第9話 向き合う
「ここはね、今でもよく来るところなんだ」
砂浜を歩きながら
「誰にも言えない悩み事があったとき、ここで景色を眺めながら、いろいろ考えてね。
確かに、それはそう思う。喫茶店からここまで来るのに時間があって、そのおかげで気分が落ち着いてきた。あの場所にいたらずっと同じことを考えちゃって、抜け出すことができなかったと思う。考えても仕方ないことを考え続けてしまうことで、より最悪な想像をしてしまう。
空からくる太陽の光と、海で反射した光が視界に飛び込んでくる。時折吹く潮風が、不思議と心地よかった。髪を洗うとき面倒くさいだろうなあなんて、そんなことを考える余裕もあって、打ち寄せる波を見ながら
「悩み事があるときに海に行くなんて、ベタな話なんだけどさ」
と言葉を発した。振り返った
「自分の悩みはこの大海原に比べたらちっぽけだーなんて、私は全然そんな風に思わないし、だからなんだって話だし……。でも、波の音を聞いてると落ち着くし、それ以上に私にとってこの場所は大切な場所だから、だから悩んでたときはいつもここに来てたんだ」
「大切な場所……ですか?」
「思い出の場所って言った方が正確かな。それに何度もここに来てるから、過去の自分にも会える気がしてね。場所の記憶じゃないけどね。ともかくここは私が自分と向き合うための場所なんだ。だからと言って
過去の自分……。過去の私はいったい何をしていたんだろう。
「
「うん……もう何年も解決できてないの。どうしたらいいかはわかってるんだけどね。自分と向き合うなんて言って、ほんとは逃げ出したくてここに来てるのかも。でも逃げちゃいけないってこともわかってる」
「私は、
「そんなことありません!私が知りたくてお願いしたんです。一人だったら逃げちゃいそうなところを、二人だから前に進めるんです。今はどうしたらいいかわからないけど、それでも
二人とも私の大切な人だから。それに、わからないことをわからないままにしておきたくはない。これはきっと私が向き合わなくちゃいけないことだから。
「強いね、
「そんなことないですよ。それを言ったら
「……私は大人なんかじゃないよ」
そう言った
「ともかく、
神妙な面持ちで
「なんですか?」
「
――――――
そうして私は拭いきれぬ違和感を持ちながら、過去のことを話し始めた。
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