第二十二話 王都ダンジョン攻略開始

 王都へ到着した次の日も、前日同様に王都イリオンの散策――そして、足りない物資の調達を行った。

 それでも王都全ては流石に不可能だが……必要な場所は全て回る事が出来たので、良しとしよう。

 また、物資もだいぶ減っていた保存食を始め、魔石灯などのダンジョン探索で必要なものを追加で買い集めておいた。

 ダンジョン関連の物資は、テレンザよりも王都の方が、ずっと充実していたからな。

 そうして色々と準備をしつつ、やっと迎えた今日。

 俺たちは、王都イリオンを東に向かって歩いていた。

 向かう先は当然――


「ダンジョン探索……楽しみだな」


 そう、王都のダンジョンだ。

 王都の地下に広がる、巨大な遺跡――そこへ、ようやく行ける。

 何だか胸が高鳴って来るよ。


「そうですね……ですが、浮かれて死んでしまわないように……っと。リヒトさんに言う事では、ありませんね」


「そうだな。言われずとも、常に身の安全は心がけている」


「そう言う意味では……いえ、何でもありません。それより、どのようにして本日から、ダンジョン攻略を進めて行くのですか?」


 何故か微妙そうな顔をされながらも、そうもっともな問いが投げかけられる。


「ああ、そうだな。そこら辺は、きちんと決めておかないと」


 そう前置きをしてから、俺は言葉を紡いだ。


「今日は、取りあえず日帰りで行けるところまで行こう。どこまで行けるかは、実際に見てみないとやはり分からないが……ダンジョン内にある最初にして最大のキャンプ地点がある場所――”聖杯の祭壇”まで行けたら、上出来かなと思う。明日以降は……まだ決められないかな。数日単位での小探索をしようかとは思っているけど……」


「そうですね。私も、それが一番無難な方針であると思います」


「ありがとう。なら、それで行こうか」


 俺は内心で、シャリアと同じ意見で良かったなぁと安堵の息を漏らしながらそう言うと、引き続き先へと向かって歩き続けた。

 そして、宿から20分程歩いた所で、ようやく目的の場所へ辿り着く。


「おー……やっぱり、人が多いな」


「そうですね。ですが、それなりに朝早くという事もあってか、目を見開くほどの人数ではありませんね」


 冒険者ギルドに似た建物に入った俺たちが目にしたのは、しっかりとした装備に身を包んた多くの冒険者。

 それと、地下深くへと続く螺旋階段であった。


「ここで準備を整え、下にあるダンジョンへと向かう……って感じだな。シャリア、一応ここでも確認していくぞ」


「そうですね」


 出発前に一応確認してあるが、これから向かうのは撤退が難しいダンジョンの中――万が一の事態が起こる可能性は、可能な限り減らしておきたいのだ。

 そうと決まればと、ある程度部屋の奥に向かった俺たちは、そこで荷物の確認を始める。


「では、確認しましょう」


 基本的な荷物は、全て後衛を担当するシャリアが背負うリュックサックの中にある。

 本来であれば、俺自身も物資を持たないと持ち切れない量だが、空間拡張機能のお陰で、余裕を持って持てている。

 これは本当に、空間拡張様様だな。

 そう思いながら、俺たちは中のものを確認し始めた。


「携帯食料1週間分、各種回復薬ポーション……瓶も割れていないな」


「テント、ロープ、苦無、革袋……これらも大丈夫ですね」


「そうか。で、手入れ用品や地図もあって、この辺も揃っているから……よし。やはり、足りない物は無さそうだな」


 そうして足りない物が無いかの再確認を終えた俺たちは、漁った荷物を元に戻すと、下へと続く螺旋階段の方に目をやる。


「じゃあ、行こうか」


「そうですね、行きましょう」


 そして俺は、逸る気持ちを抑えながら、シャリアと共に長めの螺旋階段を下って行くのであった。

 螺旋階段は、やがて建物にして5階分ほど降りたところで終わり、下の薄暗い空間に辿り着く。


「本当に遺跡……って感じだな。こうして見ると」


「そうですね、リヒトさん」


 俺たちの目線の先にあったのは、左右に伸びる古びた石柱――そして、奥にある石造りの門であった。

 あの石柱、一見直ぐに崩れてしまうように見えるかもだが……驚くべき事に、Aランク冒険者でも破壊は困難な代物らしい。

 だからこそ、こうして今もダンジョンの入り口を支える柱や門として、機能しているのだ。


「おいおい。ダンジョンに行くってんなら、俺たちと一緒に行こうぜ?」


「そうそう。こんな貧弱そうな奴なんかよりよ」


 すると、まるでお決まりとでも言いたげな感じで、ガラの悪い……というよりかは、チャラめの男たちに絡まれた。

 面倒な……


「いえ、結構です。リヒトさん、行きましょう」


 それに対し、シャリアはきっぱりと断った。

 だが、男たちは何故かそれで引かない。


「そうだぜ。こんな貧弱そうな――」


 そう言って、謎に1人が俺の腕を掴まえ、引き上げて来る。

 だが、肉体改造を施した俺を前に、その程度の力で太刀打ちできる筈も無い。

 体格も、見ればそう大差無いぐらいだからな。


「……あ、あれ?」


 引き上げるどころか、動かす事すら一切できない事に、男は困惑の声を上げる。

 それに対し、俺はこれ幸いとその腕を素早く掴み返した。

 そして、口を開く。


「これ以上やるなら……容赦しないぞ?」


 威圧感なんてほぼ皆無な俺だが、実力の差を分からせる程度なら可能。

 そこに、なけなしの威圧をぶつけてみれば――


「あ、ああ……な、なら大丈夫だな」


 このように穏便に解決する事が出来る。

 力づくでの解決は、割と面倒な事になる事が多いので、可能であればこのような穏便に済む解決法で行きたいものだ。

 そう思いながら、ダンジョン前の列に並んだ俺たちは、そこで受付を済ませる事にした。


「これをどうぞ」


「お願いします」


 順番が回って来た俺たちは、そこで受付の職員にDランク冒険者であることを示す冒険者カードを見せる。

 実力が低い――または、余りにも身元が怪しい人は門前払いを受けてしまうのだが、2人とは言え流石にDランクあれば十分だろうし、それで身元の問題も大丈夫な筈だ。


「……はい、問題ありませんね。それでは、お気をつけて」


 すると案の定、攻略の許可が下ろされる。

 よし、これで中に入れるぞ。


「シャリア、行こう」


「はい。行きましょう」


 こうして俺たちは、ダンジョンの中へと向かって入って行くのであった。

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