西へ東へ
第6話 二手に分かれて
物音と話し声に
「お風呂場は? ベッドの下にもいなかった?」
飛び起きて一緒に必死に探し出すルウにランが小声で「なんでお前が張り切るんだよ?」と問う。
「ラン
ルウはチラとフィンの様子を伺って声を潜め、ランの腕を引っ張って部屋の隅に移動した。
「この町までビビを連れて来たって言うし。なんか人の言葉が分かるみたいに行動してるっぽいとこあるじゃん? あんな賢い猫、あたし絶対欲しい!」
興奮気味に力説するルウをランは小馬鹿にした目で見やった。
「幾ら賢くても所詮はただの猫だろ? それよりビビを手懐ける方が得だと思うけどな。衣食住が
「でも十八になったらその恩恵は受けられないでしょ。あの子、チビで馬鹿っぽいから幼く見えるけど多分あたしとそんな歳変わらないと思うよ? だからさ賢いペットの方が狩りの役に立つし、絶対あの猫欲しいっ」
「あれが十五歳前後か? どう見ても十歳くらいだろ。恩恵が無くなったって魔法だけでも商売できるんだから老後も安泰だろうが。それにお前はハンターだろ。ペットなんか欲しがるなよ」
ランの説得にルウはむうっと頬を膨らませた。
「そんな顔してないでさっさとビビを手懐けて来いよ」
指で頬をツンと指されたルウはランを突き飛ばし、「口が上手いラン兄がやれば?」と言い放って部屋を出て行った。
その背を溜息交じりに見送ったランは「記憶のないビビか」と呟き、ニヤリと笑んだ。
小一時間程宿と宿周辺を探し回ったフィンとルウだったがレオの姿は見つからず、フィンは悪い想像を始めた。
「狼に食べられちゃったのかも……」とフィンが呟くと「この辺に狼は出ないよ」と宿の主人が慰める。
「小鳥を追いかけて迷子になっちゃったのかも」と呟けば「この町まであんたを連れて来たって言うのが本当なら迷子になるなんてあり得ないんじゃない?」とルウが励ます。
「誰かの猫ちゃんと間違えられて連れて行かれちゃったのかも」と呟くと「あんな目つきの悪い猫、間違えるかよ」とランが笑う。
「それより魔女に会いに行こうぜ。俺達もずっと旅に出てる訳にはいかないんだ。弓売るのが本職だからさ。二カ月後には一旦家に戻らないといけないんだよ。魔女が何処にいるかも分からないんだから探して会いに行かなきゃいけないんだぞ? ここで高が猫如きを探し回って時間を無駄にしたくないんだけど?」
苛立った声を上げるランにフィンはしゅん、と俯いた。
ランの言うことが
そんなフィンを見てルウがニヤリと笑んで両手をパンッと叩いた。
「あたしが探すよ」
勢いよく片手を挙げたルウは次いで仁王立ちになって胸を張った。
「あたしはハンターだからね。動物を探すのは得意なんだ。だからあたしが猫を探しに行くからラン兄とフィンは魔女を探しに行って。猫を見つけたら合流すればいいでしょ?」
あたしって頭良い、と自画自賛するルウにフィンは小首を傾げる。
「でもどうやって合流するの?」
「鳩を飛ばすんだよ」
「鳩?」
「そう。あたしとラン兄も旅の途中で二手に分かれることが時々あるんだ。落ち合う場所が決まってない時は鳩を飛ばすの。鳩の足に地図とか括り付けてさ」
「鳩さんも言葉が分かるの?」
「そうじゃなくて訓練された専用の賢い鳩がいるんだよ。どの町にもいる訳じゃないけどこういう宿場町の郵便屋には必ずいるからな。他に連絡手段が無いことも無いが手紙を除けば一番安価なのが鳩だな。それでもそれなりに高いけどな」
「お金……持ってない」
「ビビから金を取ろうって大人はいないよ。だから今回は一番良い鳩にする。ま、この町に置いてあるかどうか分かんないけど」
鳩にもランクがある。
伝書鳩は鳩の帰巣本能を利用した連絡手段だ。
だから基本は片道だけ、つまり決まった場所に送るだけしかできないのだが往復できるように訓練した鳩や移動する旅商人の元へも届けられる鳩もいる。
片道、往復、移動先と三つのランクがあり、それによって値段も変わるし、扱っている町も限られる。
鳩以外の鳥もいるのだが置いている町はあまりない。
今回の場合は移動するので一番高い鳩が適している。
だがかなり高額なのでランは使ったことがなかった。
でも今回はビビのフィンがいる。
衣食住しか無料にはならないのだがフィンの事情を話せば同情を買って安くできる自信がランにはあった。
「よし、じゃあ俺達は魔女を探しに行こう。猫はルウに任せる」
「うん! 任せて!」
そう言って兄妹は互いにニヤリと笑んで宿を後にした。
フィンとランは
二人と別れたルウはすぐに森へ向かわず、ビビの証書を手に買い物を始めた。
町を出てしまえば証書は紙屑同然になってしまう為、旅支度をしておこうと密かにランと決めていた。
一方、ランは僅かな食料のみでほとんどの荷をルウに渡して身軽だった。
とてもこれから魔女を探す旅に出るとは思えぬ装備だったが世間知らずのフィンは特に怪訝に思うこともなく、町を出て平坦な道を歩いていた。
魔法士が集まる町なら私を知っている人が一人くらいいるかもしれない。
フィンがそんな期待に胸を膨らませている横でランは時折空を仰ぎ、何かを待っていた。
太陽が真上に上がる頃、そろそろ昼食を摂ろうとランが提案しようとした時、馬が数頭こちらに向かって来るのが遠目に見えた。
近づいて来るに連れて馬上の人影に不穏なものを感じたランはフィンの手を握り、来た道を引き返すように走り出した。
「どうしたの?」
「盗賊だ。あそこの茂みに入るぞ」
相手は馬だ。茂みの奥までは追って来れない。
そう考えたランだったが茂みに飛び込んだ直後、後ろに強く引っ張られ、掴んでいた手を離してしまった。
振り返るとフィンの細い首に男の太い腕が回されていた。
「この髪は染めてるのか? 地毛か?」
フィンを捕まえた男が金を見るような目つきでフィンの髪を触る。
背が高く筋肉質で体格の良い男の背後には三人の男達がいた。
背が低く太った男、背は高いが痩せた男、そして背は平均的だがかなりの筋肉質な男。
いずれもその顔には笑みが浮かんでいる。
「ビビを殺せば極刑だぞ?」
ランが声を張ると男達は笑った。
「本物なら殺す訳ないだろ。幾らでも金になるのに。殺すとしたら……」
そう言って背後にいた筋肉質な男が一歩前に出て来たのでランは一歩後退した。
「だめっ。やめてっ」
フィンが叫びながら男の腕を振り解こうと藻掻く。
「お前はこいつの兄か? 他に家族は?」
男が一歩近づく度にランも一歩後退する。
「うちは大家族でね。町でもビビの面倒を見て貰ってる」
ランがそう言うと男達はまた笑った。
「天涯孤独の記憶喪失のビビ」
フィンを捕まえている男のその一言にランのそしてフィンの動きも止まった。
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