第3話 タイムリミットだ、万事休す!
「筆頭侯爵の浮気相手は、正妃様、貴女です」
筆頭侯爵の夫人が指さしたのは、国王陛下の正妃であった。だから、王族を指さすのは、マナー違反だって……
「「えー!」」
驚きで、部屋が揺れた……ような気がした。
「君たちは、会場に戻りなさい、もう時間だから」
王弟殿下が、同級生の令嬢たちを退出させようとしている。
「これから面白いところなのに」
ぶつぶつ言いながら、同級生たちが出ていった。
扉を出る時、私に向かって笑って小さく手を振ってきた。私も笑って手を振り返した。
王弟殿下が扉の内カギをかけた。筆頭侯爵の夫人が立ち上がる。
「皆さん、聞いてください。この男は、私と結婚の話が進んでいるのに、正妃と浮気していたんです」
「この第一王子は、正妃と筆頭侯爵の間に出来た子供です!」
衝撃的すぎる、これは王国を揺るがす大スキャンダルだ。
「何を証拠にして、私を侮辱するのですか?」
赤毛の正妃は、落ち着いているように振る舞っているが、手に汗をかいてるのか、さっきからオシボリで拭いている。
「側妃様の証言があります」
「え? 私の……」
金髪の側妃が不思議がっている。
「結婚式の後、侍女に漏らしましたよね、国王陛下は子供の作り方を知らないって」
「よく調べましたね……」
「その侍女は、変装した私ですから」
夫人は、話を続けた。
「さらに、内緒で、血筋の検査をしたのですよ。第一王子の父親は、国王陛下ではなく筆頭侯爵という……残酷な結果でした……」
最後は涙声だ。夫人は、このことを十八年間、心に押し込めて生きて来たのか。
「どういうことだ?」
第一王子がとぼけた事を言った。自分の一大事を分かっていないらしい。
「第一王子と筆頭侯爵の令嬢は、異母兄妹だということだ」
王弟殿下が簡単に説明した。
「異母兄妹?」
「異母兄妹は、法律で結婚できない事は、知っているか?」
「へ? 一大事じゃん」
やっと理解したようだ。でも、本当の一大事は、これからだ。
みんなが国王陛下のほうを見る。彼の次の言葉で、王国の未来が決まるからだ。
「国王として宣言する」
「ひとつ……筆頭侯爵家を取り潰す。私財、領地は王家が直接管理する」
これは当然だ。筆頭侯爵たちは、平民に落ちて路頭に迷うが、親戚が裏で助けるだろう。生きていればだが。
「ふたつ……正妃とは離婚する。外交問題を配慮して自国へ帰す」
ということは、この状況を隠さず、何らかの形で公表するということだ。大スキャンダルで王国が揺れる。ということは、王太子を第二王子、または第三王子に決める気か。
今日の結婚式の後に、王太子を発表する予定だったから……
あ~! 私の結婚式が始まっちゃう。どうするのよ、これ……
「みっつ……全ての王子を廃嫡として、爵位を二階級下げる」
これは想定外だ! 王子たちの後ろ盾になっている貴族たちを含め、勢力図が大きく変わる。大混乱になるだろう。
国王陛下は、予想される混乱に、どう対応するつもりなのだろう。
側妃は、内政に長けているが、第二王子を失って、力が急激に落ちる。どうするのだ?
「フランソワーズ嬢、私の後妻になってくれないか、もちろん、正妃だ」
「「えぇ!」」
両家の親族たちが、一斉に驚いた。
私も驚いたが、頭の中で、色々と計算するほうを優先した。
年の差はあるが、正妃の座は魅力的だ。
結婚式の開催まで、もう数分しかないが、ここで国王陛下と結婚すれば、体面が保てる。
でもいいの? フランソワーズ! 貴女には、ずっと好きだった男性がいるよね……
今なら、手を伸ばせば、彼を捕まえられるよ……どっちを選ぶの?
「決めた! 私は……」
「ウゥ……」
突然、国王陛下が胸を押さえて崩れ落ちた。
「持病の心臓だ、急いで医者へ!」
彼が、テキパキと指示を出した。扉の内カギを開けて、係員を呼ぶ。
私の結婚式はどうなるの? もう時間がない!
「新郎新婦の入場の準備が出来ましたが……」
式場の係員が、恐る恐る私に声をかけてきたが、聞きたいのは私だ!
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