幕間-1 追憶①

 8月中旬。その日は非常に暑い日だった。天気予報では「気温は30度を越え、全国的に真夏日となるでしょう」と言っていた。車の中では冷房がかけられているため、非常に涼しい。最近流行りのJ-POPを口ずさみながら、お母さんは駅のロータリーに車を停止させた。


 「ありがと、行ってくる」


 ドアを開けて飛びおりる。手に持ったままのカバンを肩にかけてから、私は階段を駆けあがった。後ろからは「いってらっしゃい」というお母さんの声と、スライドドアが閉まる音が聞こえてきた。


 駅のホームで待つこと数分。予定通りにやってきた電車に乗り込む。たった数分外にいただけで汗をかいていた。車内の冷房と扇風機が肌に伝う汗を冷やす。幸いなことに席は空いていた。私は日陰になる端の座席に腰を下ろして一息つく。


「駆け込み乗車は大変危険ですのでおやめください」


 そんな車内アナウンスが流れてからドアが閉まる。外の熱気が遮断されて、ほんの少しだけ涼しくなった気がした。


 電車に揺られること1時間、目的の駅に到着する。車内にいたほとんどの人がこの駅で降りて、私はそれに続いて進。時刻は午後2時20分。待ち合わせの10分前だ。階段を上り切る間に、イヤホンを外してメッセージを送る。


『駅、ついたよ』


するとすぐに、


『私もあと2分でつく!』


と返信がきた。私は『りょーかい』と打ち込んでから画面を閉じる。


 トークの相手は谷村たにむらゆき。中学校の同級生だ。高校の進学先が違っていたから疎遠になっていたけど、夏休みに入ったからと雪ちゃんから誘われた。今日は買い物をした後にカフェでお話する予定だ。


 改札を出て、近くの柱に背中を預ける。どこからともなく聞こえてくる蝉の声に「夏だなぁ」なんて考えているうちに、携帯が振動する。ゆきからだ。


『改札出たけどどこ?』


 私は辺りを見渡してゆきを探す。メッセージを送り返すまでもなく、お互いをすぐに見つける。


「ここちゃん久しぶり、今日あっついね」


手持ち扇風機で髪をなびかせながらゆきが言う。


「ゆき久しぶり、ほんと暑いよね。はやくお店入ろ」


 短く再会を済ませた私たちは、近くのショッピングモールに向かって歩き出した。

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