第十九話 知り合いの宿
「……それで、リヒト、シャリアさん。マジで助かりました! ありがとうございます!」
「「ありがとうございます!!」」
トラディスさんが去った直後、俺たちはエーナス、ディオ、トゥリスの3人から礼を言われた。
自業自得から生まれたらしい、金欠事件であったが、こうして終わって見れば、トラブルは全然無かったな。
シャリアも言ってたが、楽な方に流されやすいだけで、本質はいい人なのだろう。
「まあ、結構ラク出来たし、護衛についても色々と教えてくれたから、文句は一切無いよ」
「はい。私から言いたい事は、二度と同じような真似はしないで頂きたい……ですね」
そう思いながら、俺はそんな言葉を口にした。
そしてシャリアは、忠告の言葉を3人にする。
「はい。もう同じような事はしません! 迷惑は……こいつら以外に掛けません!」
「おい、なんでだよ! ……まあ、だったら俺も」
「うん、俺も」
すると、3人は口々にそんな言葉を言ったのだ。
うーむ……今回みたいに、第三者に迷惑を掛けるつもりが無いのなら……いいのか?
仲間内でも、度合いにはよるが、迷惑はかけない方がいいと思うんだけど……
でもまあ、3人共そう言うのなら、やっぱいいのか……な?
仲がいいのか悪いのか……よく分からない3人を前に、俺は内心困惑の思いを紡ぐ。
「……リヒトさん。気にしたら負けですよ。あれなら、問題ありません」
すると、俺の内心を察してくれたのであろうシャリアが、どこか同情するような顔をしながら、優しくそんな言葉を口にした。
「そうか。シャリアがそう言うのなら……まあ、大丈夫か」
シャリアの眼は、何度でも言うが俺なんかよりもずっと確かだ。
なら大丈夫なんだろうと、俺はその事について考える事を止める。
すると、丁度向こうも言い合いが済んだようで、エーナスがやや落ち着いた口調で口を開いた。
「じゃ、俺たちはもう行く。ギルドより先に、親に顔見せとかないと、うるさいんだよな。……あ、俺たちは王都が拠点だから、困ったことがあったらいつでも聞いてくれ。ある程度の知識や、酒場で流れる噂なんかには答えられるんで」
「ああ、分かった」
そして、彼らは冒険者ギルドとは別の方へと、去って行くのであった。
「……うん。まあ、色々あったけど、これで護衛依頼は終わったな」
「そうですね。長いようで短いような、そんな10日間でした。では、私たちは早い内に依頼完了の報告をして、宿を取りましょう」
「だね。日が出ている内に取らないと……王都じゃいい場所は直ぐ埋まるだろうし」
こうして護衛依頼を終えた俺たちは、その報告をするべく、冒険者ギルドへと向かって歩き出すのであった。
「……おー流石は王都のギルド。大きいなぁ」
数分後。
眼前に立つ、大きな冒険者ギルド。
それを前に、俺はそんな声を漏らした。
「人口が多いですし……何よりここが、ヒラステ王国の冒険者ギルド本部ですからね。大きく無いと、体裁的に駄目なんです」
「身も蓋も無いなぁ……」
そして、見も蓋も無い事を言うシャリアにそうボヤきつつ、俺たちは中へと入った。
「そこまで並んで無いな」
中は、広い事もあってかそれなりの人数がいる筈なのに、あまり多いようには見えないな。
そう思いながら、俺たちはそのまま一直線に受付の列へと直行する。
そして、そう待つことなく俺たちの番が回って来た。
「依頼の完了だ」
そう言って、俺たちは冒険者カードと、先ほどトラディスさんから受け取った羊皮紙を、受付嬢に手渡した。
「承知しました。では、確認いたしますので少々お待ちください」
2枚の羊皮紙と冒険者カードを受け取った受付嬢は、そう言って書かれている内容と、手元の書類の確認を始める。
「……はい。確認が取れました。では、報酬金7万セルになります」
やがて、確認が取れた受付嬢はそう言って、冒険者カードと一緒に報酬金として銀貨7枚を、俺とシャリアにそれぞれ手渡してくれた。
「では、依頼お疲れ様でした」
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございました」
こうして報酬金を受け取った俺たちは、受付を後にすると、そのまま冒険者ギルドの外に出るのであった。
「で、次は宿だな。いい感じの所を探して、取ろうか」
「そうですね。ここでしたら、いい宿を知っていますので、そこへ向かいましょう」
「おーそれは助かる」
シャリアは元々、ここヒラステ王国の貴族令嬢だったのだ。
なら、その中心である王都の事は詳しかろうと内心納得しながら、俺はシャリアに案内されるような形で、宿へと向かった。
「ここです、ここ」
やがて、そう言ってシャリアが指差すのは、大通りから1本外れた場所にある、こじんまりとした宿だった。
冒険者ギルドから近い割には、何とも落ち着いた雰囲気が漂っている。
シャリアらしいチョイスだ。
「穴場……って感じなのかな?」
「はい。冒険者は、向かうとしても反対側の通りですからね。ここには、余り来ないのです」
そう言って、シャリアはドアノブに手を掛けると、中へと入った。
そして俺も、そのすぐ後を追うように中へと入る。
「……おや? シャリアさんですか。お久しぶりですね」
中へ入ると、落ち着いた雰囲気を持つ壮年の男性が、シャリアにそう声を掛けて来た。
シャリアの事を知っている人なのか……
その事に、俺は内心目を見開かせる。
「はい、エグニアさん。ご心配をお掛けしました」
「ははは……本当に心配しましたよ。ですが、貴女なら生きているだろうと……そんな、何の根拠も無い思いも、抱いていましたがね」
そんな中、2人はそんな実に和やかな会話を交わす。
すると、ここでシャリアが俺の方を向いた。
「エグニアさんは、嘗ての実家で執事長をやっていた方です。引退した後は、ここでひっそりと宿を経営しています」
「そうなのか……」
これはまた随分と、シャリアとの繋がりが深そうな人だなぁと思いながら、俺はその情報を咀嚼する。
すると、そんな俺を見かねたようにエグニアさんが口を開いた。
「今は、ただの宿屋の主人です。そう難しく考えなくていいですよ。……して、泊まりですか?」
「はい。2部屋を、一先ず1か月ほどお願いします」
そう言って、金を支払うシャリア。
俺も、1歩遅れて自分の分の金を支払う。
「ありがとうございます。では、201と202をお使いください。ごゆっくりどうぞ」
金を受け取ったエグニアさんは、そう言って静かに奥へと去って行くのであった。
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