結婚式一時間前なのに婚約破棄された令嬢の周りはザマァにまみれて追放される
甘い秋空
第1話 結婚式一時間前なのに修羅場が始まった
「私は、フランソワーズ嬢との婚約を破棄する」
ここは大聖堂の一室、結婚式前の両家の顔合わせで、新郎の第一王子が宣言した。
新郎は、真っ白なエンビ服を着た赤毛のイケメンだ。
学園のモテ男だが、成績が良くないところが唯一の欠点である。
結婚したら、この王子を上手く操って、王国を牛耳ろうと思っていたが、彼は予想以上に頭が弱かった。
顔合わせとなってる大きな部屋は、長机を並べ、両家の代表十名程度が向かい合っており、親族はざわついている。
「これから結婚式ですよ? 冗談はやめて下さい」
ざわつく室内を、なんとか静めようと頑張ってみたが、無駄なようだ。
私は、友好国からの留学生だ。次期国王との政略結婚のため、この王国に留学してきた。
真っ白なウエディングドレスをまとい、自慢の銀髪を結い上げている。
「いったい、どういうことだ?」
暗い赤色のエンビ服を着て、司会進行を買って出た筆頭侯爵夫妻が、第一王子に訊く。
いや、第一王子の脇に立つクリ毛の令嬢「自分の娘」に困惑したのだ。
「私は、この令嬢と結婚する!」
「え?」
この驚きの声は、私ではなく、筆頭侯爵が上げたものだ。
私は、この政略結婚に乗り気ではなく、個人的には婚約破棄でかまわないとさえ思っている。
第一王子は正妃の子であり、次期国王と目されている。
そのため、彼に意見することが出来る者は、王族以外にいない。
「……」
筆頭侯爵が黙り込む……というか、あわあわと、うろたえている。
「ちょっと待って下さい、兄上」
第二王子が割って入った。
金髪のまぁまぁなイケメンである。濃い青色のエンビ服を着用している。これは、公爵相当と認められた証拠の色だ。
学園での成績も良く、将来は、新しい国王を支える片腕になるだろう。
彼には、既に、筆頭侯爵の令嬢という婚約者がおり……あれ?
「横に立つ令嬢は、筆頭侯爵様の令嬢ですよね?」
「そうだ」
「そうだ……じゃないでしょ! 彼女は僕の婚約者ですよ」
私も、第二王子の婚約者は、筆頭侯爵の娘だと教えられている。
「それは、さっきまでの話だろ。今は私の花嫁だ」
第一王子は得意げである。
向こうの親族席を見ると、国王陛下は驚きで固まっているし、正妃はうろたえている。
第二王子の母である側妃は……何か別の事を予想して、マズいぞという顔になっている。
「隣の令嬢の意志は確認したのですか」
第二王子が食い下がる、というか確認をとった。
「もちろんだ」
第一王子は横の令嬢を抱き寄せた。令嬢は、彼の胸に顔を埋め、そして第二王子のほうに顔を向け、ニヤリと笑った。
「私は、第二王子様よりも、次期国王と目される第一王子様に恋してしまいました」
令嬢の言葉に、第一王子もニヤリと笑った。
さっきから、王弟殿下が部屋を出たり入ったりしている。
彼は独身であり、婚約者もいないので、自由に動けるようだ。
黒髪で濃い紫色のエンビ服をまとっている。
クロガネ様は、この王国での私の後見人であり、唯一の味方である。
「私の結婚式は、どうなったのですか!」
ついに、私がキレた。式が始まるまで、もう一時間しかない。
「そうですよ、我が国から招待客たちが来ているのです、昼からの結婚式まで、もう時間がないのですよ!」
私の両親も声を荒げた。でも、私のことより、招待客たちへの体面を気にしているのが、残念だ。
「ご歓談中、失礼します」
この女性の声は……
王弟殿下が扉を開けると、私の同級生の令嬢たちが入ってきた。
留学してからの数カ月で仲良くなった、頼りがいのある仲間たちだ。
もちろん、一時間後の結婚式に招待している。
「私たちは、学園の第一王子被害者の会の者です」
え? そんな会があったのか。
「そこの第一王子様からのプロポーズを受けた学園の令嬢たちが、花嫁姿で、この大聖堂に押しかけていますので、この場に案内してもよろしいでしょうか?」
同級生の令嬢が、大きな声で、ハッキリと聞こえるように言った。
部屋が、静まり返った。
「ちょっと待て! 彼女たちは追い返せ、この部屋に近づけてはならない」
第一王子が焦っている。
「そうです、あの令嬢たちは負け組なのです」
筆頭侯爵の令嬢も焦っている。
「第一王子がプロポーズした令嬢は、何人だ?」
王弟陛下が第一王子へ質問した。彼は、学園の理事長も兼務している。自分の目の届かぬところでの不祥事だが、あまりの事に、あきれている。
「え、え~と、7名かな」
「私と、フランソワーズ嬢を入れて、ちょうど十名です」
筆頭侯爵の令嬢が答えた。
「その令嬢たちの中に、良い子はいないのですか?」
正妃が第一王子に尋ねた。
「正妃様、私は、この令嬢と最高に気が合うのです! この令嬢と結婚します」
また令嬢を抱きしめた。ダメだこれは……
「私は、こんな浮気者の男とは、結婚しません!」
私は、両家の親族を前に、結婚式の時間が迫っている中、破談を宣言した。
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