第5話 空白の捜索願
「……」
通話は繋がらない。それでも
『もしもし』
通話先から女性の声が聞こえてくる。
「捜索願を見かけてお電話しました。私、
『……』
相手からの返答はない。ただ、少し乱れた息遣いが聞こえてきた。
「単刀直入にお伺いします。あの捜索願を載せた記憶がありますか?」
『……あなたは何か知っているんですか?』
不躾な
「私も調べている途中なんです。知っていることがあったら教えていただきたく……失礼ですがお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
『
「ある人を探しているんです。それがちょっと不可解な事件でして、それで調べているうちにあなたが載せた捜索願を見つけたんです」
捜索願。見つけたのは公園にいた時だ。この地域で起きた失踪事件について、何か
――この人を探しています――と書かれた文字と添付された3枚の写真を見て捜索願だと最初は思った。いや、それは間違いないのだろう。全国の人に見てもらえるSNSで、より多くの情報を得ようとすること自体はありだ。全く関係の無い土地の人に届いても無意味だが、警察に届け出る以外にできるいい方法だと思う。ただその投稿には不自然な点があった。いや、不自然な点しかなかったというべきか、そこにはあるべき情報が何一つとして無かった。
探している人の名前も、顔写真も、年齢も、性別も、身長も、どんな服を着ていたかも、個人を特定するに必要な情報がすべて抜け落ちていた。
3枚の写真はまるで塗りつぶされたように、画像データが壊れてしまったかのように、全体が白く染まっていた。そこに一つだけ残っていた情報が、
「あれは9月10日に投稿されていました。2週間以上経った今でもそれを消していないのには、何か理由があるんじゃないですか?」
『……何かを、いえ、誰かを忘れているんです。あの投稿を消してないのは、忘れたことを忘れないためなんです』
誰かを忘れている。その言葉に
『捜索願を出すほど、私たちにとって大切な人。家族か、親戚だとは思うんです。でも夫に聞いても私と同じで、何かを忘れている感覚だけがあるって言ってて……。思い出せないんです』
――ゆき――
「そうですか……。すいません、最後にもう一つだけいいですか?」
『はい、なんでしょうか?』
「私が今探している子の名前なんですが、
「いいえ、特には……」
「わかりました。こんな時間にすいません、ありがとうございました」
『あの、何かわかったら、連絡していただいてもいいですか?あなた探偵さんか何かなのよね。このまま忘れたままなのは怖くて……』
「はい、何かわかったらご連絡させていただきます」
『ありがとうございます』
その言葉が聞こえた数秒後、通話は切れた。雨足は強くなるばかりだった。
「通話ってやっぱ苦手だな……相手の顔が見れないし……」
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