第二十六話 主天使の間
次の日。
朝早くに起きた俺たちは、朝食を食べると、早急に物資の補充を行った。
そして物資の補充を終えると、直ぐにダンジョン探索を始める。
「はっ はっ はっ!」
最初の時でさえ、割と順調に探索できたのだ。
二度目ともなれば、それはもう楽勝と言うもの。
だが、油断は禁物。
常に警戒し、迅速確実に探索する。
そう思いながら、俺は襲い掛かって来たクリーチャー共を、最低限の動きで確実に仕留める。
「リヒトさん。着きました!」
「おし。早いな」
そのかいあってか、僅か2時間ほどで”聖杯の祭壇”に辿り着いた。
まあ、ここまではぶっちゃけ前座みたいなもの。
ここからが本番だ。
「シャリア。ここからは、しっかり魔法で補佐して欲しい。実力的には大丈夫だろうけど、初見の場所だし、ここからは罠も出て来るから……さ」
「そうですね。ちゃんと警戒して、行きましょう」
俺の言葉に、シャリアはそう言って力強く頷く。
頼りになるなぁ……シャリアは。
そう思いながら、俺は小さく口に弧を描いた。
その後、俺たちは少しだけ休憩を挟んでから、部屋の中央にある聖杯の下へと歩み寄った。
「えっと……確か、手を翳して念ずるんだったかな?」
「そうですね。ただ、移動先は沢山ありますので、バラバラになってしまわないように、せーので行きましょう」
「だな」
シャリアの言葉に、俺は短く頷くと、黄金の杯に手を翳した。
僅かに遅れてシャリアも、動揺に杯に手を伸ばす。
「じゃ、行こうか」
そして、互いに軽く見やると――
「「せーの」」
俺たちは、この先へ行くことを念じた。
直後、地面にほんの一瞬だけ展開された魔法陣の光に当てられたかと思えば次の瞬間。
「ここは……?」
俺たちは、別の場所へと転移していた。
なるほど。これが転移をする感覚か。
若干の浮遊感はあったものの、特段何か感じる様なものでは無かったな。
そう思いながら、俺は周囲の状況を確認する。
今、俺たちが居るのは先ほどの”聖杯の祭壇”と同じような、円形ドーム状の部屋。
4方向にそれぞれ続く道があり、天井には焔を纏い、純白の翼を持つ天使の絵があった。
「……なるほど。”主天使の間”……か。”聖杯の祭壇”に戻れる唯一の場所――”生命樹海”から、転移場所の中では1番距離がある場所だと聞いているが……」
「そうですね。ここを初見で引くのは、運が良いと言うべきか、悪いと言うべきか……」
「普通に悪いと思うんだけどな……」
「ですよね……」
俺たちはそう言うと、顔を見合わせて、深くため息を吐く。
まあ幸いと言うべきか、”聖杯の祭壇”から直で来れる場所である故、全体的に見たら大体中の上ぐらいの探索難易度。
初見という不安はあれど、乗り越えられないとはさらさらと思っていない。
無理だと思ったら、勝てる勝負も勝てなくなるからな。
そして、その気持ちはシャリアも同じようで、気を強く持っているように見える。
「……よし。取りあえず、”能天使の間”まで言って、そこにテントを立てよう。その後は、体調や物資と相談しつつ、やれるだけ探索して帰る。……で、いいかな?」
「そうですね。ここからは、私もしっかりと活躍できるように頑張ります!」
俺はここで冷静に、これからの予定について考え、提案する。
それに対し、シャリアはそう言って、杖を握る力をぎゅっと強めるのであった。
そして、俺たちは歩き出した。
向かう先は当然、”能天使の間”へ最短距離で行ける、正面の道。
数段強くなった魔物や、いくつもの罠がひしめく危険地帯――そこへ俺たちは、迷う事無く足を踏み入れるのであった。
「……少し、通路が広くなったな」
「そうですね。動きやすい反面、魔物が横に広がって一気に来ますので、各個撃破がしにくくなってますね」
そんな会話をしながら、俺たちは道幅がさっきまでの倍ぐらいになった道を、ただひたすらに進み続ける。
やや不規則な格子状となっているこの道は、方向さえ合っていれば基本的に目的地に着くため、先ほどと同様、迷う事はまずいない。
すると――
「「「「ウォーーーーー」」」」
低く唸るような声を出しながら、4体の魔物が姿を現した。
呪われたかのように黒い騎士鎧を身に着け、騎士剣を携えた、焔のような瞳のみをフルフェイスの兜から覗かせるこいつらは――
「リビングアーマーか。シャリア」
「はい!【氷の槍よ、彼方へ飛べ。穿て、穿て】!」
視認した俺は、即座にシャリアへ声を飛ばす。
その声にシャリアは、一瞬の迷いも無く頷くと、詠唱し、氷の槍を放つ。
「ガガガガッ!」
「グガガガガッ!」
放たれた4本の槍は、各リビングアーマーのチェストプレートを穿ち、大きく欠損させる。
先手必勝。出てきた直後にやるのは、定石だ。
だが、流石はCランクの魔物――あれでは倒れないか。
シャリアに追撃を仕掛けて貰えば倒せるだろうが、そのペースで魔力を消費するのは、流石にマズい。
「俺がやろう」
そう言って、俺は氷槍で怯んだリビングアーマーへ一直線に迫ると、欠損した部分に剣を刺し、そのまま横なぎに振るう。
「ガ、ガ……」
「ガ、ァ……」
それにより、纏めて2体のリビングアーマーが、存在を保てなくなって粒子と化す。
「「ウォー!!!」」
だが、2体を俺が仕留めた後隙を突くかのように、残る2体が両側から剣を振り上げて襲い掛かって来た。
聞いてた通り、ある程度剣術の心得もあるようで、中々に鋭い剣筋だ。
だが――
「無駄だ。【血よ、穿て】」
俺が速射で放った血の槍が、欠損したチェストプレートを完全に破壊する。
これにより、存在を保てなくなった残る2体のリビングアーマーは、さっきの奴らと同じように、粒子となって消えていくのであった。
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