第6話 夢の中
その声は突然聞こえてきた。
「お姉ちゃん」
それは
「ここは夢の中。私はお姉ちゃんの中に少ししかいないから、残念だけど姿までは無理みたい」
「余計なことは気にしないでね、夢の中だからさ。でも全部都合よくってわけにはいかないみたいだから……まあそういうのも含めて気にしない気にしない」
まあそうか、と納得する。夢なんだし考えても仕方ない。ともかく、夢の中だけど
「ねえ
「それって私がどこにいっちゃったか?だったらそれはわからない、かな」
「わからないって……なんで!?」
その質問に
「でも、お姉ちゃんの知らないことはわからなくても、知ってるはずのことはわかるの。だから私は夢に出てきてあげたんだよ?まあ今日まで出てきたくても、出れなかったけど……」
「今日思い出したばっかりのことがあるでしょ?ことっていうか人だね」
「それってもしかしてゆきのこと?」
「そう、でもまだ名前しかわかってないみたいだし……だからヒントをあげる。お姉ちゃんはさ、思い出せない記憶ばっか気にしてるけど、思い出せる記憶もちゃんと振り返ってみてね」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
頭の上でアラームが鳴った。その音で夢から醒める。
覚醒しきらないまま手探りでアラームを止めて、時間を確認する。時計の針は午前9時半を示していた。少し汗をかいているようで、体が熱かった。私はとりあえず掛布団を引きはがして熱を逃がす。冷たい空気に晒されて、汗が冷えるのが心地いい。
反面、目を開けることが億劫で、枕に頭をあずけたまま起き上がることはしなかった。もう少しだけ、夢の続きを見たかった。そのことに思いをはせながら、
思い出せない記憶について……それは9月以降の話だ。学校が始まって、普通に生活していたのは覚えているのに、放課後何をしていたか思い出せない。あの日も、なぜあの公園にいたのか思い出せない。その思い出せない記憶が
――ゆきに繋がる手がかりが、思い出せる記憶にある――
自分が考えていたこととは真逆の解答。その真意はわからないが、ともかく
眠りに落ちるのではなく逆に目が冴えてきて、私はそのまま横を向いて充電しっぱなしのスマホの電源を付けた。 寝起きの目には少し眩しい光が、画面から発せられる。目を細めながら通知を確認すると、
『今日の13時に喫茶Fairyに来れる?』
私はそれに「わかりました」とだけ返信して、 体を起こす。
私は自分の記憶を辿りながら午前中を過ごし、家を出た。
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