第十八話 王都イリオン

 いくつもの街を寄りながら、1日、また1日と経過していき。

 気づけば、もう王都イリオンまであと少しとなっていた。

 そしてその間、エーナス、ディオ、トゥリスの3人はと言うと――


「気合い入れるぞっ! はあああっ!」


「グギャアアア!!!!」


「死ね――【魔力よ炎の弾丸となれ、穿て穿て】!」


「「「グゲギャアアア」」」


 ある時は、魔物を一気に殲滅し。


「シャリアさん。野営の準備、終わらせました!」


「シャリアさん。荷物お持ちしますね!」


「……ええ。それはどうも……」


 またある時は、俺たちの手伝いをして。


「じゃ、俺は馬のお世話をす……」


「ヒヒィン!」


「ぶげっ!」


 そして、トゥリスが馬の世話をしようとして蹴飛ばされたりもした。

 10日間、しっかりと動いてくれたこともあってか、魔石の分け前を相当増やすという考えは最後まで変わらず、トラディスさんも本気で依頼料の引き上げを考えたりと、かなり良好に話も進んだ。

 こうして、あれ以降特に代わり映えの無い道中ではあったが、ようやく到着だ。


「おお……あれが王都イリオンか」


 遂に見えて来た、王都イリオンを囲う巨大で堅牢な城壁。

 それを馬車から若干身を乗り出すようにして眺めながら、俺は思わずそんな声を漏らす。


「お~反応がなんか子供っぽいな~リヒト」


 すると、頬杖を付くエーナスが、そんな言葉をぼやく様に零した。

 それ、なんかグーラたちにも言われたな。

 そんなに新しいものを見た俺の反応って、子供っぽいのか?

 そう内心疑問に思いながら、ふと横に居るシャリアの方に目線を向ける。

 そして、こくこくと小さく頷いた。

 ……解せぬ。


「……もう着くか」


 そんな事を思っていたら、あっという間だった。

 気付けば、遠目から見ていた城壁は、見上げないと上が見えない程になっている。

 すると、ゆっくりと減速し、やがて止まる馬車。

 前を見てみれば、そこには多少の馬車の列が出来ていた。


「流石は王都と言うべきか、入る人も多いんだな」


「そうですね。人口はテレンザの約6倍。国の施設も多々ありますので……今日は全然少ない方ですよ。まあ、時間帯が時間帯ですしね」


 シャリアはそう言って、少しだけ西に向かった太陽を見やる。

 へー……これでも短いのか。

 あのテレンザでさえ、混んでいる時間帯に多少の列を見る程度だったのに。

 まー見た感じ、テレンザよりも若干検問に時間が掛かっているから、それも関係してきそうだな。

 そんな事を思いながら、待つこと十数分。

 ようやくこの馬車の番が回って来た。


「はいはーい。あー護衛の兄ちゃんたちの荷物も、一応チェックするぞー。あと、身分が分かるやつを出してくれると助かるー」


「はい、分かりました」


 どうやら王都の検問は、やはりテレンザよりも厳重なようだ。

 そう思いながら、俺は衛兵に言われた通りに荷物を確認させ、更に身分が分かる物――冒険者カードを提示する。

 冒険者カードに書かれているのは名前とランクだけなのだが、それでも無いよりは全然マシとの事。

 その後、数分程そこで検問を受けた俺たちは、特に怪しまれるような物を持って無かった事もあってか、それなりにスムーズに通過する事が出来た。


「……ふぅ。ここが王都……か。賑やかだな」


 北門を抜け、中に入った俺は、眼前に広がる光景を見て、思わずそんな言葉を漏らす。

 先ほどよりも反応が少し控えめなのは、エーナスに指摘されたばかりで、少し恥ずかしかったから……だ。


「……ふふっ」


 すると、横でシャリアが口元を抑えて仄かに笑う。

 おい、それ何を見ての笑いだ?

 確かに俺は結構疎いけど、だからと言って全く分からないという訳では無いのだぞ?

 そう思っていると、シャリアが俺の方を見てニコリと笑う。

 ……うん。やっぱいいや。

 そうして思考を放り出すと、再び王都イリオンの景色に意識を戻す。


「……やっぱ、本当に人が多いな」


 まず言いたい事と言えば、やはり人が多い……の一言に尽きる。

 シャリアも行っていたが、冒険者の街として栄えるあのテレンザの比にならない程の数。

 そして、この広い大通りの先に見えるのは、ヒラステ王国の象徴とも呼べる、王城アーモス。

 白を基調としたその城は非常に大きく、そして美しかった。


「あと……あれが、王都大結界か」


 続けて目に入るのは、王都を覆うように展開されている巨大な透明の結界。

 テレンザにもあった、龍脈石によって展開された物――だが、こっちの方が遥かに強力なものとなっている。


「……さて。では、これにて依頼完了ですね。こちらの紙を、冒険者ギルドへ出してください」


 すると、ここで御者台から降りたトラディスさんがそう言って、俺たちに羊皮紙を手渡していく。

 なるほど。依頼内容とか色々書かれているが……これを提出すればいいって事か。

 そう納得しながら、俺はその羊皮紙を丁寧に丸めると、一旦シャリアが持つリュックサックの中に入れた。

 無くしたら大変だからね。


「あと、こちらもどうぞ。追加報酬です。皆さんよく頑張ってくれましたからね」


 その後、そう言ってトラディスさんが手渡してくれたのは――銀貨2枚。

 それを5人に渡すとなると、10万セルと、中々の金額だ。

 これは本当にありがたいな。


「ありがとうございます! トラディスさん!」


「ありがとうございます! マジ神です!」


「これでなんとかなります! ありがとうございます!」


 刹那、一斉に地に頭が付きそうなレベルで頭を下げるエーナスたち。

 その恥も外聞も無い礼に、道行く人がギョッとしているが……それは言わないで上げよう。


「俺にもくれて……ありがとうございます。トラディスさん」


「礼を言わせてください。ありがとうございます、トラディスさん」


 そして、そんな3人に続くようにして俺たちも、そんな礼をするのであった。


「いえいえ、よく働いてくれましたからね。では、私はそろそろ行きます……また会いましょう」


 そう言って、トラディスさんは馬車を走らせて去って行った。

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