第46話 女神のお告げ

 勇者一行はフォニアに向けて歩いていく。

 その理由は──


「ノノってあの家から出たことないんだね」

「うん。生まれた時から魔物がうようよしてたから」

「それで人語しか使えない。父親は話せてのだろうが、母親は人間か。確かに必要はないな」

「それとね。悪いエルフさんに騙されないようにって」

「それって過保護すぎない?」

「でも、実際。ハーフエルフを連れて行くと優遇されるそうです」

「え…。怖い。ロージン地区も怖かったけど」


 ということだった。

 そして、仲間たちがノノを取り囲むという過保護さが発揮されている。


「拙者は僧侶故、教えるのは上手いぞ。どうだ。レクチャーを受けてみるでござるか?」

「お前は魔物じゃねぇだろ。今の流れ、全然聞いてないところが逆にすげぇわ」


 ダーマンとレプトはその後ろを歩いている。

 目の前にはダーマンシフト。とは言え、実はコイツはロリコンではない。

 勿論、マリアのような背徳っぷりは好きだが、イザベルに転がされる男だ。


「でも、そういえばモルリアで魔物に囲まれていたもんな。例えば、どんな感じだ?」

「良かろう。まずは尻尾だ」

「ほう。既にツッコミたいが聞いてやる」

「かっかっか。尻尾を振ると喜んでいると言うと思ったろう。それで喜んでいるというのは実は飼い主の方なのだ」


 ん?んん?


「で、他には?」

「グルルやシャーと言っている時、猫なで声を上げている時。その半分は基本的に魔物同士で会話をしている」


 は?はい?いや、ちょっとそんな馬鹿な。


「因みにそういう時はどうするんだ?例えば、良からぬことを考えている場合」

「答えてやろう。魔物が良からぬことを考えている時か。場合によるが、基本的には放っておく。罠であることの方が多い故な」


 鳶色の髪がふわっと浮いた。


「って。あれ?そう。その通り。ダーマン、ちゃんと分かってるのか…」

「当たり前だ。拙者は魔物に面白がられて育てられたのだからな」


 今度は眉がピッと上がる。


「そう…だったのか。そんな話聞いたこともなかった」

「聞かれぬから言わないだけだ。それに基本的にこの話は引かれるからな。お主は魔物と交流がある故に言っただけだ」


 本当に目を剥いてしまう。2周目でも知らないことがあったと驚く。

 アークはレプトが選んだと言ったが、ダーマンに関しては、前のアークが100%選んでいる。

 ダーマンはイザベル登場まで迷惑男、イザベル登場後はただの犬だった。

 アークの記憶を取り戻す為、という理由がなければ連れてこなかった。


 ちょっと気になる奴…だな


「でも、プルには引かれてだろ」

「分かっておらぬな。プルたんは別格だ。何せ、主人に内緒でこちらの家族とやり取りするほど賢い。拙者はプルたんの犬にならせてくださいと頼んだら、ちょっと引かれただけだ」

「って、結局犬じゃねぇか‼…でも、逆にすげぇな」

「そうであろう。プルたんの犬ということはツェペル氏の猫の犬でござる。勝ったようなものよなぁ!」

「お前は…、いや、ありかもしれない」


 馬鹿野郎か‼と言おうと思った。

 だが、確かに‼とも思った。あのプルに飼われるなら逆にありだ。


「マリア、後ろで変なこと言ってるの止めなくていいの?」

「そうですね…」


 そしてマリアが振り向き、彼に問いかける。


「レプトはそのプルさんとどんな関係なんですか?」

「…はい?」

「だって、前に勇者様のお弁当取ったのプルさんですよね?ほら、お手紙沢山くれた時です」

「そういえば、そんなこともあったな。あれはとても便利…、ん?」


 ここで閃き。


「便利って。私はすっごく苦労したんですからね!」

「マリア。それだ。匂い‼」

「へ?どどど、どうしよう。レプトがダーマンさんみたいになっちゃう!」

「何をどう思っているのか知らないけど、さっきまでの話を全部聞いてたマリアには分かるだろ」

「へ?そんなこと…ありますけど。ももも、もしかして」

「そう。もしかして。なぁ、ダーマン」

「くんくんくーんくん。確かにこのツェペル風ミアキャットに香りは…、プルたん‼」


 既に動き始めていたダーマン。

 動き始めていたということは。


「おいおい。そんな丁度良いことがあるか。多くの船が西大陸に逃げていったみたいだぞ」

「そういえば、モルネクで船員とギルが何か話してたな」

「あぁ。俺たちの下船を受けて、西に引き返すことにしたらしい。俺たちも帰るように言われたくらいだ」

「流石にそれはないわよね。その時は当たり前って思ったけど、フォニアがそんなことに…」

「それとプルの話とどう結びつくんだ。見ろ、あの死体を…」


 フォニアに近づくほどに悪臭が漂ってくる。

 いつかも触れたが、魔物方が魔力も身体能力も高い。

 用済みの飼い主や、逃げ出した飼い主がペットに襲われる事件も起きる。

 いくつかの家屋からは尋常ではない煙が昇っている。


「何、これ…」


 フレデリカはその様子を呆然と見つめていた。

 マリアは何とも言えない複雑な顔、リンはトラウマを思い出して怯える。


「…拙者が祈ろう」


 その言葉にマリアもクッと視線を上げた。


「私も祈ります。やはり魔物と人間は…」

「否。人間同士も同じことをする。我々もレプト殿と戦っていたでござる」

「それは飛躍しすぎよ。実際に魔物と手を組んでたし。だけど、…闘技場のこと、レプトに謝ってなかったわね」

「そうだな。王国として恥ずべき行為だった」

「…確かに教皇猊下も見て見ぬフリをしています」

「アレはどう見てもレプトは悪くなかったのにね。結局は魔王軍の…」

「アークまで何を言っている?…俺とアークはその魔王軍とさえ共生を目指してるんだぞ」


 そういえば、そう。当たり前だけど、そう。

 とは言え、よく考えたら言ってない。

 全員が目を剥く。アークも。いや、一人だけは違うか。


「うん。封印前のアークが言ってたよ。レプトと一緒に皆が暮らせる世界を作るって」

「え⁉僕も?」

「そうだよ。だから、一緒に行くって言って良かったって思った…」

「そっか、僕は…」


 封印の後、ノノはアークに懐いていた。

 前もノノはアークに懐いていたから驚かなかったけれど。

 とは言え、勇者様の発言は衝撃である。


「そうなのか、マリア」

「私は知らない…です。目指してるのは封印…と教わりましたし。レプトのハッピーエンドってそういうこと…」


 マリアの目が、瞳が震える。

 今までのレプトの行動にも繋がる。


「でも…」


 日が暮れても、フォニアの街が赤く染まっている。

 静寂に包まれて、炎の弾ける音もして、半壊した街だけど音だけは癒やされる。


「マリアは正教だ。そしてダーマンはモルリア派。ノノはアークの味方、か。で、アークはどうなんだ」

「僕は…。今の僕に答える資格があるか分からない」


 その中で溜息。だけど、大きな深呼吸をして封印された勇者は言う。


「だけどね、ちゃんとここには焼き付いてる。僕は僕の記憶を取り戻すと約束してくれた、レプトを信じてる」


 勇者はそう言った。忘れる前に自分を信じる。

 


「フレデリカはどうするんだ」

「なんで私から?お兄様が先に決めなさいよ」

「いや、分からないんだ。そもそも、どうやって封印するかも分かってないんだぞ。レプト、ここから先を教えてくれ」


 国のことを思う。何が国益かもふくめて。


「でも、予期せぬ事態にもなった。意味があるかどうか」

「いいから教えろ。以前の俺はなんて言った?」


 既にネタバレに価値はない。言っても意味があるとは思えないが。


「ノーラの力を横に置いて話すと、俺達が行くべきはエルフの森と」


 ノノの肩が飛び跳ねる。彼女の手がアークの手を握りしめる。

 だが、気にせずに親友は続ける。


「その後、ドラグーン島に行く」

「ドラグーン島?あそこは不可侵の領域だぞ」

「一応、大聖堂の書物にありますよ。古龍より封印の水晶を受け取るか、エルフの女王より封印の鏡を受け取るか、勇者には二つの道がある、と。知られていない理由はドラグーン島へ渡ると生存率が一気に低くなるからです」


 火山と氷山の島、ドラグーン島。


「それなら行く必要はないな。だが、エルフが魔王軍についたとなると行かざるを得ないのか」

「でも、エルフの森も今までの不可侵だったんでしょ?ね、マリア」

「その筈です」

「それなら、どうして昔の人はドラグーン島に言ってたのかしら」

「こないだ途中まで話した。今の時期、エルフは発情期を迎える」


 予習、復習のため。一応は説明しておく。

 ノノの前でする話?いや、一応は十六歳。


「は、発情⁉」「なんと、発情でござるか⁉」「発情って何…」「ううん、分からない」と、なるがエルフの習性を話すと皆納得した。


「それを十年、二十年。下手をしたら五十年くらい引き伸ばされるらしい。上手く子作りをやめさせるか、交渉力が必要だな。説得できなければドラグーン島」

「なる…ほど。人口を増やすのは国力に繋がる。それを止めろというのは難しいな」

「それに有名な勇者は皆、若くしてドラグーン島に渡っています。それ故、有名なのです」

「確かにドラゴンを退治したなんて絵本、沢山あるもんね」

「ううむ」


 だけど、この予習に意味はない。

 これは封印するためのルートだ。


「悩んでるとこ悪いんだけど、今回は関係ない。その二つを巡り、二つの種族に認められた後、世界の理を変えられる女神の光剣が現れる」


 歴史上、一度も登場しない剣。

 大いなるネタバレ。


「何を言っているのです、レプト。…でも、本当なの、ですね?」


 コクリと頷く。遠い道のりに、レプトさえ呆然とする。

 アークとの約束。その為にも。


「ギルガメット、フレデリカ、ダーマン、リン、ノノ、マリア、そしてアーク。…歴史に登場しない。何度もこの言葉を使ってる」


 ここでこのワードが出る、ということは、と皆息を呑んだ。


「オズワルドからアークを取り戻すには、オズワルドと同じく創世記の遺物が必要なんだ。だから、ここまでは前回の冒険をなぞらえようと思う。…他に良い作戦がある、って思ったら教えて欲しいんだけど…」

「知っているとしたら、アークなんだろう?だが、アークの記憶は奪われたまま」

「他に知ってる人間に心当たりないの?」


 あまりの無茶振り。王子と姫は聞いていないぞと言いたい。


「拙者でも分かるぞ、姫殿。人間にそのような長寿はいないで御座ろう?」

「アークは知っていたんだろう?だが、その記憶は奪われた。だったら俺達の代は封印でもいいんじゃないか?」

「人間じゃなくていいから、誰か知ってる人に!人じゃないけど」

「エルフは知らない。知っているとしたら、古龍くらいだな」

「って、結局ドラグーン島に行くしかないじゃない!」


 話し合い?いや、余りにも突飛すぎる話のせい。

 マリアは自身の髪を見つめる。

 自分の髪の色が剥がれ落ちた理由。

 自分がアリスの生まれ変わりというのは飛躍し過ぎているから、横に置く。

 アリスに見捨てられていないのなら、アリスの意志と考える事が出来る。

 レプトを贔屓目で見ていないかと、何度も自分に問い掛けるが、それは流石にもう遅い。


「待ってください。ちゃんと順を追って話を…」


 この会話をしている中、ノノがとととっと歩いて、とある誰かの手を握った。

 空のような水色の髪、そしてその少女の視界いっぱいに、ノノの白い髪が広がる。


 真っ白に染まる。そして——


     □■□


「ゴメンなさい。もう…、誰も死なせたくなくて…」

「レプトさんも心配してますよ。今も外で心配そうにしてます。私の回復魔法が遅れてたら本当に危なかったですよ‼」


 夢…、もしくは洗脳?

 勇者がとてもキラキラしている。弟のように見える。でも…


「あのね、マリアさん。僕、言わないといけないことが…あって…。大事な…話…」

「え、えと。大事な話…ですか。その…、私に?レプトさんやギルガメット様が外で…」


 どういうわけか、この中の私は少なくとも勇者様を大切な異性だと思っている。

 16歳くらい?もうすぐ17歳くらいかもしれない私の手を、勇者様は思い切り引いた。

 抱き合う二人。抱きしめ合う男女。


「ご、ゴメン。そんなつもりじゃなくて…。でも、マリアさんには言わないとって」


 勇者が何かを打ち明けようとするタイミング。

 修道女の少女は何を思ったか、突然言い放った。


「私も…アークに言いたいことがあるの」

「マリア…さん?」

「一番心配してるのは私。…だって、私はアークのことが好き。愛しています、アーク。女神との誓いを破ってでも、私は貴方を…」


 小さな家で若い男女が二人、しかもベッドの上。


「ゴメン。マリアさん。僕はマリアさんを妹にしか見れない」

「え…?いや、それは流石に。どちらかというとアークが弟…って感じだし」

「ううん。そうじゃなくて、僕はスライムの生まれ変わりなんだ」

「…え⁉スライムってあのモンスターの?」

「マリアさんは女神さまの声が聞けるんだよね…。僕のことを聞いてるんじゃないかって…。だから、マリアさんに話しておかなきゃって…。その…えっと、好きとかそういうのは、だから良く分からなくて…」

「わ、私は…、その…」

「あ、マリアさん…」

「つ、伝えてきますね。アークが目を覚ましたことと、それから…スライムだった…ことも…」


 そして、マリアは目が点になった。

 もう一人のマリアは見るからに落ち込んでいる。

 意味の分からないことを言われて、フラれたと落ち込んでいる。

 アレが勇者の優しさだと、違う理由で落ち込んでいる。

 そんな言い方じゃ絶対に伝わってない。

 理由を知っているから、見ていて本当に恥ずかしい。


「これはサービス。この理において、本来のアナタが知る筈もなかった世界。無かったことにされた世界」


 振り返ると、そこにはノノが立っていた。

 いや、ノノということは、やはり彼女、か。


「ノノではない。貴女はアシュリー。もしくは女神アリス…。その声はなんとなく覚えています。今更、何ですか。こんな映像を見させる為ですか?私を辱める為…ですか?」


 レプトの言った通りではなく、現実ではないかもしれないけれど、もっと恥ずかしいフラれ方をしていた。

 義理の妹だからって理由も伝えられず。いや、フラれて逃げてしまったから、聞きそびれたのかもしれないけれど。


「今は実の娘ではないが、それでも娘にそんな目を向けられると、流石に私も堪えるな」

「娘…。やっぱりレプトの言ったのは事実…。分かってはいたけれど、本当に巻き戻った世界…」

「正確にはことわりのみが巻き戻った世界ね。ノーラはそこには含まれない。ノーラの時間は戻っていないの。ノーラについてのお勉強は出来ているわよね?」

「混沌の力。元々の世界の力…」

「そう。流石の私も丁寧に二つに分けることはできなかったわ。それ故、残留物は亜空へと捨てたのだけれど、まさかオズの残滓を使ってここまで戻ってくるとはね。私もここまでは予想できていなかったの。だから、久しぶりに女神のお告げをしようと思ったってこと」


 よく見るとイザベルにも似ている。ノノとイザベルの間。

 だけど、決定的な違いがある。彼女の髪は白銀もしくは灰色。

 それ以外、顔や形はそっくりだが。


「今更ですか。もっとタイミングは会ったと思いますけれど?」

「そんなこと言わないで。私だって何が起きたか調べていたの。どこかの世界の言葉だったかしら。ジャネーの法則というものがあってね。長く生きていると時間の進みが早いの。それに今までだって、勇者を選んだあとにお告げなんてしたことないし」

「え?確かにレプトが一回もなかったって話してたけど…」

「だって、毎回毎回記録取ってるから、私の出る幕ってないでしょう。それが何度繰り返されたと思っているの。結構前から飽きてたわよ」


 なんか、女神のイメージと全然違っていた。

 そういえば、彼も正確には神ではないと言っていたけれど。


「飽きるって…。で、でも。やっとお告げを下さるのですよね」

「そうね。流石に相手が相手ですもの。オズワルドの残滓、それがアリスとエリスの力を吸って、元の形に戻ろうとしている」

「やはり理より前の英雄が蘇ったのですね」

「そ。だから勇者に伝えなさい。オズはオズでも残滓の方だから気にせずにやっつけなさいって。アリスちゃんもそうしなさい」


 そこでマリアの両眼が剥く。眉がピクッと動く。

 暫く、理の神であり、自分の母だったというアシュリーを見つめる。


「それじゃ、頼んだわよ。ア・リ・スちゃん」

「へ?いやいや、違いますよね?」

「それはそうだけど、私の中ではやっぱりアリスちゃんだわ」


 ここがどこか分からないけど、マリアもしくはアリスの右足がトンと地面を蹴る。

 両の拳がブン!と振り回される。


「私の事はどっちでもいいんです!!オズワルドはアシュリー様の旦那様なんですよね⁉だったらアシュリー様が、どうにかして下さいよ!」

「はぁ…。アンタの父親でもあるのだけど。そういう話じゃなさそうね」


 白銀の女神はそう言って、トンッと自身の胸を叩いた。

 そして肩を竦めて、はぁと息を吐く。


「私を構成するのもノーラ。だから、私が介入すると本当に世界がぐっちゃぐちゃになるわよ。というわけで、あとは宜しく。この子のことも頼んだわよ。お姉ちゃん」


     □■□


「え、わたし。なんで、マリア様の手を握って」


 マリアは目を剥いて、ノノの小さな手を離した。

 つまりアレこそが女神のお告げ。

 ということで。


「マリア、お前どうした。ノノの手を握ったままぼうっとして」

「一時間くらい動かなかったから、心配してたのよ」

「もしくは女神のお告げだろうともな。十分に考えられる」

「アシュリー殿の子孫でござるからな」


 どうやら神の時間に巻き込まれたらしい。

 そして、皆も律儀に待っていたらしい。

 勿論正解で。


「女神様、アシュリー様の言葉…。オズワルドを倒せ。アレはオズワルドであってオズワルドじゃないって…」

「よく分からないけど、やっぱ倒さなくちゃ、なのか。ってことで、俺が言う道しかなさそうだな。…ん?マリア?」


 レプトの言った通り。封印とか以前に、アレをどうにかしないといけない。


 それは分かってるんだけど?それはお告げなんてなくても、なんとなく分かってたけど?


「疲れたのだろう。何処かで休むか…」

「そ、そうよね。女神様とのコンタクトって疲れそうだし…」

「ひ…、アーク。手を握ってて、いい?」

「うん。ノノも疲れたよね。何処かで休もっか」


 水色の髪が、何かの化け物のようにクネクネと浮かぶ。

 もはや隠す必要もない変わってしまった髪。


「マリア、穏やかじゃない顔してるけど。もしかして他にも…」


 彼の顔。そこで漸く、マリアの力が抜けるのだが。

 レプトの手を握り、皆の後を歩き出す。


「レプト、もしかして知ってたの?」

「アークほどは知らないよ。だってアークに教えてもらったんだし」

「そ。それじゃあ、前を歩くあの子の前世は知らない、と」


 力強く握ったから、少年の脈も何となく分かる。

 それがトクンと強く打った。顔は見なくても分かる。引き攣っている。


「え…。それは一応教えてもらったような、…もらっていないような」

「いいのよ。レプトは全然悪くないんだから。私は理の女神に物申したいだけだし」

「そ、そか。まぁ、…あれだ。何ていうか、仕方なかったんだ」


 最初の映像いる?

 途中のは、確かに必要な知識かもしれないし、ノーラの力のせいで手が出せないって話も分かる。


 だけど、最後の言葉って要る?


 つまり


「私は、負けヒロインだったってこと⁉」

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