誘ってくれるのを待っているだけだったことに気づかされて、自分が恥ずかしくなった。私から誘ってもきっと……、絶対に快諾してくれるであろう彼女に対して、それでいて勝手に寂しく思っていたことに対して、情けなく思った。


 後日、彼女の家の前までたどり着いた私は、静かにインターホンを押した。するとすぐにピッと小さい音が鳴り、ノイズが聞こえてくる。僅かに緊張した私の耳に届いた声は、聞き慣れた声だった。


「今あけるね」


数秒待つと、ガチャっとドアが開いた。


「ごめんねお姉ちゃんリビングで寝ちゃってたから……」


「そーなの?でもあい会えてうれしい。会えないかもって思ってたから」


「私も話したい事とかあったし……そうだ、高校合格と卒業おめでとう、ゆき


「ありがとう。あいもおめでとう」


「…………ありがと。後でお姉ちゃんにも言ってあげてね」


「うん」


「じゃあ……どうしよ」


「私一旦出てた方がいい?」


「いや、先に部屋に行ってていいよ。私はお姉ちゃんを起こしてくるから」


そういってあいはリビングへと向かっていった。私はお言葉に甘えて階段を上り、ここちゃんの部屋へと向かった。

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