第2話 残り二十分なのに新郎が見つからない


「どうだろう、ここは第二王子と結婚することで、収めてもらえないか?」


 国王陛下が私に提案してきた。


 私が第二王子と結婚すれば、この王国と、私の王国との絆は、表面上は保たれる。

 第二王子の婚約者が第一王子へ乗り換えたので、彼はフリーな状態だ。


 ここまで、私は、ほとんど声を出していない。周りが勝手に話を進めて、蚊帳の外だったが、やっと意見を言えそうだ。


 私の両親も、話し合っている。これは、私を売るつもりだ。

 まぁ、第二王子は頭もいいので、妥協するかと、彼のほうを見た。


 ん? さっきの自分の婚約者が乗り換えた時より、明らかに動揺している。

 なぜか、チラチラと第三王子のほうを盗み見ている。何か怪しい。



「私たちは、学園の第二王子被害者の会の者です」

 え? さっきは第一王子って言っていましたよね。


 さっきとは別の同級生の令嬢が、第二王子のほうを見た。第二王子がビビっている。


「第二王子様は、婚約者様の他に、愛人様がいらっしゃいます」


「ヒィ!」


 第二王子が訳の分からない声を上げた。


「第三王子様、申し訳ありませんが、後ろの席に座っている令嬢と、抱いている赤子を紹介して頂けませんか?」


 同級生の令嬢は、なぜか第三王子に声をかけた。

 第三王子は、国王陛下の愛人の子であり、亜麻色の髪で、まぁまぁのイケメンである。

 第二王子と同様に濃い青色のエンビ服だ。


 ちょっとした事件を起こして、婚約者との間に赤子を授かっている。


「こちらの令嬢は、僕の婚約者だ。抱いているのは、ちょっとした偶然から授かった、僕の娘だ。可愛いだろ? もうすぐ僕らも結婚式を挙げる予定なんだ」


 婚約者も亜麻色の髪だが、赤子は金髪で可愛い。

 ん? 第三王子の婚約者の顔が、青ざめている。


「その可愛らしい赤子の父親は、貴方ですね、第二王子様!」


 同級生が、ビシッと第二王子を指さした。いや、王族を指さしてはマナー違反ですから!

 え? 第三王子の赤子の父親が第二王子……まさか。


「学園女子の情報網を甘く見ないでください。貴方が、むっつりスケベなこと、バレていますから。これが証言を記した告発状です」


 同級生が、紫色の風呂敷に包まれた菓子箱を、ドンと机に置いた。


「か、彼女の幼い感じが、僕のド・ストライクだったんだ、彼女と結ばれたい気持ちは、今でも変わらないんだ」


 第二王子が落ちた。第三王子の婚約者も、うなだれて、認めている。


 第二王子は、ロリコンが趣味……いや、好みだったのか。なるほど、私は大人っぽいので、寄ってこなかったわけだ。



「なんてことだ、僕はだまされていたのか。これだから、若い女は嫌なんだ」


 第三王子が頭を抱えている。一年間もだまされていたというのは、可哀そうだ。


「第三王子様が、悪いのです」

 第三王子の婚約者が、声を絞り出した。


「不貞を働いた女が、何をほざく!」

 第三王子が荒れた。


「僕の妻を侮辱するな、僕らは知っているのだぞ!」

 第二王子が不貞令嬢をかばった。ここだけ切り取れば、男らしいのだが。

ん? 妻って、私は蚊帳の外らしい。



「お前は、筆頭侯爵の夫人のツバメだろ!」

 ツバメ? 年上の婦人が愛する、若い令息のことですよね。


「ゴクリ」

 静けさの中、誰かが唾を飲み込んだ。


「第三王子被害者の会からの報告では、二人は領地視察と偽って、温泉に宿泊旅行しています」


 同級生の令嬢が口火を切った。


「ウソです、ホテルに泊まった証拠などありません」

 クリ毛の夫人が否定した。


「上級ホテルにチェックインした後、一般ホテルに移って密会しています。宿泊名簿を調べて下さい、お二人の偽名は、ロミオとジュリエットです」


 同級生が畳み込んできた。


「そ、そこまで!」

 夫人の言葉は、自白したも同然だった。



「離婚だ、お前とは離婚する!」

 筆頭侯爵は激怒したように……いや、芝居だ。彼は、何か隠している。


「貴方が、先に不貞を働いたからでしょ!」

 夫人が、ブッ込んできた。これを世間では修羅場と言うらしい。


「何を言う、いや、何も言うな、ここではマズい!」

 筆頭侯爵は、ずいぶんと動揺している。


「貴方の浮気相手は……」


「やめろ!……」



 今日は、私の結婚式だよね?

 もうすぐ、式が始まるのに、なんで、新郎の親族席が、修羅場になっているの?


 あ~、式の開始まで、あと二十分、招待客が入場する時刻になった!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る